20(セバス視点)
暫くはずっとセバスのターンです
ルーベンス様は余りお身体が丈夫ではありません。それなのに以前一度、熱のある状態にも関わらず空気椅子をしているのを見た時は、思わずベッドに押し付けてしまいました。
あの方は基本的に朗らかで素直に話を聞いて下さるのですが、時々予想もしない事を突然始めるのでわたくしは目が離せません。
最近、あの方の熱を出す割合が増えてきているのが気になります。旦那様と食事をした日は必ず熱を出すので、きっと精神的なものなのでしょう。
しっかりしていてもまだ子供なのです。親元を離されて、周囲との関係も良い訳ではない、そんな環境が身体に良い訳がありません。
……わたくしがしっかりと体調を管理して差し上げなければ。
そう決意を新たにしている所に声が掛かる。
「あ!執事長!大変です!旦那様が…!」
慌てていて、要領を得ない事を口にする相手を何とか落ち着かせ、話を聞き出す。
分かったのはルーベンス様が旦那様に暴力を振るわれている、という事。
「…あのクソ馬鹿野郎がッ」
思わず汚い言葉で悪態を吐いてしまう。使用人がセバスの悪態を聞いてびっくりしているが、今はそれどころではありません。
物凄い速さで廊下を駆け抜けると、ノックもせずにドアを開ける。
中は悲惨な状態でした。
床には料理やグラスの破片が散らばり、何より旦那様がルーベンス様の胸ぐらを掴みガクガクと揺さぶっていたのです。
わたくしは考えるより先に旦那様の首に手刀を落としルーベンス様を救い出しました。
意識を失った旦那様がゴン…と鈍い音を立てて床に頭を打ち付けていましたが、まあ良いでしょう。
「ルーベンス様、聞こえますか?」
全く反応のないルーベンス様にセバスは眉をピクリと動かす。
……顔色が悪い…それに熱が随分上がってしまっていますね…
その場にいる者に医者を呼ぶ様に指示すると、急ぎルーベンス様の部屋へ向かった。
部屋に入ると直ぐに汗をかいた身体を手早く拭き、服をゆったりとした締め付けのない寝間着に替える。
身体がすっきりしたのが良かったのか、先程より大分顔色が戻ってきていた。
それにしても……
旦那様は少し考えが足らず騙されやすい所はあっても子どもに暴力を振るう方ではないと思っていたのですが。
………お嬢様の事といい、…わたくしも人を見る目が落ちたものです。
もう…この辺りが潮時なのかもしれませんね。
わたくしは元々先代に救われた恩を返したくて先代に仕えていたのです。わたくしが未だマトゥン子爵家に仕えているのは先代に『他にやりたい事がないのであれば、息子を支えてくれないか?』と提案されたから。
わたくしには一つ、やりたい事が出来てしまいました。
受け入れてくれるかはまだ分かりませんが……
今度、お願いしてみようかと思います。
マトゥン子爵家に仕える前のセバスは一体何をしていたのか……今更ながら気になります。