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 到着したのは、マトゥン子爵邸よりもひと回りは大きいお屋敷だった。


 この屋敷はマトゥン子爵邸とは違い、馬車のまま敷地内に入れる仕様になっているらしく、俺は馬車を降りる事なく正面玄関まで来る事が出来た。


 玄関前には既に数人の使用人が待ち構えており、馬車が止まると同時に馬車に階段が設置されゆっくりとドアが開けられる。


「お待ち申しておりました、ルーベンス様」


 執事らしき人物が、馬車から降りた俺に深く一礼をする。


「出迎えご苦労、案内を頼めるか?」


「勿論でございます。どうぞこちらへ、中で旦那様がお待ちです」


 そう言って歩き出す執事の後に続きながら、


「此処には何も聞かされずに来たのだが、此処はどなたのお屋敷か聞いても良いのだろうか?」


 と質問した。


 それを聞いた執事は足を止めこちらを見る。


「それは大変失礼致しました。慌てるあまりそのような事も失念しておりましたとは。此処はこの度ルーベンス様の養父となりましたトーマス・ネヴィル伯爵の屋敷に御座います。お帰りなさいませ、お坊っちゃま」


「…養子と言っても形式的なものだ、…坊っちゃまは止めてくれると有難いのだが…」


 流石にお坊っちゃま呼びはどうかと思い、俺が拒否すると、


「それは残念で御座いますね。ではルーベンス様、旦那様の元へご案内致します」


 とあっさりと執事は呼び方を戻した。どうやら彼なりのジョークのつもりだったようだ。


 ……ま、紛らわしい。


「ああ、足を止めさせて悪かった」


「いいえ、その様な気遣いは不要で御座います」



 そうして暫くは無言で廊下を進み、案内されたのは応接間だった。


 許可を取り中に入ると、中に居たのは眉間に深いシワを刻んだ、見るからに気難しそうな人物であった。


 俺はとりあえず挨拶をする。


「本日はお招き有難う御座います伯爵。私はルーベンスと申します。この度は…」


「ああ、そんな無駄な挨拶など不要だ。私は友人に頼まれたから形式上の養父になっただけで、本当の親になるつもりはないからな」


 ふむ、どうみても友好的な感じではないな。


「はい、勿論そこまで厚かましく言うつもりはありません。けれど、伯爵が養父の名乗りを上げてくれたお陰で、・・々と守られたのも事実、それに感謝しない程、愚かではないつもりです」


「ふん…『噂』は所詮、唯の噂って事か……けどな、…お前は何でまだ生きてるんだ?」


「…………」


「正直言って、お前が生き残る確率はあの時点で限りなく無に近かった。だからお前は除籍されて私の所に養子に入ったんだ。『レウ』に失格の烙印を押された人間がボドリー公爵家に存在するだなんて、あのプライドの高い公爵様は許さないだろうしな。私もお前が生き残るとは考えてもみなかった。子爵家預かりにしたのも面倒事に巻き込まれない為だ。………先日、マトゥン子爵が爵位を返上してきたのも、そういう事なんだろう?」


 くっくっ…と楽しげに嗤う伯爵は、成る程一筋縄ではいかない様だ。


 ズキン……


 胸の奥が締め付けられる様に痛む。


 心が…


 自分の感情とは別の所で心が泣いている。


 殺されると分かっていて尚、実の親に世間体の為に簡単に切り捨てられた事実に『ルーベンス』が傷ついているのだろう。


 あの日ルーベンスと記憶を繋げてから、時折こういう事が起きる様になった。


「私は偶々運が良かっただけでしょう」


「はっ…運が良かっただけで生き残れるほど『レウ』は甘くないのは分かってる筈だ。おまけに預けられた先はお前に恨みを持つマトゥン子爵家だ。誰一人味方のいない状況で、どうやって『レウ』をやり過ごしたのだ?お前のその無駄に綺麗な顔で男を誘惑でもしたか?くっくっ……簡単だろお前なら」


 わざと煽るかの様な伯爵の発言に少し眉を寄せたが、直ぐにある人物を思い出し自然とその顔に笑みが浮かぶ。


「………一人、私の噂の真偽をわざわざ確かめてくれた人が居たんです。実際の私を見て、『噂』の方に疑問を持ってくれたのです」


「…………」


「私は一人ではありませんでした。私が生き残れたのも彼のお陰と言っても良いでしょう」


「ほう…自分の手柄だとは言わないのか?」


「はい。とても言えません」


 清々しいほどきっぱりと自信満々にそう告げると、


「………………ぐっ…」


 何かを堪える様に肩を震わせていた伯爵が、大声で笑い始めた。


「がははははッ…こいつは面白ぇ!前に見た時とは別人じゃねえか!前に見た時は、こりゃダメだと思っていたが、単に俺の見る目がなかっただけらしいな」


 何が面白いのか椅子から落ちそうになりながらも尚笑い続けている。


 まあ、別人だしな。………といっても余り疑問に思われても面倒だ、誤魔化しとくか。


「はい、成長期ですから」


「ぶはっ…なんだお前、そんな面白い奴だったか?あんま笑わせるなよ、腹が痛くなるだろうが」


 いや、笑える事なんか言ってねーだろ。


 伯爵は最初の気難しい雰囲気が嘘の様にガハガハと笑っていた。しかしその度に俺の背中を叩くのだけは止めてほしい。




 その所為なのか何なのか、やたらと機嫌の良い伯爵に俺は夕食に招待される事になった。











伯爵はアルが『黒の試練』乗り越えたとういだけでも、ある程度は認めていましたが、以前会った時が酷かったので、敢えて挑発をする様な物言いをしてアルを試しました。

何というか、アルの周りには一筋縄ではいかない人物が多すぎですね。その分味方になってくれた時は力強いんですけども。

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