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 ふわふわと暖かいような、それでいてどこか懐かしいような…そんな感覚に既視感を覚えて、ゆっくりと目を開く。


 しかし、辺りには何も無く只々真っ白な空間が広がっているだけ。


 けど、


 俺はこの空間を『知って』いる。


アルディオン』が死んだ時に来た場所だ。


 そして此処はきっと、『アイツ』の精神世界なのだろう。


 だからこそ、俺は最初から不思議だったんだ。


 傲慢で高飛車、性格最悪の人物の精神世界が、こんなにも『穏やか』で『優しい』のはどうしてなのか。







 最初に違和感を感じたのは3回目の毒を摂取した時に、俺は何故これを『麻痺毒』だと分かったのだろう、と疑問に思った所からだ。


 俺は物心付く前から毎日毒に慣らされてきた。正直毒の種類が多すぎて全く判別なんか出来なかった。

 10歳になる頃には、ほぼ毒の効かない身体になっていたし、特に判別の必要もなくなっていた。


 じゃあ、何故この『毒』の事は覚えていたのか。


 それを思い出したのが4回目の毒を口に入れた時。




 一度思い出してしまえば、記憶は激流の様に頭の中を駆け巡る。



 あれは_______




『俺』が20歳になったばかりの頃…………










 ある『噂』が出回り始めた。


 それは俺が『陛下を嫌っている』というもの。


 その噂は、俺が気付かない内に徐々に根を張り始め、俺が気が付いた頃には既にその『噂』は真実であるかの様に語られていた。


 初めは唯の噂だと歯牙にも掛けていなかった陛下も、実際にあった出来事に擬えた噂に徐々に疑心暗鬼になっていった。


 俺がその事に気付いた時には何もかもが遅すぎた。


 陛下は俺の側にいる事を嫌がり、別の取り巻き達を連れて歩く様になっていた。


 一方俺も真実かどうかも確認しないまま、俺の『噂』を信じ疑った陛下に対して深く失望し、近くにいれば余計な事を言ってしまう、と離れていく陛下を留めもしなかった。



 そんなお互いが歩み寄る機会を見つけられずに、すっかり色褪せた日々を送っていた時だったと思う。


 陛下が命を狙われ怪我を負った、と聞いたのは。


 俺は愕然とした。


 陛下の命が狙われた。なのに側にいなかった自分に。


 俺は気が付いたら城に向かって馬を走らせていた。そして制止する者達を全て無視し陛下の居る寝室へと足を踏み入れていく。


 陛下は、突然入ってきた俺に目を丸くしていたが直ぐに怒った様な顔になり、遅い。と俺の目を見据えてそう言った。


 その時初めて気が付いた。陛下は俺を疑ったのではなく、中々噂に気付かない俺にそれを気付かせる為に一度距離を置いたのだ、と。


 俺にちゃんと弁明をする機会を与える為に。


 俺は自然と陛下の前に跪いていた。


 そして、陛下の側を離れた事、それから陛下の御心を疑った事を詫びる。


 その上で、側に居させて欲しい…と改めてお願いした。


 陛下はそっぽを向きながら『ああ…』と、ぶっきら棒に答えていたがその目は少し潤んでいて、俺はちゃんと気付けて良かった…と改めて思った。



 その後からだった、俺の食事に毒が混ざり始めたのは。


 当時の俺は毒に気付きはしたものの自分には効かないし、まあいいかとそのままにしていた。


 寧ろ気付いていないと犯人が思っている間に、毒を入れた犯人とその裏にいる者の特定、目的を探る事を優先した。




 しかし、その事が陛下にバレて…それはもう怒られた。

 その勢いで頬を拳で殴られた時は、流石にどうかと思って陛下を見たら、何故か陛下は酷く傷ついた様な顔をして此方を見ていたので、思わず言葉を飲み込んだ。


「お前は私よりも先には死なないのだろう?なのにお前自身が付け入る隙を作ってどうする。お前は毒は効かないとたかを括っているが、もしもお前に効く毒だった場合どうするつもりだ?死んだ後に後悔しても遅いんだぞ」


 そんな風に怒る陛下を見て、


 俺は、俺の心の奥がほわっと暖かくなるのを感じた。


 怒っている陛下には悪いが、俺は嬉しさの余りついつい自分の顔が綻ぶのを感じながら、陛下の頭をくしゃくしゃ…っと掻き混ぜる。


陛下の頭を撫でるのは子供の時以来だが、猫っ毛なのは変わらない様だ。


子供の頃は偶に遊びに来たついでに泊まったりもしていたのだが、初めて泊まった日の翌朝に鳥の巣みたいな頭になっている陛下の頭を見た時は、不敬を承知で爆笑したものだ。


「くッ…相変わらず陛下の髪は猫っ毛ですね」


「お前……それ、何か含みがないか?」


思わず思い出し笑いをしたら、陛下に物凄く嫌そうな顔をされてしまった。


「いいえ?とんでも御座いません」


 俺がそう言うと、陛下は俺を胡乱げに見た後、はぁー…と長い溜息を吐く。


「まあいい…、それよりアル、お前は今日からここで暮らせ」


「やっぱり必要ですか?」


「当たり前だ。……お前、…まだ懲りてない様だな」


「ああ!いえ、懲りてます。懲りてるので殴るのは止して下さい」


「ったく」





 こうして、俺は家には戻らずこのまま城に滞在する事になった。


 しかし、その日の夕食で俺は倒れる事となってしまう。






 あの時、俺がもっと自分の身体の異変に気付けていたら……



 陛下に、あんな顔をさせずに済んだのに…



 それだけは少し後悔している…








陛下とアルの関係が微笑ましくて好きです。

皆さんはどうですか?


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