異世界は唐突に始まる
俺の名前は神成冬華
年は25歳。女みたいな名前だが立派な男だ。彼女にも「立派」って言われたほどの男らしさだ。
だけど顔がなにぶん中性と言うか女性よりの顔つきなので彼女と歩いていてもたまに姉妹に間違えられる。ボーイッシュな女の子の方が余程男らしい人が多いので羨ましく思ったこともある。
家業は神成流剣術。剣道とは違って竹刀でなく真剣を使って訓練する。平穏だろうと鉄の重みを感じて剣を振う。必殺の殺人剣技。それが神成流剣術。
だけど平穏の世に剣術はそぐわない。剣道ならいざ知らず古流である神成流剣術は世の中に置いてかれた。
家業では中々儲からないので今やサラリーマン。親父と母親が外国人の教え子をとったりして道場の営業方針を方向転換してきてる。教えるのも必殺の剣ではなく守りの剣。忍術なんてものも教え始めたお陰で外国人の教え子急増中だ。
「今日も良い天気だな~」
胴着を着て片手に真剣を持ったまま道場の脇にあるベンチに腰かけている。
日課の素振り1000本と型の確認。顔は中性だが身体はしっかり鍛えられている。そこらの細マッチョには負けない。戦国の世でも戦える身体作りだ。
「冬華~そろそろ時間だよ~」
母さんの声が聞こえる。もうそんな時間か。シャワーを浴びて仕事の時間だ。
◇
通勤のため最寄りの駅に向かって歩いている。通勤時間は一時間半。いつもの通りの道を歩いている。
通学中の学生、通勤の社会人、保育園の送り向かいに忙しそうな父母達。いつもと変わらない光景。
ブーーー。
バスのクラクションが鳴り響く。
バスの前には小学生の女の子。黄色い帽子を被っている。
女の子の前には小さな子犬。首輪も着いてるので恐らくペット。
子供の母親は歩道で顔を青ざめさせている。
たくしっかり手を繋いでろし。あのバカ親が。悪態をつきながらも身体が勝手にバスの前に飛び出す。ちょうど子犬を抱き抱えた少女を抱き抱えて道路の恥に投げ飛ばす。
投げ飛ばされて少し怪我するだろうが死ぬよりはマシだろう。右を向くとバスが目の前に迫っている。
あぁ。こりゃダメだな。
ドンっと衝撃を受けて意識が飛ぶ。
◇
気が付いて目にしたのは森林。呼吸をすれば久しぶりに感じる新鮮で澄んだ空気。
それにしてもここはどこだ?
直ぐに疑問が浮かぶ。バスに引かれた人間をこんな所に放置する日本人等いない。
それになんだ。目に映るものは。左上に2段に別れて数字が表示されている。
上からHP:1000/1000、下にMP:500/500と表示されている。
MPの下に歯車のマークが付いている。
不思議は尽きない。数字だけを見ればまるでゲームの中だ。だがゲームの中に入れるなんて物は聞いたこともない。
感じている感覚は生身その物。呼吸も神経も。起き上がり頬をつねる。
「痛いな」
これじゃラノベやアニメの世界にでも迷い混んだ様だ。夢か幻か。植物状態にでもなって何かの実験台にでもなってるか。本当に異世界に迷い混んだか。バスに引かれて死んで異世界に転生したのか。
転生したにしては大人のままの身体だ。しかし服は何故か胴着。傍らには刀。
体調は万全。不調は感じられない。
歯車のマークを触ろうと手を伸ばすが触れれない。視線で反応しないのは先程からの反応で確認済み。なら触って駄目なら念じるのみ。
念じた瞬間に目の前に言葉が現れ、同時に周りが光の膜に覆われる。
『ようこそ神成冬華様。ここは異世界アーテットです』
目の前に文字が書かれた画面が現れ、女性の声で何故か聞き入ってしまう。画面に触れようとするが触れない。摩訶不思議だ。
『神成様の善行に対し地球の管理者より転生認証がありアーテットへ転生しました』
地球の管理者か。神ではないのか。それにやっぱりここは異世界だったか。
『本来はアーテットの転生の間への案内になるはずでしたが、使用許可が降りなかったため現地へ転生の後、メッセージでのお知らせになりました。
