アスタールの街
「さっきはありがとう。私はリズミット・アストン。アラルの街のアストン家の次女よ。お礼に何か出来ないかしら」
「お礼ですか。じゃぁ失礼ですが街までの案内と服を乾かせないでしょうか?」
「それくらいお安いご用よ■■■■■■■【乾燥】」
暖かい風が吹き、暖かい風が服だけを包み込み水分を飛ばしていく。
おぉ。これは是非覚えないと。かなり役に立ちそうだな。
【火魔法:Lv1】【火魔法耐性:Lv1】スキルを習得しました。
スキルも簡単に手に入るしほんと異世界難易度『easy』だわ。スキルさまさまだな。
「後は街までの案内だったわね。それならここを真っ直ぐ歩きましょう。そうしたらアスタールの街が見えてくるわ」
アスタールの街はここから30キロ程先らしい。かなり遠い。
レベルのお陰で体力的には問題無いが、リズミットさんも一緒なので時間がかかりそうだ。
マップでは最大で直径30キロ程が効果範囲なのでアスタールの街はまだまだ見えない。
ちなみにリズミットのマップでの表示は青だ。
「そう言えばなんで盗賊団なんかに追いかけられていたんですか?」
「盗賊団『脱兎』の調査のためにアジトの捜索をしていたの」
うわ脱兎って、あいつらの逃げ足が速いわけだ。
「私の家は代々続く紅貴でアスタールの街でも領主であるマワト家の側使えの貴族。
私は次女とは言え領民を守る義務があります。
脱兎は金品を全て奪わず、少し奪っては逃走を繰り返すので騎士団でも手を焼いていて、たまに大きな窃盗や誘拐事件も起こしていたので早々に捕縛か、殲滅を騎士団でも検討をしていたので、痕跡を探そうと森を歩いていた所に魔物と遭遇しまして。
戦っていたところに奴らに遭遇しましたの。
奴等も私が邪魔だったのでしょう。遭遇して直ぐに乱戦になりまして数人は戦闘不能にしたのですが、このような有り様で逃げてきたと言うわけです」
ずいぶんアクティブな貴族様だな。勝ち気そうな顔はしてるがここまでとは。領主の側使えの貴族ならアスタールの街でも有力な貴族だろうに。
「それで痕跡は見つかったんですか?」
「それが遭遇はできましたが痕跡までは・・・」
盗賊団《脱兎》は騎士団に追われると森に入り、馬も捨て鬱蒼とした森の奥へ逃げていくらしいので森の中に拠点があるのが有力候補らしい。
「それより貴方のお名前を教えてくださらない?それにその格好・・旅にしては軽装過ぎません?」
さてどうするか。わかってたことだけど情勢や仕来たりなんかも一切知らない世界だ下手に話す訳にもいかないしな。ここは上手くはぐらかすしかないか。
「私の名前はトウカ・カンナ。実は田舎の村から剣術修行でカカサの森に隠っていたんですが、修練中に荷物を盗られてしまって、この有り様で・・・何とか森からも出られたんですが地図も盗られたので道もわからずじまいで」
「それでその格好なんですね。それでもお陰で助かりました。カンナさんには失礼ですが盗った方に感謝ですね。カンナさんがいなければ今ごろ私は盗賊に捕まってました」
【詐術:Lv1】【無表情】スキルを習得しました。メニュー覧に機能が追加されました。
直ぐにスキルをONにする。
詐術は申し訳ないけど異世界人が一般的なのか知るまでは偽装できると助かる。モルモットになるのはまっぴらごめんだ。
メニュー覧を確認する。ステータスの横にNewと書いてあるので確認する。するとステータス覧が追加になっておりステータス数値の変更やスキルの表示可否の設定が可能になっていた。
とりあえずステータス覧の数値とスキル表示を変更。
名前:トウカ・カンナ
種族:人族
性別:男
年齢:18
レベル:20
HP:1480
MP:65
力 :168
守備:135
俊敏:170
器用:146
スキル
【剣術:Lv6】【体術:Lv4】【気配探知:Lv1】【鑑定:Lv2】【解析:Lv1】
これだけでも化け物扱いされそうだけど修行で森に籠ってた設定だから弱くするわけにもいかないしな。もっとまともな服なら商人設定とかできたのになんで胴着なんだよ。
