19(セバス視点)
時間軸少し遡ります
あの方がこの屋敷に来て数日、わたくしは噂と実際のあの方との違いに戸惑っておりました。
初めは貴族特有の繕った人格だと思っておりましたが、接する時間が長くなるに連れ、そうではない事が分かりました。
寧ろ噂と違いすぎて、これは本当に本人なのかと疑ってしまいそうな程です。
しかし、洗練された所作や落ち着いた言動はかなりの上級貴族でなければ持ち得ぬ物で、身代りに同じ事が出来るとはとても思えません。
わたくしがこれが素の性格なのだと確信したのは、自分の服を急ぎ仕立てさせて負担を掛けた、と自ら行列に並んでお菓子を購入しようと言い出した時でした。
そこで初めて、噂の方に疑問を持ちました。
それで、わたくしは噂について調べてみようと思い立ったのです。
調べ始めてすぐに噂の半分以上はあの方とは無関係だという事が分かりました。
あの方は噂を否定なさらないので、その事に気付かなければわたくしは未だ誤解したままだったでしょう。
……では、『お嬢様』の件はどうなのでしょう。
よく考えてみれば、お嬢様の口からルーベンス様の名前が出た時に、何も疑わずそのままを信じてしまいましたが、実際にルーベンス様を知った後ですと色々と不自然な点があるように思えます。
…お嬢様を疑う訳ではありませんが、少し調べてみましょうか。
屋敷の使用人達に一人づつ聞いていくと、
『ああセバスさん、おはようございます。我儘坊ちゃんの世話は大変だろう?…え?お嬢様の事ですか?あれは酷い事件でしたよね、でも、リックと纏まる事が出来て良かった。アイツずっとお嬢様に片思いしてたんですよ』
『え?お嬢様の事ですか?…そういえばあの時期のお嬢様は体調が余り宜しくなくて…食事を戻してしまう事もあったんですよ。…もしかしたら、あの時から公爵様達に嫌がらせを受けてたんでしょうかねぇ?』
使用人達の話は大体皆同じ様な内容で、セバスは一つの仮説を立てる。
それがもし本当だった場合、
「………なんて、事でしょう…」
早急に………本人に確認しなければなりません。
結果として、わたくしの仮説は当たっておりました。
辺境で静養をしているお嬢様を訪ねて事情を聞いた所、ポロポロと大粒の涙を流し、
「私は…大変な事をしてしまいました…」
と床に崩れ落ち両手で顔を覆う様にして泣いておられました。
婚約の話が進む中、下男と関係を持ってしまい、あろう事か子まで出来てしまったのである。
マトゥン子爵家には破断金を払うお金もなく、おまけにその様な事実が出回れば子爵としての立場も危うくなる。婚約していたのは伯爵家の男性だったのだから。
思い悩んだお嬢様は、あの悪評高い公爵家長子であるルーベンス様の所為にする事で事件後の傷心を装い学園を辞めて、恋人であるリックと晴れて夫婦になる事が出来たのである。
分かっていた事だが本人から改めて聞かされると、その余りの身勝手さに頭痛がしてしまう。
「お嬢様。これは泣いて終わる程度をとうに超えております。貴女の自分本位の行動でどれだけの人に心配や迷惑を掛けたとお思いですかッ」
「ご…ごめんなさい…私…どうしたらいいか分からなくて…」
「……お嬢様。今マトゥン子爵家にルーベンス・ボドリー様が滞在しているのはご存知ですか?」
「え!?ボドリー様が!?」
ボドリーの名を聞いて、お嬢様はサァ…と顔色を悪くする。
「…ルーベンス様はボドリー公爵家を除籍されてお仕舞いになりました。お嬢様、貴女の所為で」
「え……………………?」
「貴女は、もう一人では負いきれない程の罪を犯してしまわれたのですよ」
「そ………んな……だって…」
狼狽してまともに話す事も出来ないお嬢様を、同情する事なく冷たく見つめ言い放つ。
「貴女は罪を償わなければなりません。例え貴女がどうなろうとも」
それだけの事を、貴女は…犯してしまったのだから。