そのため地球の管理者より特典が届いております。
特典の説明の前にこの世界についての説明をいたします。
この世界アーテットはレベル、、魔法、スキルの存在する世界になります。地球のゲーム。RPGの中を想像していただければ簡単かと思われます。
神成様は現在、ステータス上はレベル1ですが、レベル10でステータス上昇値が最大で上がり続けた状態のステータス値となっています。そしてこれが現在のステータスです』
文字覧の横にステータスが現れる。
名前:カンナ・トウカ
種族:人族
性別:男
年齢:18
レベル:1
HP:1000
MP:500
力 :100
守備:100
俊敏:100
器用:100
HPが最大100でMPが最大で50。後は最大値が10か。ゲームっぽい世界だからステータスを除かれたら化け物扱いだなこりゃ。
『スキルもございますので確認をお願いします』
ステータスを確認し終えると画面がまた現れ文字が書かれている。
スキル
【異世界難易度『easy』】【神成流剣術:Lv10】【剣術:Lv10】【体術:Lv10】【鑑定:Lv10】【解析:Lv10】
スキルを鑑定、解析する。
【異世界難易度『easy』】
経験値取得量を通常の10倍で取得することが出来る。レベル上昇時には必ずステータスの上昇値最大でステータスが上昇。
スキル習得率が通常の100倍速で習得することが出来る。
学習能力極大強化、記憶能力極大強化、思考能力加速によりスキルレベル上昇極大補正。
目視メニューの表示。スキルによるメニュー覧追加。
他者のスキル認識不可。
【神成流剣術:Lv10】
神成流剣術を極めし者。神成流剣術を使用時威力上昇極大補正。剣技の自動補正。
【剣術:Lv10】
剣を使った戦闘時、剣術の速度、威力に上昇極大補正。剣技の自動補正。刀剣類への保護、切れ味の上昇効果。
【体術:Lv10】
体術の体捌き自動補正、威力上昇極大補正。
【鑑定:Lv10】
人物、魔物、物品、魔法、スキル鑑定可能。レベル差による鑑定不能無し。
【解析:Lv10】
人物、魔物、物品、魔法、スキル、言語、書物の解析能力上昇極大補正。鑑定能力上昇補正。
うわ何これ。ゲームでもこんなのあんまり無いぞ。せいぜいゲームクリア後の2週目ボーナスありきでならこれくらい、いくか?
最近仕事に家業の道場に忙しかったからゲームもろくにしてなかったからな。勘が鈍るな。
『以上が神成様のステータスになります。ステータス画面の確認は歯車のマークを念じて開くとメニュー画面が開きますので随時確認をお願いします。
メニュー画面についてですがスキル習得にあわせて使用項目が増加していきますのでスキル習得時には確認をお願いします。
以上で異世界アーテットでの転生時の確認を終了します』
声が聞こえなくなると同時に光の膜が消え、画面も同時に消えた。そしてMPの下にメニューバーが現れる。
メニュー
ステータス
アイテム
マップ
と出ているのでステータスをとりあえず確認ののち、アイテムを開く。
アイテム覧には大食いしても1ヶ月は持ちそうな程の食糧とこの国の通貨と思われるラド金貨1000枚が入っていた。
食糧とお金をくれるならこの服もどうにかしてほしかったな。剣道の胴着なので素肌の上に着ている。幸いにも日が射していて気候が良いのでまだ寒くないが夜は辛そうだ。
しかも足は足袋だ。靴くれよ靴。足袋の裏に滑り止めのゴムが付いている。服だけやけに古風だ。何なら引かれた時のスーツでも良かった。
現状の確認のためにもマップを確認する。
今いるのは『カカサの森』と言う森みたいだ。マップには自分の位置が青で表示されている。周りに黄色い点があり確認すると魔物や動物の様だ。魔物を確認するとLvと名前を確認できる。ゴブリンが数体にウィリハと言う魔物が数体いるようで、魔物のLvは2~3だった。動物はウサギに熊、タヌキや狐等もいるようだ。ゲームのマップより便利だ。流石難易度『easy』だ。