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次に俺が目を覚ました時、王都は大変な騒ぎになっていた。
どうやら、狙われたのは俺だけではなかったらしく、この国を支える五大公爵家全てで同じ様な事が起こっていたらしい。
その集団は自らを『獅子』と名乗り、
『この『試練』は国の上に立つ者としての資格があるかどうかを試すものである』
と今日になって声明の様なものが出されたそうだ。
『レウ』とは王都を度々騒がせる過激な殺人集団である。
こう聞くと極悪非道な集団の様に聞こえるが、意外にも民衆からの受けは良い。それというのも『レウ』が狙うのは大体、無駄に重い税で領民を苦しめる領主や不正を働いた貴族などに対する『制裁』であったので、寧ろ下々の者にとっては『レウ』は正義の味方同然なのだ。
しかし、後ろ暗い事のある貴族にとってソレは恐怖の対象でしかない。
様々な貴族が影を使って『レウ』の正体を探らせている様だが、あまり芳しくない様だ。
まあ何にしろ未だ謎の多い集団であるのは確かだろう。
そんな集団が、今回は何故か五大公爵家を対象にする、と宣言したのだ。
しかも今回は『制裁』ではなく、『試練』だと言った。
何もかもがいつもとは違い、これは本当に『レウ』なのかと言い出す者も出てきた。しかし、『レウ』は『毒』と『情報操作』の扱いに特化した集団だ。その両方において甚大な被害が既に報告されている以上、本物だと思う他ないだろう。
既に、何人か死者も出ているそうだ。
特に被害が甚大なのは五大公爵家の中の二家だ。この二家は今まで秘密裏に行っていた裏家業や様々な不正が表沙汰となり、当主に連なる者達が次々と毒に倒れているんだとか。
このままだと公爵家として存続していく事自体難しくなってしまうだろう。
その事に焦ったのはこの二家と懇意にしている貴族達。まさか、国の中でも2、3を争う公爵家が、こうもいきなり失脚するとは誰にも想像出来なかっただろう。
しかし、彼らがこれらの公爵家に救援に向かう事はなかった。何故ならば、殆どの貴族がこの二公爵家に対して不正の補助や、賄賂、果ては禁止されている筈の人身売買など、下手に助けたら直ぐにでもこちらに飛び火してしまう様な事柄にも深く関わってしまっていたからだ。
そうして助ける者のない二つの公爵家は、その後歴史から消え去る事となる。
後にこれは『黒の試練』と称されるのだが、この事件は余りに衝撃が強い為、貴族…その中でも当主及びその後継者のみに真実を伝えられた。しかしそれもまた後の時代…、20年…30年と時間の経過と共に徐々にその時の恐怖は薄れ、忘れられていく事になる。
一方俺が何故生き残る事が出来たのかというと、
「あの者達曰く、お前は『合格』なんだそうだ」
と、陛下は苦虫を噛み潰した様な顔をしてそう言った。
俺が毒で倒れた後、俺達の元に数人の刺客が現れたらしい。
俺をこんな目に遭わせた者達を陛下が許す筈もなく、一人を除いてあっという間に倒してしまったのだそうだ。
しかし、残りの一人が強かった。陛下の剣を軽くいなしながら、その刺客は薄笑いを浮かべて言ったそうだ。
『あんた達は合格だ。そこで寝転がってるあんちゃんにも伝えといてくれ』
そういって窓から去ろうとする男をなんとか呼び止める。
『まて!合格というならば解毒剤くらい渡してくれてもいいだろう』
男は窓枠に足を掛けたまま振り返り、ぐったりとしている俺を見て、ああ…と嗤った。
『そいつなら大丈夫だ。全部毒を飲んだんだろ?この毒はちょいと特殊でね、数滴摂取しただけだと解毒不可な麻痺毒で、長く苦しんだ挙句呼吸困難か心臓麻痺で死ぬ。けどある一定の量を体内に取り込むと毒が無効化されるのさ。「毒」が「解毒剤」になるなんざ面白いだろ?…けど、大抵の人間は毒と気付いた時点で以降は飲まずに済む為の対策を練る。このあんちゃんみたいに気にせず摂取し続ける奴はそうはいねえ』
『言っている事が矛盾している。毒を全部飲んだ事で「合格」だったのなら何故その後刺客を送り込んできたのだ』
『言っただろ?これは「試練」だって。試練は一つじゃないって事さ。あんたが「噂」を信じてそいつから離れていたらそいつは死んでいたってだけの事。そいつが奇跡的に毒を無効化出来たとしても、側で助けてくれる「仲間」がいなければ、「噂」よりもこいつを信じてくれる「誰か」がいなければ、結局はそれだけの人間って事だろう?』
刺客の男は大して面白くもなさそうに嗤う。
『お前達は!人の命を何だと思っている!』
あまりの怒りの為、震える拳を握りしめ咆哮する。
『………それを言うならあんた達も、もっと…権力者達に振り回される立場の人間の事を考えた方がいい。今回の事で分かっただろ?理不尽に振り回される立場が、命すら軽んじられる立場がどういうモノか。俺たちは常に王家を、延いては国を見つめている。その事を決して忘れない事だな』
男はそう告げると、闇夜に消えていった。直ぐに後を追わせたが、その時には男の気配はもう何処にもなかった。
その後、『レウ』はピタリと活動を止めた。突然の事に人々の間に様々な憶測を呼ぶが、それもまた時の流れと共に人々の記憶から忘れ去られていった。