アスタールの街(3)
武具を調達した後は雑貨屋に来ている。
ファンタジーアイテムのポーションを見たときには感動した。
薬草を使うよりかなり効果があるそうだ。下級のポーションと下級のマジックポーションを購入しておいた。
下級のポーションでも作った人によって効果がまちまちらしい。この店に下ろしてる調合師は下級のポーションしか作れないが効果は安定しているらしい。
ついでに調合セットと調合の本と材料を購入した。店のおっさんからは良いのが出来たら店に下ろしてほしいとニコニコ顔で言われた。
アスタールの街は貿易の中間地点らしく。迷宮都市や王都に行くのにも必ず通る重要な街らしいのでポーションの在庫はいくらあっても良いらしい。
迷宮都市って聞いたら心が踊る思いだった。憧れのダンジョン。世界を巡るついでに行ってみたい。
他にもざっくりした地図と羊皮紙と羽ペンとインク。大きめのリュックに水筒、テントを購入した。
地図はざっくりしてるくせにかなりの値段だし、インクはともかく羊皮紙もかなりの値段だった。
地図は軍事にも使われるから高いだろうし、羊皮紙自体が貴重みたいだし、作るのに時間がかかるみたいで在庫があまり無いらしい。
ガタガタと馬車の音が聞こえたので後ろを振り向くと馬車の荷台には黒い鉄格子の牢があり、中には男性、女性、種族や年齢様々な人達が入れられている。
「あれは」
「あれは奴隷商の馬車のようですね」
奴隷か。ホントにいるんだな。地球、いや今の日本じゃあり得ない制度だからな実感が湧きにくい。
「魔法か何かで縛られてるんですか?」
「無属性の隷属魔法で縛られてるわ。主人の命令は絶対厳守の魔法だから破れば強い痛みが走るようになってるし、魔法の強さによっては死ぬ恐れもあるって聞いてるわね。でも国の法律で奴隷への扱いは決まってるからむしろ奴隷落ちしてない貧民区の人達の方が酷い暮らしをしてる人も多いかもしれないわね」
奴隷は基本3食付きらしい。後は何する奴隷かによって労働条件が変わるらからそこら辺は運だけど奴隷からの玉の輿を果たした者もいるらしい。案外貧民区の人達より幸せかもしれないな。
貧民区では3食食べれない者も多くないようだし奴隷と違って法が無いので過重労働で倒れてそのまま、なんてことは日常茶飯事らしいからどっちが幸せなんだかわからない。
縛られるけど安定しているか、自由だけど安定しないか。どっちもどっちだな。
「トウカは奴隷に興味があるの?」
奴隷に興味か。無い訳ではない。この世界を知るにしても自分の正体はまだ知られたくない。なら奴隷なら自分を異世界人と秘密にさせて一緒に居ることも可能かっても思うが、どうなんだろうか。
「そうですね。少しだけ興味はありますが、今はいいですね。それよりも本屋があれば案内してもらってもいいですか?」
「本屋?ん~図書館や魔法屋ならあるけど」
羊皮紙自体が貴重だし、本屋は無いか。少しでもこの世界がわかると良かったんだけど。図書館で我慢しよう。
「その前に昼食にしましょ。だいぶ時間も過ぎたみたいだし」
「時間も?」
「さっき鐘がなったでしょ?一応六時間おきに鐘を鳴らすことになってるの。さっき鐘がなってたからもう昼から時間も経ってるはずよ」
そう言えばお腹が空いている。夢中になってたせいで忘れてた。
【腹時計】スキルを習得しましたとでる。
変なスキルもあるもんだ。メニューにNewが出ていたのでとりあえずスキルをONにしてNewを確認する。
うん。時計だ。デジタル時計が出てきたのでマップ下に表記させたままにする。
どうやら14時近いようだ。そりゃ腹も空くな。それにしてもスキル【腹時計】が時計に変わるとは思わなかった。なんだか食い意地がはってると思われそうで嫌なので表には見せないでおこう。
「どこか屋台かなんかで食べませんか?できれば地元の料理を味わいたいです」
「ならこっちよ。市場と一緒に沢山屋台が出てるの!」
リズに手を引かれながら屋台のある場所へ向かう。
向かった先は朝にリズをからかったおばちゃんがいる市場だ。昼時も過ぎる時間だが朝よりも食べ物の良い臭いがする。
「これはビックフットラビットの股肉の串焼きですよ」
ビックフットラビットは街の近くでも良く出る魔物らしい。足が異様に発達した魔物で飛び蹴りで馬も蹴り殺すそうだが、その肉は何故か脂が乗っていてとても旨いらしい。
