1
ムーンライトノベルズに投稿している作品の友情メインのバージョンです。36話までは基本的にストーリーは変えていませんが、台詞回し等自分で読み直しておかしいなと思う部分は若干変えているので、読んだ事ある方でも是非もう一度最初から読んで頂けたら嬉しいです。
一応学園ものです。
36話まではサクサク投稿していく予定です。
ムーンの方が話は進んでるんですが、あっちはBLなので興味のある方のみどうぞ。
全身が熱い。…いや、痛いのか…?
もう、感覚など既にない。身体の其処彼処に矢が刺さり、剣や槍による傷からの出血で全身を赤く染めている。
もう手に力も入らない。
「だが、まだ…動ける……っ」
奥歯をギリッと噛み締め、最後の力を振り絞る。
そうして払った剣の一振りで数人もの人間が吹き飛ばされた。化け物だ…と誰かが呟いているのが聞こえたが、今はそんな事を気にして居られない。
あれだけいた敵の数も、もう数える程しかいない。
(もう、頼むから逃げてくれ…無駄に、死ぬなッ)
しかし、男の願いも空しく彼らは憎悪に満ちた顔を此方に向け武器を構える。
そんな敵の中、殊更殺気を放っている者が居た。
その者は体格の良い身体を少し前に出して血を吐くかのように叫んだ。
「お前がッ!…お前に俺の息子は殺されたッ!……もうすぐ子供が生まれるって笑ってたのに………ッ」
「…………」
「お前程の腕なら、殺さずに対処出来たはずじゃないのかッ!!?」
「…………」
「何とか言えよ!!……はっ、お前みたいに数え切れない程人を殺し続けてる化け物に人の心なんか無えんだろうけどな、俺には…俺には唯一の宝だったんだよッ…何が『英雄』だ!お前は『英雄』なんかじゃない!お前は唯の『人殺し』の『化け物』だ!…………お前に似合いの地獄に…落としてやる!」
体格の良い男は、その言葉の勢いのまま『化け物』と呼んだ男に向かっていく。
それを皮切りに他の者たちもウォォォォォと雄叫びを上げながら向かって来る。
その様子を『化け物』と呼ばれた男は冷静に見つめながら、同時に言い様のない苛立ちも感じていた。
(そこまで大切に思うのなら、何故戦場に送り出した…何故簡単に命を投げ出そうとするッ…………何故、逃げてくれないんだ……)
男は攻撃を何とか躱してはいるが状況は余り良くない。
出来れば彼らは殺したくない、だが此処で殺さなければ後に陛下の納める治世での禍根となろう。
男はゆっくりと目を閉じ、軽く息をふぅ…と吐くと次の瞬間、男の纏う雰囲気はガラリと変わった。
その場に居るだけで震え、思わず跪いて許しを請いたくなる程の『威圧』と『殺気』。
先程までの戦いがまるでお遊びだったのかと思われる程の格の違いに、男を取り囲むように武器を構えていた者たちの動きが止まる。
しかし、どのみち後がないのは同じだと一斉に男に向かって突進してきた。
男は無言で剣を握り直し、男に向かって振り下ろされる剣が自身に届くより先に次々と斬り伏せていく。
「………くそっ!」
奇しくも残り一人となったのは、男に息子を殺されたと叫んでいた、あの体格の良い男だった。
「ぐ…む…息子の仇!…せめてッ一太刀でも、浴びせてやるッ」
そう言い向かって来るが、死の恐怖に震えた剣先など、何の脅威にもならない。
だが、
男は一瞬躊躇ってしまった。
それは男の剣を鈍らせ、いつもなら一撃で即死させられる筈が、その者は未だ微かに息が残っている。
「チッ…」
男は苛立ちながら止めを刺そうとする。死に征く者に無駄な苦しみを与えるつもりなどなかったのに。
剣を振り上げつつ男は言う、
「安心しろ、俺が天国に行けるとは思ってない。自分が奪った幸福はその分地獄で償おう…」
剣を振り下ろそうとした瞬間、
「アル…ッ!!!」
