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虚無を飼う(2.1)(第一回定例会)

「今からァ、魔術研究会第一回定例会をォ、初めまァす」


 (はるか)が奇妙の口調でそう宣言した後、スッと黙る。

 しばらく間があって、おもむろに高志(たかし)が顔の横に三本指で横向きのピースサインを作って呟く。


「……綺羅星(きらぼし)


 その呟きに、(はるか)は顔を輝かせて同じポーズをして叫ぶ。


綺羅星(きらぼし)! よかった全滑りかと思った」


 それから胸に手を当ててお辞儀をしながら演説口調で話し出す。


「お忙しいなか、お集まり頂きありがとうございます。当会会長の瀬野(せの)(はるか)です。お見知りおきを」


 そこまで喋って再び黙る。

 眉間にシワを寄せているので、声をかけた。


「どうした」

「口調崩して良い? 疲れてきた」

「いつまで続けるのかなって思ってた」

「フンス」


 (はるか)は鼻を鳴らしてから、今度は普段の軽い感じでこう言った。


「で、とどのつまりが活動内容を決めたいってことなんだけど」

「決まってなかったんですか?」


 佐代里(さより)の発言に(はるか)が応える。


「個人的な野望はあるけど、とりあえず何かやりたいことがある人いないかなーって思って」


 空也(ソラ)が静かに手を上げた。


「はーい空也(ソラ)くーん」

「入部希望しといて何なんだが、俺あんまり魔術は得意じゃないんだ」

「承知。授業の補填や練習もしましょー。代わりに私の手伝いもしてね」


 次に、高志(たかし)が手を上げて言う。


「なら、生徒会実働部の実戦演習もお願いしたいんだが」

「おー。頼まれごとが増えてくねー。じゃあ、いっそ学内からの相談事を引き受けることもしましょう。ポスター作り直しておくね」


 ホワイトボードに書き込む。


「ほかにはー?」


 誰も手を挙げないのを確認した(はるか)が、ニヤリと笑って言う。


「よーし。じゃあ本題ネ」


 そしてホワイトボードをクルリと回転させ、裏に書いてあった文字を読んだ。


「完全自由飛行」


 彼女は、ホワイトボードに手を当て説明を続ける。


「端的に言えば空を飛ぶのが目的です。魔具無しでね」

「できるんですか?」

「できないことをしてはいけないという決まりはどの世界にもないヨ」


 雲母きららの疑問にはるかが即答する。

 続けて言った。


「というのはちょっと言いすぎだけど、『まだ誰も出来たことがないこと』をやるのが研究というものらしいよ」

「いいんじゃないか? 魔女は飛ぶものだからな」


 高志(たかし)がそうぼやいてニヤリと笑う。

 (はるか)が首をかしげながら言う。


「ともあれ、まだ何も調べてないし、予備知識もないから、まずは調べ学習……? からかなって考えてるよ」


 俺はふと気になって、静かに手を上げる。

 (はるか)に指されて、おもむろに口を開いた。


「実は禁術きんじゅつ指定だったりしねえ?」


 禁術きんじゅつとは読んで字の通り、禁止されている魔術のことだ。有名なのは、遺伝子操作、貨幣の製造、召喚魔術など。大抵、社会的な混乱を避けるために定められている。


「えっ!? どうだろ。魔動ヘリとかあるから大丈夫だと思ってた」


 (はるか)が驚いて返事をする。

 魔動ヘリとは、エンジンやモーターの代わりに魔力を用いてプロペラを回して飛ぶヘリコプターのことだ。見た目はほぼ機械だが、魔具に分類される。


「いやー分からんぞー?」

「うわーっ調べとく」


 (はるか)がメモを取り始めた。


「おい副会長」

「誰が副会長だ生徒会副会長」


 俺たちのやり取りに割って入ってきた高志(たかし)にツッコミを入れる。高志(たかし)が腕組みをし、はるかに話しかける。


「テーマ決めて、今日は終わりってことで良いのか?」

「そうなるネー。てか、私はもっと反対意見とか、『出来る人知ってます』とか出てくるもんだとばっかり」


 (はるか)が顔を上げて返事をする。


「確かに、飛べる魔術師って知らないな、って感覚くらいかね」

「そうか……魔術家出身のおぼっちゃんじょうちゃんらは、庭の箒にまたがって飛ぶ練習とかしないんやな……」


 (はるか)の言葉を聞いて、皆がそれぞれ首を横に振ったり傾げたりしている。

 それを見た(はるか)が大袈裟に天を仰ぎ、それからしゃがんで膝を抱えシクシク泣き始める。


「おい、帰るぞ?」

「あーっ、待って待って。お互い自己紹介しときたい。初対面の人もいるだろうし」


 既に腰を上げようとする高志(たかし)を、(はるか)が慌てて止めた。

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