◇
一時間後、マップに街を捉える。マップにアスタールの街と出ている。
マップ検索範囲にはまだ端しか捉えてないので正確な規模はわからないがかなりの広さだ。街を囲むように城壁が築かれている。
マップが住民を感知し始めている。街の中、城壁外縁ともに人を多数確認できる。入り口付近には人が列をなして並んでいるのも確認できるので検問所でもあるのだろう。
やっぱり荷物が無くした設定であってたな。それにこの格好じゃ疑いようが無いしな。
「あれがアスタールの街です!その大きさはサイード王国の中でも指折りなんですよ!」
遠目スキルを使わなくても朧気に見えてくる。遠目スキルを使うと城壁向こうに城の様な建物も見える。
これで王都ではないのだから凄いの一言だ。
文明的にはまだまだか。戦国時代が良いとこかな?今さらだけどちゃんと勉強しとけば良かったな。
◇
「身分証の提示をお願いします」
どうやら貴族専用、商人専用、アスタールの街の人専用の3つの扉があるようでリズミットさんの案内で貴族専用の入り口に来ている。
「リズミット様有難うございます。そちらの方も身分証をお願いします」
うん。貴族専用だけあって対応が礼儀正しいな。さっき商人専用を通り過ぎた時には商人と門兵が口論していたし、かなり言葉使いも荒かった。まぁ密輸とかを防ぐのにも礼儀だけじゃやってけないか。
「すみません。この方は身分証も荷物ごと盗られた様なので再発行をお願いします。身元なら私が責任を持ちます」
「アストン家のご令嬢がそう仰るのであれば構いません。再発行の手続きは別室で行いますので移動をお願いします」
移動先の部屋には直径3メートル程の魔方陣が書かれてある。その上に立つように指示を受け移動する。
中央に移動すると魔方陣が輝き、光の輪が足元から頭まで移動しまた足元に戻っていく。
まるでコピー機にでもスキャンされてるみたいだ。
【無魔法:Lv1】【無魔法耐性:Lv1】を習得しましたと出る。
「これは凄い」
兵士の声が漏れ、リズミットさんも確認しに行き驚いている。
「強いとは思っていましたがこれほどとは驚きました」
俺も確認する。さっき設定を変えたステータスが表示されていた。元のステータスが表示されなくて良かったぁ。ちょっと不安だった。
「凄いですよ!レベル20と言えば王国騎士でも上位に入れる実力ですよ。スキルレベルもその歳でかなり高いです」
何やら兵士が興奮している。彼を鑑定すればレベルも5と盗賊団と同程度だ。これで上位の兵卒なら盗賊に手こずるのも頷ける。
「あの~身分証の発行をお願いします」
「あ、すみませんつい興奮してしまいました」
それから直ぐに身分証は出来上がった。身分証はカードでどこで発行したかと名前、性別、レベルも記載されていた。
ちなみにリズミットさんから聞いた話ではカードの中にステータスも記録してあるらしく、特殊な魔法陣で読み取る事が出来るとのことだ。
「これは凄いですね」
目の前には活気に溢れた街並みが続いている。どの人も元気で活力に溢れている。余程領主のマワト家の人がいい人なのだろう。
それに人以外にも歩いているのに驚く。猫耳、犬耳様々だ。何より蜥蜴の姿をした人や鳥の姿の人もいる。獣の姿も人それぞれで完全に獣の姿をしている者から一部だけ獣の姿がある者もいる。
「驚きましたか?ここはサイード王国の中でも特別なんです。他種族への差別を排斥しようとマワト家が作り上げた街なんです。なのでこの街では差別を禁ずる法令もあるので気を付けてくださいね」
話を聞けば完全に種族間のいざこざが無い訳ではないが、基本は話し合いで解決するくらいのいざこざらしい。
アスタールに住む者も基本差別意識が薄い者ばかりらしいし、他種族が交わることで商業が活性化しておりサイード王国でも5本の指に入るほどだそうだ。
争いが無いのは良いことだね。でもやっぱ面食らうなぁ。異世界キターだわ。ホント。
オタクじゃないけど犬耳、猫耳には萌えるものがあるな。つい撫でたくなる。