虚無を飼う(2.2)(第一回定例会 自己紹介)
「自己紹介……」
空也がそう呟いて、顔を強張らせる。
「先に手本見せるから大丈夫だよー。翼くんが」
「いやここは順当にお前からだろ発起人」
しれっと俺に押し付けようとした遥にすかさずツッコミを入れる。
「私もちゃんと喋るのは苦手なんじゃぁ。なんも用意しとらんしー」
「用意してないんかい」
「翼くんの作ってくれた流れに無料乗りしようとしてた」
「人任せ過ぎる。えー……、フツーに学年と名前、他に掛け持ちしてる部活とか団体とか、得意な魔術と得意科目、休みの日の過ごし方、最後に意気込み、とかじゃね?」
「意気込み。陽キャかよ」
「最初の印象は明るく元気な方がよい」
「なるほど」
遥がうなずいてしばらく考えてから口を開く。
「では私から。高等部一年。瀬野遥。魔術研究会の会長になりました。魔術の得意分野は幻術ですが、高等部修了分は一通りできます。んーと、魔術以外の科目だと、数学が好きです。運動はとても苦手です。休日は、引きこもってゲームしてるか本を読んでいるか寝ています。魔力で空を飛ぶのは小さい頃からの夢でした。どれくらい時間がかかるかは分かりませんが頑張りますのでよろしくお願いしますね」
遥が言い終えて気恥ずかしそうにちょっとだけ会釈する。
それを見てから俺は皆の方に向き直って話し出す。
「高等部一年。月城翼。何故か副会長に任命されました、よろしくお願いします。私も高等部修了までの魔術はそれなりにできますが、専門は癒術です。魔術以外は、化学と英語が得意です。休みの日は作曲作業をしています。進捗はあまり良くないですが、癒術用の歌も作成中です。披露できるように頑張ります」
何となく目配せした先で光と目が合った。
「鳥鐘光と言います。高等部二年生、現生徒会長です。魔術というより魔力を使った戦闘の方が得意です。他に好きな授業は……地理、かしら。授業外は生徒会か習い事をしているのであまり休みってないけれど、外へ買い物に行くのは好きですね。空を飛ぶ魔術は聞いたことがないですが、本当に飛べるのなら、絵本の世界みたいで素敵だと思うわ」
長い黒髪が話し声に合わせて靡いている。
光に促されて、高志が口を開いた。
「緑蓮高志。高等部二年、生徒会副会長。魔術はまぁ……そこそこ。得意科目って……強いて言うなら現文かねぇ。普段は家の都合で光の手伝いをしている。そんな大層なもんじゃなくて基本は雑用係だが。用がないときは家でゲームをしている。以上」
やや愛想のない言い草の高志に遥が口を尖らせて言う。
「副会長やる気なしかよー」
「へいへい」
「次誰から行く?」
それぞれ顔を見合わせる三人に、遥が言う。
「最後でもいいけど、トリはトリで緊張しない?」
空也がおずおずと手を上げた。
遥がにっこり笑ってうながす。
「どうぞ」
「古柴……空也、です。普段は空也って呼ばれているので皆さんもそう呼んでくれると、助かります。えっと……、俺も、生徒会のメンバーではないですが、実働部に所属しています。ので、いないこともあるかもしれませんスミマセン。運動は得意な方です。勉強と魔術はあんまりですけど……。」
多少つっかえながらも言い終わってホッとしている空也に、遥がパチパチ拍手する。
「ガンバッター」
佐代里が手を上げて話し出す。
「中等部三年、月鐘佐代里です。普段は中嶋と名乗っていますので、そちらで呼んでください。兼部等はありません。体質で魔力が見えますが、私も魔術は得意ではありません。授業でやったところくらいしか……。ほかの科目の成績も特筆すべきことはありませんが、受けていて楽しいと言えば英語ですかね。瀬野先輩のお誘いで加入しました。よろしくお願いいたします」
結果的に最後になってしまった雲母が、快活に口を開く。
「中等部三年、古柴雲母です。兼部は、ダンス部と、名前だけ貸してる美術部です。魔術は授業でやった範囲はできます。魔術も他の科目も成績はそこそこ良いです。運動神経だって悪くない方だと思いますよ。飛び入り同然ですが、仲良くしてもらえると嬉しいです。よろしくお願いしますっ!」