初めてのレベルアップ
まさか自分が異世界なんてファンタジーに転生するとは思わなかったが、MP表示があるってことは魔法ももちろんあるのだろう。それはそれで楽しみで仕方ない。
やっぱり俺も男だ。昔からファンタジーには憧れがあったし、神成流剣術を使って異世界冒険を夢見た時期もあった。アニメやゲームも好きだった。社会人になり時間が無くなり忘れていた童心が甦ってくる。
まずは早く人に会いたいものだ。町にいけば魔法を教えてくれる人も居るかもしれない。これほどワクワクが止まらないのは何時ぶりだろうか。浮き足だったせいで何度か木の根に突っかかってしまった。気を引き締めてマップを見ながら歩きだす。
ちなみにマップは拡大、縮小が可能で常時出しっぱなしにも出来るみたいで右上に表示されたままになっている。半透明で視界の邪魔にはならない。確認時には色合いも濃くなり見やすくなる。至れり尽くせりだ。
そんなこんなで森の中を歩くのに慣れてくるとメニューボタンの下に文字が現れる。
スキル【悪路走破:Lv1】【疾走:Lv1】【気配探知:Lv1】を習得しました。
まさか森を10分程度周りに気を付けながら走っただけでスキルを習得するとは思わなかった。
ステータスを確認しスキルを見るとスキルの使用のON、OFFが切り替えれる様なので全てONにする。
スキルに夢中になっていたせいで気づくのが遅れたが近くにゴブリンが居るようだ。森を抜けるついでにファンタジー生物に会いに行こう。
なんなら初戦闘なんてするのも良いかもしれない。この世界の文明がどの程度なのかはわからないが、今後魔物との戦闘は回避できないだろう。
命のやり取りはあまり気が進まないが慣れなければいけないだろう。
マップを見る限りゴブリンは一体。Lvも3だ。俺はLv1だがLv10のステータスになっている。ゲーム感覚なら赤子の手を捻るような物だ。
木々に身を隠しながらできるだけ気配を消して近づく。
スキル【隠密行動:Lv1】【気配遮断:Lv1】を習得しましたと出てる。直ぐにスキルをONにする。先程よりも上手く気配を消して行動できている気がする。
お、いたいた。緑色の小鬼。120センチ位、ずんぐりむっくりで腕の筋肉だけ異様に発達している。
右手に石槍を持って左手で鼻をほじって歩いてる。能天気な野郎だ。
よし、殺る。そう思って隠れている所ろから出ようとするが足が中々でない。
足が震える。
散々訓練してきた。牛の生肉の塊、動物の死骸等々。肉を斬るのには慣れてる。だけど命を刈るその一点は未だ経験がない。
後は命を刈り取り、相手を殺す決心をするだけ。相手は未知の生物ゴブリン。戦い方もわからないが、レベルは実質7レベル違う。負けることは恐らくない。始まれば一瞬だろう。その一瞬を覚悟できるかだ。
下を向き決心を決めているとマップのゴブリンのマークが赤に変わる。
ん?なんだ?
