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『化け物!』
『人殺し…!』
『ひぃ…っ!た、助けてくれ…わぁぁぁぁ』
『お前がッ!…お前に俺の息子は殺されたッ!……もうすぐ子供が生まれるって笑ってたのに………ッ』
俺は、今まで数え切れない程に『復讐者』となった者達を斬り捨ててきた。
ある者は親を殺され、またある者は恋人を、兄弟を『俺』に殺された。
陛下の害になる以上放って置く事は出来ないし、彼らが俺を襲ってくる以上殺すしかなかった。
何より、『陛下』より優先するものは何もなかった。
けれど今はどうだろう。一度死んで、俺は全ての柵や思惑から解き放たれた。
今でも俺が膝を折るのは『陛下』以外にはあり得ないが、それ以外の事は自分の好きに動いても良いのではないだろうか。
助けたい。
今なら、まだ間に合うかもしれない。苦しみしか生まない『復讐者』から、元の穏やかな人物へ…
助けたい。
ならば、俺に出来るのは………
毒を飲む事。
そして毒の存在を無かった事にする。
「子爵」
俺は微笑む。慈愛を込めて。
「とても美味しそうなスープですね」
俺は、笑顔で毒を飲む。
「グッ………ゥ…あ」
俺は部屋で一人になった瞬間床に崩れ落ちる。
「あ……ぁ…」
ガタガタと身体が震え歯が噛み合わない。
俺が普通にしていた事で毒の効きが悪いと思ったらしく、随分と長く引き止められてしまった。
お陰で随分毒が回ってしまった。
それでもなんとか身体を動かして便器の中に全て吐き出す。指に噛み跡が残らぬように布を何重にも巻いた為、より苦しい思いをする羽目になるが、それでもセバスに気付かれる訳にはいかない。
心配…させてしまうからな。
唯でさえ自己満足で行っている事に、人を巻き込む訳にはいかない。
ある程度吐き続け、胃液しか出なくなったところで漸く顔を上げる。続けざまに吐いた事で喉が焼ける様に痛んだが、うがいをする事で少し落ちつく事が出来た。
「はぁ…………」
これは予想以上にキツかったな…
『前』の俺は幼い頃から色んな毒に慣らされた。お陰で殆ど毒は効かなかったのだが…
『コイツ』は毒には慣れていないらしい。
『コイツ』の虚弱さからすると毒に慣らすのにもリスクが高すぎたのだろう。
……だが、一度決めた事だ。
『前』と違って殺す以外の選択肢があるだけマシだ。
選べるのであれば、俺は躊躇わずそちらを選ぶ。
殺して終わりにするなんて結末は………
もう、嫌だ。




