小話・ポッキーゲーム
遥が有名な細長いチョコレート菓子を両手に持って振り回しながら叫ぶ。
「ポッキーぃぃぃぃゲぇぇぇぇぇぇーム!!!」
「大遅刻っ」
「馬鹿な。バレンタイン企画やぞ」
「……そういうことにしておこう」
「そもそもいつだってポッキーさんは美味しいだろ」
「そりゃまぁそうなのだが」
「というわけでやりましょうポッキーゲーム」
「食べ物で遊んではいけません」
「べつにポッキーでチャンバラしようとか思ってないぞい」
「先に言われただと……」
「ごく一般的に盛り上がる甘いやつですヨ」
と言って一本だけ手に持つ。
しかし次の行動に移らず、しばらくまじまじと菓子を見つめて呟いた。
「ところで思ったのだが」
「はい」
「どうやって始めるのだ」
「そこから」
「えー、だって、持つのはクッキーの方でしょ? このままだと、それからチョコの方をくわえて差し出すことになるけど、さっきまで摘まんでいた方を相手に差し出すのってどうなんだ? って感じだし、かと言ってクッキーの方をくわえようとすると、今つかんでいるギリギリのところを口に持っていく荒業を成し遂げないといけないわけで、『何やってんの?』ってならない?」
「説明がだいぶ分かりにくいけど、もともとポッキーゲームなるものが『何やってんの?』っていう遊びだから気にしなくていいぞ」
「むぅ……」
遥は不満そうに黙って悩んでいたが、すぐに何かひらめいたような顔をして、おもむろに手に持っていた菓子をこちらに差し出し、ひときわ甘い声でこう言った。
「はい、あーん」
俺は差し出されたチョコレートの塗られた先をくわえる。
間髪入れずに遥が指を離し囁いた。
「落としたら負けだからな」
そして、反対側をくわえた彼女の顔が、サクサクと近づいてくる。