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後で知ったのだが、気を失った俺をそれにも気付かず揺さぶり続けた子爵は、駆け付けたセバスによって(手刀を)落とされ、強制的に静かにされたらしい。
セバス…主人に対してでも容赦がないな……
そして子爵はというと、その日を境に屋敷へと帰らなくなった。
聞くところによると、セバスにこってり絞られたらしい。それはもう周りが青褪めるレベルで。
セバスは何だかんだで子供には優しいので、その子供に暴力的な行為を行った子爵は『最低な屑』で『既に人間じゃなく猿』でetc…(←こってり絞っていた時の台詞抜粋)
………誰に聞いたって?それは…
「ルーベンス様、このお菓子美味しいですよ?カリカリなのにふわふわっていうか」
「あんたそれ味の説明になってないわよ?」
「あれ〜?そうかな。そうかも」
「ルーベンスの旦那、それだったらこっちのも旨いですぜ」
「あー!ずるいそれ私が食べようとしたやつ!」
「何言ってんだこういうのは早い者勝ちだろ」
「え〜〜?」
あの時俺にゼリーを作ってくれたのはこの三人なのだそうだ。
食い意地が張ってる女の子がサーニャで
ちょっと勝気な女の子がベル
それから庭師をしているドーン
あの一件を知り、子供になんて酷い事を!と憤慨し自分達が味方にならねばッ…と他の使用人達に声を掛けてくれたらしい。
ちなみにゼリーだったのは熱が高くても喉を通りやすい物という事で満場一致だったそうだ。
あの日からこの三人は毎日どこかで時間を作りお見舞いに来てくれていた。
というのも、あの時診察してくれた医者が、俺の喉を見て
「う〜む…今回の事だけでこれほど喉が荒れるとは考え難い。……ルーベンス様、…もしかして今までも身体に不調を感じていたのではありませんか?」
と難しい顔をして聞いてきたので、そこは下手に否定したりなどせずに
「…時々、胃がムカムカしてせり上がってくる感じはあります」
と無難に答えておいた。
「ふむ…ではやはり日常的に胃液が逆流していて、それでこれほどに食道が荒れてしまったのでしょう。こういうのは環境が突然変わったり、気疲れしたりするとよくある事なのです。とにかく今はゆっくり休む事が大事ですね」
という台詞を残して行ったものだから、使用人の間で激震が走った。
『つまり、ここ最近ずっと調子が悪かったのは、私達の所為!?』
突然環境の変わった子供に対しての自分達の所業を思い返し、各々が頭を抱えて地に伏した。
そんな事もあり今までの遠巻きで眺めていただけの距離感が嘘の様に、代わる代わる世話を焼いてくれる様になった。
……正直なところ、俺が謝りたい。罪悪感半端ない。
確かにここ数日で喉の焼ける様な痛みは少なくなってきた様に思う。
しかし、
あの日意識を失ってしまった為に、食べた物を出せなかったのが地味に身体を蝕んでくる。
けど、それは顔には出さない。
俺が少しでも辛そうにすると、使用人達が物凄いショックを受けた様な顔をして今まで以上に世話を焼こうとするので、正直面倒くさいのだ。
まあ、そんなこんなで久々に平和な日々を送っていた。
結局、子爵が屋敷に戻って来たのはあの日から5日後の事だった。