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結局、俺は昼食の後に熱が上がってしまい、本はお預けとなった。
そして今、
「はあー…。う゛ー………」
俺は大いに暇を持て余している。
鍛える事も柔軟体操もダメ。……そもそも用を足しに行く以外はベッドで大人しくしていろと、しつこい位に釘を刺されてしまったので、本当に何もする事がない。
「はぁぁ………暇だ」
『前』は熱など出した事もなかったので、目は覚めているのにベッドで横になっているだけ、というのは想像以上に辛い。
おまけに熱の所為で本までお預けになってしまったのは更に痛い。
まったく…つくづく軟弱な身体だ。
この身体ではまともに剣も振れないだろう。
「剣……か」
この体躯ではいくら鍛えたところで剣に振り回されるのがオチだ。
かといって短剣の様な物も捕まってしまうリスクが高い。
「…う〜〜〜〜〜む」
格闘系は以ての外だし………
やっぱり、
「弓、か?」
う〜ん。しかし、それだと接近された時に対応出来なくなる…………
となると、
「やはり…刀しかないか」
東方に伝わる物で珍しい物ではあるが、手に入らない訳ではない。
「もう一つやる事が出来たな」
刀が手に入れば、この体躯でも鍛え方によっては剣で戦うのと同じか、素早さならば剣を上回る事も出来るかもしれない。
中々課題が多い身体だが、伸び代がある、という意味では少しは楽しめそうだ。
夕方になりすっかり熱も下がった俺は、漸く本を手にいれる事が出来た。自分が生きていた時代の物も持ってきて貰っていたので、まずはそれから読み始める事にした。
しかし、結果としてその『作業』は非常に困難を極めるものになった。
何故ならば……
パラ…パラ…
「う゛〜〜〜〜」
パラ…パラ…
「あ゛〜〜〜」
先程から少し読み進めてはこめかみを押さえ、そしてまた少し読むと今度は頭を抱える。という事を繰り返しているのだ。
おまけに読み進めるに連れ徐々に眉間のシワが深くなっている様にも見える。
それは決して彼が読書が苦手だからという理由ではない。問題なのはその『内容』である。
「〜〜〜〜〜ッも〜ダメだッ…なんだよ…誰だよ…これ。…こんなの『俺』じゃねー……」
本に書かれている俺は、それはもう…これでもか、という程に美化して書かれていた。
確かに俺が今まで何をしてきたか、という点に関してはかなり正確に書かれていると思う。が、人物像に関しては完全に別人の様になっていた。
「…なんだよ、この『常は陛下の側で柔和な笑みを浮かべ周囲を虜にし、一度戦場に出れば、視線だけで大軍を動かし、まるで戦神の如く戦場を支配する』って。出来ねえよッ…ってか出来る訳ねーだろ!んな事。出来たらスゲーよ!」
……………つまり、ガッツリ美化して書かれている自分の英雄談を読む事が、非常に居た堪れなかったのだ。
こんな調子では全く作業が進む筈もなく、只管精神攻撃を受け続けた俺は、既に頭も上げられない程に疲れ切っていた。
とりあえず、俺は頑張った。
だから、もう良いと思うんだ。
という訳で、明日から本気出す!(きっと)