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次の34話で第1章は完結します(^^)
そこまでは今日中に投稿する予定ですので、お付き合い戴けたら嬉しいです。
第2章からは書き溜めがないので1日1話を目指してやっていきたいと思います。
バフッ………
屋敷に戻った俺は着替えもせずに自室のベッドに倒れ込む。
「はぁぁ…………」
疲れた。
思い掛けない形で叶った国王との初会合は、想像した以上に俺の精神をガリガリ削るものだった。
口調は崩していたが、綺麗な笑顔を完璧に整えたその顔は、完全なる『王』の顔だ。
あの一見優しそうに見える笑顔の奥で、俺がどの言葉でどんな反応を示すのかを探っている様だった。
優しいだけで『王』は務まらない。
だから仕方が無い事とはいえ、こっちだって疲れるものは疲れるのだ。
「はぁぁぁ………」
そうして、もう何度目かになる溜息を吐く。
マトゥン子爵領……か。
俺がもっと早くにこれが『レウ』の仕業だったと気づく事が出来たのなら…子爵が全てを失う事は無かったかもしれない。
結局、俺は子爵を『不幸』にする事しか出来なかった。
はぁ………
これでは『前』と同じでは無いか。
人の不幸の上で成り立つ『英雄』。…いや、今の方が酷い。今の俺は誰の利にもなる事もなく、人を巻き込んで不幸にしてるだけだ。
子爵の他の家族は…?もし居るのならどうなるのだろうか…?
ああ………吐き気がする。
俺は何故…何の為に、他人の身体を乗っ取ってまで『此処』に来てるんだ?
俺は唯……皆が少しでも幸せで居てくれたら…死なずに済んでくれたら…それで良かったのに。
確かに、子爵は殺される事はなかった。
けど…死なないだけでは駄目だったのだ。
はぁ………
上手くいかないもんだ。
嘆いても仕方がないと頭では分かっていても、つい考えてしまう。
コンコン…
控えめなノックの音に意識が現実に引き戻される。
しかしどうにも答える気になれず、無言を貫いていると、
「ルーベンス様、お身体の調子が優れないのですか?」
と、セバスが静かに訪ねてくる。
「いや、……そういう訳じゃない」
否定はしてみたものの、やはり声に元気がないのが分かったのだろう。
「中に、入らせて頂いても構いませんか?」
と聞いてきた。
「…………………ああ」
中に入ってきたセバスは手にポットを持っており、手際よくお茶の用意を始める。ふわりと香る匂いがいつもと違う事に気付きベッドから顔を上げる。
「それ…」
「はい、いつもの茶葉を湯ではなくミルクで煮出してあります。身体が温まれば少しは心も落ち着くのではないでしょうか?」
そっと差し出されたそれは確かに身体がとても温まりそうで、無言で受け取り口をつける。
そうして半分ほど飲んだところで、フゥ…と息を吐き出した。
セバスの言う通り、身体が温まったら少し気持ちも落ち着いた様な気がする。
「ありがとう。とても…身体が温まった」
「それはよう御座いました」
セバスも笑顔で頷いている。
「セバス…」
「はい、何で御座いましょう」
「子爵の事なんだが…」
俺の言葉にセバスの顔が少し曇る。
「………お聞きに、なられたのですね」
「ああ」
「現在旦那様は奥様の生家の方へ身を寄せられております。…旦那様は酷く後悔し、謝っておいででした。お嬢様から真実を聞かされて、漸く本当の意味で『間違い』に気付いたのでしょう」
彼らは最初から『被害者』などではなく、『加害者』であったという事に。
「しかし、元を正せば俺が巻き込んでしまった様なものだ。俺に関わらなければ」
「ルーベンス様。それはあまりに傲慢な考え方に御座います」
自分の所為だと言う俺の言葉を、遮る様に告げられた言葉は意外な言葉だった。
「……傲慢…なのか?」
「はい、レウの件に関しても、ルーベンス様「が」レウに巻き込まれたのではありませんか。そして、その作られた『悪評』をお嬢様が利用し、旦那様はそれを確認もせず信じ込んだ。…これでもご自分が悪いと言い張るのですか?向こうから関わってくる事まで全て自分が巻き込んだなどと言うのは傲慢にも程があります」
「そう………かな」
そうかもしれない…………
けど、こんな自分でも救えるものがあるかもしれないと思ったんだ。『復讐』に染まっていた子爵を引き戻す事が出来たのならば、少しでも『前』の罪を償えるのかもしれない、と浅はかな事を考えていた。
結果は、なんの事はない。子爵に全てを失わせただけだった。
「俺は…無力だな。人一人救う力もない」
「……………」
セバスはじっと俺の言葉を聞いていた。そして、
「ルーベンス様。そう思うのならば、これから学んでいけば良いのです。人を救う術を。それとも、ご自分は無力だからと最初から諦めてお終いになりますか?」
と少し咎める様に言った。
最初から……
そうだ、俺はまだ始めたばかりではないか。なのに上手くいかないからと言ってすぐに諦めてしまうなど、確かに傲慢な考えだったのかもしれない。
「俺でも人を救える様になれるだろうか」
「それはルーベンス様次第でしょう」
決して安易に出来るとは言わない。だが、それでいい。
「そうだな。…………ありがとう。セバス」
先程まであった吐き気も、いつの間にか落ち着いていた。
子爵領の事、学園の事、問題は山積みではあるが、結局は自分に今出来る事をする。という事に変わりはない。
どうなるかは分からないが、………やるしかないか!