ゴブリンに向き直るとこちらに気付いたのか石槍をこっちに向けて走ってきている。
「キイキイイ!!」
ゴブリンの殺気だった声と共に石槍が突き出される。
目の前に迫る槍に自然と怯えた心が冷めていく。左脇に差した刀の鯉口を切る。身体が相手の槍を避け、避け様にゴブリンの腹を斬る。
「ギィ、ギィ」
ゴブリンはそのまま倒れ地面には緑色の血が流れ出て小さな水溜まりが出来上がる。
ゴブリン1体を倒しました。Lvが7へとアップしました。とメッセージが流れる。
ゴブリンを殺した。肉を斬った感覚が手にしっかり残っている。肉を斬る訓練は今まで散々してきたから特に気にすることはない。
ただ気にしているのは生きてる者から命を奪ったと言うその一点だ。
日本いや現在の地球では殺人は大概の人類にとっての禁忌である。どの人種も殺人を犯せばそれ相応の罪に問われ、最悪死刑である。
そして世界でも日本は罪についてどの国よりも機敏であり、周りには銃を持ち自衛している家など基本はない。1度も犯罪に会わずに死ぬ。そんな夢のような人生も送ることができる可能性があるほどに犯罪が少ない平和な国である。
そんな平和な国にて殺人を追求する武道。神成流剣術。
神成冬華は神成流剣術の正当後継者であり。神成流剣術においては歴代最強の剣術家。
歴代最強の剣術家とは言え、平和な時代において殺人剣術を振るうことは基本はない。
だが、彼は転生し、異世界アーテットの住民となり、今までファンタジーの中だけの生物ゴブリンを斬り殺した。
だが、ゴブリンは人間ではない。人間は同族、人を殺すことに忌避を感じるが、生を口にして生きている。自らの手で命を断つ事を忌避するが、日々動物を口にして生活している。
ただゴブリンは動物の様に人の形から遠い存在ではない。人形の異世界の生物なのだ。殺せば自然と忌避の感情が込み上げてくる。
やけに冷たくなった心に熱がこもり、胃から胃酸が込み上げその場で嘔吐する。
予想を上回る失意の感情。殺人剣術を極めんとしてきたが、これほどに気が落ちるとは思っていなかった。
初めて命をたった相手ゴブリンへ手を合わせ合掌する。特に信神深い訳でも仏教を信じている訳でもないが、自然と合掌し、冥福を祈った。
すると落ちた気持ちが落ち着きを取り戻し、平常運転へと切り替わる。
スキル【恐怖耐性】【平常心】を取得しました。とメッセージに流れる。直ぐにスキルをONにする。
この世界では魔物がいる以上命のやり取りが日常であるのだろう。身を守るためにも遅れをとる訳にはいかない。
気持ち悪いが、ゴブリンの死体を漁る。とりあえず腰巻きの布を取り刀に付いた血を拭き取る。ゴブリンが脇に着けていた布袋を開けて中を確認する。
ラド銅貨2枚、何かの動物の骨、最後に小さな魔石が入っていた。銅貨と魔石はアイテムの中に入れる。骨は用途が無いので捨てる。
魔石なんて物が出てくるとは思わなかった。ゲームや小説の中じゃ魔物の中にあるはず。
でも死体を切り開いて物色する気にはならない。出来れば人形じゃなくて動物形の魔物のから練習したい。慣れればどうにか出来るのかもしれないけど今は遠慮したい。やるのも物色までだな。
それにしても早めに町にたどり着きたい。服装も変えたいし、まずこの世界の文化レベルを知りたい。
それによって出来ることも違ってくる。スキル【鑑定】【解析】があるから商人や鍛治師なんてのになるのも良い。まず当面の目標は人に会って町まで案内してとらうことだな。
それにしても問題はこの広大な森をどっちに抜けるかだ。
何とかマップ機能で何とかならないかとも思ったが、予想以上にカカサの森が広いためか森の端が見えない。
もう少し移動をしなきゃならないようだ。
全速力で移動を開始する。
スキルを取ってONにしたお陰でスムーズに森を抜けていく。
森を抜けている間にスキル【跳躍:Lv1】を取得した。
【悪路走破】【疾走】のスキルレベルが1から2に上がったお陰で更にスムーズに進む。
途中ゴブリンに再び会うが、スピードに物言わせて首を撫できる。軽く降ったつもりが首が飛ぶ。スキル【恐怖耐性】【平常心】のお陰か初めの怯えが嘘のように消えて倒すことができた。
首が飛んで血が吹き出てたのがチラッと見えたが、気分が悪くなりそうなのでとっとと駆け抜ける。
その後も5体のゴブリンと戦闘をこなして倒した。命を断つことに忌避感は拭えないが、だからと言って尻込みしたる怯えたりすることはなかった。これも全てスキルのお陰かと思うと逆に恐怖を覚える。
だが、元々殺人をむねとした家系だ。冷血な血のせいなのかもしれない。
どう考えても堂々巡りだなこりゃ。
最終的にレベルは17まで上がっていた。
小一時間走ったが疲れることや息も上がることもなく何とか街道まで出ることができた。