と自分を呼ぶ聞きなれた声が聞こえ、まさかと思い男が振り返る。そこには決してこんな所に居てはならない筈の人物が、何故か供も連れず此方に駆け寄って来るのが見えた。
「!……陛下!?」
男は、あまりにも予想外な状況に頭が追いつかず、剣を持ったまま固まってしまった。
「アル!大丈夫か!?…ああ、何て酷い怪我だッ!早く救護班を……ってなんであんなに遠くにいるんだっ!」
「陛下……それは陛下が皆を置き去りにしたのでは…?……ッというか何故陛下が此処に居るのです!?」
今この国で一番安全な場所に居なければならない方が何故此処に居るのだろうか…
「それは…!お前が…………ッ」
普段は冷静過ぎる程の陛下だが、自分といる時はこうして感情を露わにする事も少なくない。
…まぁ大抵は俺が怒られる時なのだが。
「ふ………まぁ何にしても陛下が御無事で何よりです」
「また…!お前はそうやって自分を…」
「陛下ッ!」
次の瞬間、陛下の声を遮るようにして声を掛け同時にその身体を自らの内に抱き込んだ。その直後に鈍い衝撃が身体を襲ったが、男はそのまま身体を捻り自分を刺した者の首を落とす、…がしかし同時に自らも地に崩れ落ちる。
「アルッ……!!!」
悲痛な声を上げた陛下は男の背に刺さる剣を見て目を見開いた。
「アルッアルッ!しっかりしろ!私を…置いて死ぬ事は許さん!くそッ……何故こんな……頼む…死なないでくれ!」
「陛…下、お怪我は、ありませんか…?」
「!お前は!…お前という奴は…ッ!…大丈夫じゃないのはお前だ!」
「は…はは…確か、に…」
そういえば昔からよくこの方に怒らせてばかりいたな…とつい懐かしく思い、思わず笑ってしまう。
「陛下!!」
ここで漸く救護班が追いついてきた。
「遅い!」
「も、申し訳ございません」
これでも全力で来たのだろう、救護班の面々は完全に息が上がりぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返している。だが、横たわる男の状況は急を要するものだと直ぐに分かったのだろう、男の傍に膝をつき慣れた手つきで診察を開始した。
しかし、
その手は直ぐに下される事になる。
「アル…ディオン様……」
悲痛な顔をして男の名前を呼ぶ救護班の男に、自分がどういう状態なのか誰よりも分かっていた男は……アルディオンは笑う。
「分かってる。決してお前達の力不足ではない。……すまないが、『最期』に陛下と話をさせて貰えないだろうか?」
「…………ッ」
救護班の面々の目には皆涙が溢れ、声も出せない程に動揺し感情が揺らいでしまっていたが、……それでも、一人また一人と男の側を離れ陛下にその場を明け渡した。
アルディオンは自分の側に頑なに寄ろうとしない陛下に笑い掛ける。
「陛…下」
「…………」
「こうなったのは、決して陛下の、所為ではありません…」
「アル……」
「矢には毒が塗り込めてありました。…この傷が無くても…私は死んでいたでしょう」
「しかし…!私がのこのこと出てさえ来なければ、お前は…ッ」
「いえ、陛下が出てきて下さらなければ、私が最期にこうして…陛下…と話をさせて貰える時間など無かったでしょう」
「お前…は、俺よりも先に死なないと言ったじゃないか…!」
「はは……陛下が自分の事を俺と言うのを久々に聞きました…」
「今はそんな事を言ってる場合じゃないだろう!」
「そう…ですね、もう目が霞んで見えなくなってきました」
「何でお前はこんな時ですら冷静なんだ!」
「…そんなのは、簡単だよ…………『ウォル』。お前に怪我が無くて良かった」
「…………ッ!!」
「『友』よ。……俺は何も後悔などしていない。もし……過去に…戻れ、たとしても……また…………………………………………………」
俺はここで死んだんだと思う。
うん、満足だ。
次は、償いをしようと思う。