「旨い」
焼肉のタレに似たタレで焼かれた股肉はとてもジューシーだ。5センチ大で5個ついた焼き串をペロリと食べてしまった。
「美味しいでしょ~ビックフットラビットはアスタールで食肉様でも養殖してるんですよ」
ニコやかに話しているが魔物を養殖とは恐れ入った。さぞかし筋骨隆々のおっさんたちがせっせと育てているのだろう。
「そこの兄ちゃんこれも旨いよ~」
貝の炭火焼きだ。これも旨そうだ。バターみたいなので焼いてて臭いが胃を刺激する。
「これはブブー貝だね。陸に住んでる貝だね」
リズの豆知識が凄い。感心して頷いてると嬉しそうな顔をしてくる。ブブー貝の貝柱はまるでお肉の様にしっかりしていて、とても噛みごたえがあった。
噛みごたえのある貝柱にバターが絡み、噛んだ所にまたバターが染み込んでいく。いつまでも噛んでたくなる位旨かった。
文化レベルは日本と比べくもないが食はバカに出来ない。未知の味が待ってる。これだけでも転生させてくれた神様に感謝だな。
その後もリズと食べ歩きを楽しんだ。
食べ歩きを一通り終えて今は魔法屋に向かって歩いている。魔法を学べるだけでドキドキとワクワクが止まらない。
【平常心】スキルと【無表情】スキルがなかったら顔を緩めて走り出しそうだ。
子供に変えったみたいに心踊る。
浮かれ気分のままリズと歩いているといきなり肩を掴まれ振り向かされる。
「おい!お前がカンナ・トウカか!!」
金髪でなかなかのイケメン。豪華な装飾が施された軍服を着て腰には細工の綺麗な剣を差している。
どこぞの貴公子か何かか?
「リズミット様に不埒な事をしたそうだな。俺様、ラズート・ミミットがお前を成敗してやる!!」
剣を抜き斬りかかってくるラズート。
剣先がリズにも当たりそうだ。成敗してやるとほざく割りに技が拙い。
前に出て剣の間合いを外し、剣を持つ手をを掴んで関節を極めて地面に押さえ付けると同時に骨が外れる音が伝わってくる。
あ、やっちまった。
「あぁぁぁ!」
ラズートが悲鳴を上げる。
「大丈夫ですかトウカ!」
うん、俺の心配はいらないかな。
それにしてもレベル差がこうまで出るか。まるでコマ送りみたいに動きが見えたな。自嘲しないと変なのに目をつけられそうだ。
「大丈夫ですよ。それよりこの人に怪我をさせてしまって」
「大丈夫です。こんな犯罪者みたいな人は牢屋に放り込みます!!」
ガシッと似非貴公子の髪を鷲巣掴みにして引きずっていく。
お~ワイルド~。
似非貴公子はレベル5で一般人と同程度だ。リズとは倍もレベルが違うのにあぁも体格差がある相手を引きずってくとは流石異世界。女の子はどの世界も強いな。
引きずられる似非貴公子は「リズミット様~」と悦に入った声を出していたので擁護の必要もないな。
「おやおやリズミット様も忙しいね~」
店のおばちゃん達がほのぼの見てる。焦った様子も見られないからいつもの事なのか?まさかな。
「あの馬鹿たれ騎士達もいい加減に諦めればいいのにねぇ」
どうやらホントに日常茶飯事らしい。リズミット・アストンのファンクラブ騎士達が日夜いざこざを起こしてるらしく、勘違いや行き過ぎた行為で民衆に迷惑をかけてはリズがボコボコにしては牢に入れてるらしい。
まったく過激なファンクラブは迷惑だね。
◇
夜も更け辺りが暗くなる。結局リズが帰ってこなかったので街の観光をして終わりにした。
そして今はアスタールの街が見える高台に来て街を眺めている。
異世界一日目の夜だ。
怒濤の一日だった。
異世界に転生し、命を守るためとは言え魔物の命を絶ち、盗賊との戦闘。
まるで戦国の世だ。
これから生をまっとうするまでこの世界の住人なのだ。覚悟を決めなければ生きていけない。
安寧とした日本の生活ではないのだ。
今こそ神成流剣術の活きる時。持てる技術が活かされる時だ。
「あ~疲れた」
高台の手すりに寄りかかり空を見上げる。とても綺麗だ。空気も吸ったことがないくらい住んでいる。街はまだまだ活気に満ちている。
【夜目】スキルを習得しました。
スキルをONにする。【夜目】スキルのお陰で夜に明るさが戻り、夜空の輝きが増す。
空に手を上げ、拳を握る。
覚悟を決める。何者にも屈しない力、守りたい者を守りたい時に守れる力を身に付けよう。
「さ、心配させないうちに帰ろう」