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「……………ま」
んー………煩い……
「ルーベンス様」
んー…?
ルーベンス?……………誰だ?それ。
そこまで考えて、漸く目を開けた。
…もしかしてルーベンスって『コイツ』の名前か?
「…寝ておられるのですか?」
「……いや、今起きた」
どうやら自分はうたた寝をしていたらしい。
「夕食の準備が出来ましたが、如何なさいますか?」
言われてみれば確かにお腹が空いている。
「ああ、頂こう」
「畏まりました」
セバスのその言葉と共に扉の向こうにあった気配が遠ざかる。…おそらく食事を取りに行ったのだろう。
明るかった筈の外がいつの間にか完全に日が落ちて暗くなってしまっていた。
俺はどれだけ寝てたんだ…?
思ったより自分は疲れていたらしい。そういえば最近は野営場で寝泊まりする事が多かったから、ベッドで寝る事自体久々だ。
俺はベッドの上で軽く伸びをしてから、着替えをしようとベッドを降りる。学園の制服のまま寝てしまった為に少しシワになってしまっていた。俺は心の中で使用人に謝ってから、続き部屋になっている衣装部屋を覗く。
そして
二度見した。
……………。
「な…んだこの悪趣味な服は」
……………。
「な…んだこの悪趣味な服は」
覗いた衣装部屋は一言で言うと、派手…の一言に尽きる。
「うわ…なんだこれフリルだらけじゃねーか。こっちも…ってこれ全部そうなのか!?」
(マジかよ……)
「これを……着るのか…?」
俺はもう一度派手派手しい衣装達を見る。どう考えても全て自分の身体に合わせて作ったであろう衣装…
「……………………最悪だ」
絶望した。何とういか、今世最大に絶望した。マジでこれ着るくらいならマッパの方が断然マシだ。
いっそ着ないという選択肢も…………え?だめ?
いや…でも…うん、もう着なくても良いよな。
…………は?それは人としてダメだろって?
……え…だってこれ着るの?…………。
………………………。
余りに混乱した末の脳内会議によりマッパの案は棄却され、衣装の中でなるべく地味なものを選び着ておく、という無難な案に落ち着いた。
しかし、この問題は早急に解決しておかなければならない。
早急に、だ。
暫くして、セバスが運んできてくれた料理を黙々と食べていたが、ここでふと気づく。
「そういえば、この家の人達に会えていないが、俺はこの家に世話になる身だ、一度挨拶をしておきたいのだが…」
「必要ありません」
「いや、しかし…」
「今後も会う機会などないと思いますので気にする必要はありません。……ああ、けれど二日後に旦那様がお戻りになりますのでその時に話す機会もございましょう」
二日後…か、
「ありがとう、それじゃあその時に礼を言わせて貰うよ」
「…………。」
「それと…」
「なんでしょうか?」
「……あの衣装部屋の服なんだが……全部処分しておいてくれないか?」
「………………………と言いますのは?」
「あの服は自分が公爵家にいた時に着ていた物だ。今の自分には不相応だと思う。…だからあの服を全て売ってそのお金で今の自分に合う物を揃えたい」
うん。ま、何事も物は言いよう、だな。
「……………畏まりました。明日にでも商人を呼びましょう」
セバスは俺に何か言いたそうにしていたが結局何も言わず、食事が終わった皿をテキパキと片付け部屋を出て行った。
「あ。」
そういえば、この国の歴史とかが分かる本とか頼めば良かったな。
そうすればこの国が俺の知ってる『あの』国のその後なのかどうかも分かるだろうし。『陛下』のその後も分かる…かもしれない。
………………。
「………はぁ」
分かっている。あれを言ったのは『陛下』じゃない。
………言われたのも、『俺』じゃない。
分かっている…
けど、もう…二度と味わいたくはないな………
もし……もし『陛下』が生きていたら……俺と会った時、どんな顔をするだろうか
もしも、信じて貰えなかったら……?
その時俺は……
「あ゛ぁ〜〜〜やめやめ!そもそもそんな簡単に会える訳ないし。考えるだけ無駄無駄」
考えるだけ深みに嵌っていきそうになる思考を無理やり振り払って、今後の事へと思考を移す。
『今の自分に出来る事をする』これは自分がよく部下に言っていた言葉だ。
今の自分に出来る事。それは…
①この40年分の歴史を把握する
②この屋敷の主人と会い彼が俺に何を求めているのかを見極める
③服の調達
④この軟弱な身体を鍛える
とりあえず③は明日にも何とかなりそうだな。
④は今日から室内でも出来る訓練をしていくか…
ぐだぐだ考えてても良い方向になんか進む訳がない。
考えるより動け。
自分はそうやって生きてきた。