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14(セバス視点)

 





 わたくしはセバス。長年このお屋敷で執事をやらせて頂いております。


 一昨年の冬に命の恩人である先代が亡くなられ、わたくしは自分が生きる意味を失ってしまいました。


 後を追おうかとも思いましたが、先代からこれからは息子を支えてあげてくれないかと頼まれ、恩義のある先代の頼みだからと唯それだけの理由で今まで仕えておりました。


しかし最近になって漸くこうして今の旦那様を見守って生涯を過ごすのも悪くないかもしれない、と思う様になってきました。


 そんな折の事でした。


 あの…痛ましい事件が起きたのは。




 ああ………今思い出しても、心が痛みます。

 一体『お嬢様』はどれ程の傷を負ってしまわれたのでしょう…

 それを考えると夜も碌に眠る事が出来ません。



 そしてそんな思いが神に通じたのか、

 先日、彼の御方は第二皇子によって公の場で断罪される事となりました。


『お嬢様』の一件もあり、使用人一同その報告を聞いた時は跳び跳ねて喜びを分かち合いました。


 斯く言うわたくしも、夜にこっそり祝杯を上げてしまいました。


彼の御方がこの屋敷に来ると聞いた時も、どうしても歓迎する事など出来ずに、態と長時間外に迎えに出ずに放置しておりました。その御方が癇癪を起こしても今の貴族社会であの御方を受け入れる家などないので、特に問題にはならないでしょう。


 やはりその方は待ちきれなくなったのか使用人の出入り口から入り、ドアの外から声を掛けてきました。

 いきなりドアを開けようとしないところに育ちの良さを感じますが、どのみち開けようとしたところで鍵が掛けてあるので意味はありません。


「すまない。今日から世話になる事になったア…者だが〜」


 その声が想像したよりもずっと穏やかな声をしていた事に軽く驚きを感じました。


 それでつい、ぼう…として声を掛けるタイミングを逃してしまいました。


「こんにちは、誰かいないか?」


 ずっと聞いていたくなる様な優しい声に、随分噂と違うものだと不思議に思います。

 しかし、すぐにこれが貴族のよそ行き用の顔なのだろう…と思い直しました。


 コンコン


「突然の訪問ですまないが」


 ……しーん……


 ドンドン


「誰かいないか〜?」


 ……しーん……


 ガンガンッ!


「今日来る予定の者なんだが〜」


 ……しーん……


 その御方は特に激昂する事もなく、穏やかなまま声を掛けてきます。

 …しかし徐々に重くなるドアを叩く音に、若干焦りを覚えました。


 ドアを破壊されると困るのですが……


 その時、


「…………クシュッ…」


 小さく、くしゃみをするのが聞こえました。

 そこで漸くわたくしは自分が何をしたかを思い至りました。

 どんな性根の腐った人物だろうとも、子供を寒空の下に長時間締め出すのは大人として最低です。


 ガチャ…


「…おや?玄関前に浮浪者が入り込み、やけに煩いと報告があったので来たのですが……公爵家の御方が此方に何の御用でしょうか」


 子供には口で嫌味を言う程度にしておいてあげましょう。


「それは、騒がせてしまってすまない。今日から此方でお世話になる予定の者なのだが、報告は来ていなかったのだろうか…?」


 ……おや、この程度では貴族の仮面を剥がす事は出来ませんか。


「いえいえ、報告は受けておりますよ。唯…随分と遅かったものですから、何かあったのではないかと我々一同心配しておりました」


 本当は全く、誰一人として心配などしてませんでしたけれど。


「そうだったか、それは重ねてすまない。無事に着く事が出来たので案内を頼みたいのだが?」


 言葉は丁寧だがその顔は早く中へ入れろ、と言っている。


 ………まあ、少し顔色も悪いようですし、この位にしておいてあげましょう。


「勿論ですとも、さあ中へお入りください。わたくしはこの屋敷で執事長を務めますセバスと申します。何かお困りな事が御座いましたら何でもお申し付け下さいませ」


 問題を起こすようなら師匠直伝のお仕置きをきっちりその性根に叩き込む事に至しましょう。


「ああ、これから色々と世話になる事が出るだろうが、宜しく頼む」



「……………では部屋にご案内致します」




 _____________________________





 夕食をどうするか聞きに行った時、その方は寝ていた様で何回か声を掛けると、部屋の中で身じろぎする音が聞こえた。夕食をどうするか聞くと、食べると言うのでわたくしはそのまま部屋へは入らずに食事を取りに行く事にしました。



 そして、食事を終えた頃


「そういえば、この家の人達に会えていないが、俺はこの家に世話になる身だ、一度挨拶をしておきたいのだが…」


「必要ありません」


 つい遮る様になってしまったのは仕方のない事でしょう。


 どの口がそれを言うのでしょうか。


 開いた口が塞がらないとはこの事ですね。


「いや、しかし…」


「今後も会う機会などないと思いますので気にする必要はありません。……ああ、けれど二日後に旦那様がお戻りになりますのでその時に話す機会もございましょう」


 まだ食い下がろうとするので、旦那様に丸投げする事に至しました。


 旦那様はお嬢様の件で随分と心を痛めておられたので、この御方に嫌味の一つでも言って発散して頂く事にしましょう。


「ありがとう、それじゃあその時に礼を言わせて貰うよ」


「…………。」


「それと…」


「なんでしょうか?」


「……あの衣装部屋の服なんだが……全部処分しておいてくれないか?」


「………………………と言いますのは?」


 予想外の事を言われ、わたくしとした事が一瞬思考が止まってしまいました。

 しかし何故突然その様な事を言い出したのでしょうか。


「あの服は自分が公爵家にいた時に着ていた物だ。今の自分には不相応だと思う。…だからあの服を全て売ってそのお金で今の自分に合う物を揃えたい」


 筋は通っていますが、多分本音では無いでしょう。


「……………畏まりました。明日にでも商人を呼びましょう」





 ………………何が狙いなのでしょう…?




 これ以上この屋敷の方々に迷惑を掛ける様なら………





 容赦はしませんよ…………?







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