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 俺は身体の感覚が一気に戻ってくるのを感じながら、目を開ける。


 当然ながら俺は自分のベッドに寝かされていた。まだ頭はガンガンと頭痛がしていたが、それ以外には特に不調は見られない。手や足も動かしてみたが問題なく動く様だ。


 部屋には誰も居なかったが、たまたま席を外していただけなのだろう、静かな足音と共にガチャッとドアを開ける音がする。

 そして、俺が目覚めている事に気が付いたのだろう、セバスは直ぐにベッドの側までやってきた。


「ルーベンス様!…本当に…ッ本当に…」


 セバスは俯きながら、俺の手をぎゅっと握った。………そのセバスの手は、微かにだが震えている様だった。


「セバス…すまなかった。最後までセバスを巻き込んで良いものかと迷っていたんだ」


「ル…」


「けど、セバスしかいないと、セバスにしか任せられないと思ったんだ」


 俺は、セバスの抗議交じりの声を遮るようにして…そう続けた。


 それを聞いたセバスは深い深い溜息を零し、


「でしたら、今後は私にだけはちゃんと説明を事前・・にして下さいますね」


 と、やたら凄みのある笑顔で念を押された。


「…………ああ、勿論だ」


 それで…と俺は目配せをする。


「はい……生きております、……ですが」


「屋敷の使用人だった。……だろ?」


「…………そこまで、分かっておいででしたか」


 まあ『前』もそうだったしな。………だからセバス、そんな尊敬の眼差しを向けないでくれ。居た堪れなくなるだろうが。


「会えるか?」


「勿論それは可能ですが、今から会いに行かれるのですか?ルーベンス様はまだ目覚めたばかりで体調も…」


「セバス」


「………畏まりました。但し面会時間はわたくしが決めさせて頂きます。ルーベンス様の体調が思わしくないと判断し次第部屋に戻って頂きますよ」


「ああ、それでいい」









 そうして俺達は、揃って地下にある牢屋へと向かった。


 薄暗い階段を慎重に下りて行くと、階下は意外にもそれ程暗くはなかった。見れば所々に松明が設置してあり、死角が出来ない様に配慮されていると分かる。


 刺客が入っていたのは地下牢の中でも一番奥の牢で、両手両足を壁から伸びた鎖に繋がれていた。


 俺はそっと牢屋の前に近付き、声を掛ける。


「サーニャ」


 刺客は……サーニャは何も答えない。微動だにせず、俯いたままだ。


「何故、『今』なんだ?」


「……………」


「俺以外にも『試練』を受けた者は居るのか?」


「……………」


 サーニャは何も答えない。だがそこまでは想定内だ。俺の目的は情報を聞き出す事じゃない。

 そこで俺は冷たい床にドカっと座り込み、優しく言う。


「…………サーニャ、…ありがとな」


 初めてサーニャの身体がピクリと動く。


「『あの時』、習慣的に毒入りの食事を吐き戻してた所為で喉だけじゃなくて食道の方まで酷く爛れて、しょっちゅう血を吐いていたんだ」


 血を吐いていたという言葉にセバスがピクリと眉を動かすが何も言わず、静かに動向を伺っている。


「…だから、何?」


 初めてサーニャが口を開いた。


「サーニャが最初に提案してくれたんだろ?俺にゼリーを作ろうって。…しかも、爛れに効く薬まで入れて」


「…………気付いてたの?」


「ああ。あの後格段に喉の調子が良くなったからな」


「でも、だからどうしたって言うの?これから殺される私にそんな事言ったって、意味ないじゃない」


「殺す?……何でだ?」


「何で……って当然でしょう?あなたを殺そうとしたんだから!」


「してないだろ?というか、俺を殺す気なんて最初からなかっただろう?」


「あなたあの時意識なかったでしょ!?何でそんな事分かるのよ!いい加減な事言わないで!」


「分かるよ。普段のサーニャを見ていれば。そんな事の出来る人じゃないだろう?貴女は」


 俺は行儀悪く胡座をかいた脚に肘を付き、そうして軽く握った手に顎を乗せると、柔らかく微笑んだ。


「それに、別にサーニャが俺を本当に殺そうとしてたとしても構わないんだ。俺が、サーニャを信じると決めた。唯それだけの事だから」


「あ…なたは」


 サーニャは呆然とした様に俺を見る。しかし


「サーニャには俺付きの侍女になって貰いたいんだ」


 と、俺が言った途端その目が冷たく光る。


「……私を側に置いて、一体誰を殺す気ですか」


 冷たく刺さる視線を、全く気にする事なく俺は笑う。


「サーニャはいちいち物騒だな。サーニャには俺の主治医も兼任して欲しいんだ。毒の扱いに長けた人間は薬の使い方や調合も上手いからな」


「正気…ですか」


 俺の予想もしなかった提案に、サーニャは今度こそ驚きに固まってしまう。

 代わりに難色を示したのはセバスだった。


「わたくしは反対です。ルーベンス様を殺そうとした人間を側に置いておく訳にはいきません」


「だったら、セバスが納得するまで自分の監視下に置けばいい。但し、これは決定事項だ。変更はしない」


「わたくしは確か、つい先程今後は私にだけはちゃんと説明を事前・・にして下さいねと申したばかりだったと記憶しておりますが…その辺りについて何か言いたい事は御座いますか?」


「確かに『事前』にではなかったが、『同時』だったから別に良いんじゃないか?」


「ほうほう…これはその辺りについてもしっかり話し合わなくてはならないようですな」


「話し合った所で結果が変わる訳じゃないから無駄だと思うぞ」


「…………」


「…………」


 無言の睨み合いは結局セバスが折れる事で終わり、サーニャはセバスの監視下の元俺付きの侍女になる事に決定した。





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