生徒会長さまの×××××
硝鍵学院高等部生徒会会長、鳥鐘光。
黒髪ロングの美少女。小柄な体格でありながら、格闘技に魔力を付加する戦闘を得意としている。
雨乞いの祈祷を請け負う鳥鐘家の一人娘で、大事な跡取りだ。
硝鍵学院高等部生徒会副会長、緑蓮高志。
身長一九〇センチはありそうな大男。鳥鐘家に仕える家系の一つ、緑蓮家の息子。例に漏れず、鳥鐘家の光の世話を焼いている。
二人は遥と顔見知りだ。何でも、遥の編入が決まったときに迎えに行ったのがこの二人なのだという。
光は遥と仲良くしている。彼女ら二人だけで話しているところをよく見かけるし、休日に一緒に出かけることもあるらしいが、一方高志は遥のことをものすごく警戒している。
遥は正確な話をしないし、二人もあまり話したがらないが、どうも彼女がなんかしたんだろうという想像は付く。
じゃあ高志とは険悪かと言われると、そういうわけでもなく。
少し前、遥と高志が、なにか言い合っている現場を目撃した。
喧嘩でもしてるのかと耳をすますが、どうにも違うようだった。
「暇をもて余した」
「神々の」
「「遊び」」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」
「きーぁ ひゅんみー。ぱーぐれ てす、よー」
「……ふぉう ぱくす が、きぁひゅんよ」
「アハハハハハ! 副会長まじスンゲェね!!」
「あいつスゲーオタクだぞ!!!」
俺の視線に気づいた高志が遥を指差しこちらに叫ぶ。
「いや、お前ら同族にしか見えねえよ」
最後なんか何言ってるのかさっぱりだからな。(注:俺にはこう聞こえたって表記です。違ってたらすまん)
何を隠そう、高志はめちゃくちゃオタクだ。
遥もそこそこオタクだが(実家に漫画の蔵書が沢山あるらしい)、高志はそれに輪をかけてオタクだった。知らないアニメ・漫画・ゲームは無いんじゃないかというくらい。
そんなわけで、遥と高志はこうして時々オタクトークをして盛り上がっている。
遥が急に話題を振って、高志が渋々応えるという感じだが。
ある日、遥が二人にこう切り出した。
「というわけで、お二人は付き合っているのですかっ?」
「唐突だな」
と高志。
「いつも一緒にいるし」
「クラス違うけどな」
「それなのにいつも一緒っぽいとか逆にすごくネ?」
「いや違うから」
「えっ」
「違うから」
「えー?」
「こいつ婚約者いるし」
「いないわよ」
高志の言葉に、少し離れたところにいた光が短く否定する。
眉をひそめる高志に俺が補足情報を提供する。
「正確に言うと婚約者候補だな」
この界隈には、魔術系家業や体質持ち家系とそれに仕える家系で構成される、見合い用ネットワークがある。大人が、後継者探しの為に世話を焼くのだ。
「昔は翼君も入ってたという……」
「お前それ知ってんのか」
遥の言葉に驚く高志に、遠い目をして遥が呟く。
「彼氏の過去の恋愛歴はー、聞くし調べるよねー……?」
「そこはかとなく気持ち悪い奴だな」
俺と光で、一応弁解しておく。
「まだ中学生とかだったから、見合いも何もないけどな」
「そもそも全部断っているわ」
「俺は彼女出来たってとりあえずストップ」
後継者探しの為ではあるが、実のところそこまで強制力は無いのだ。
始終クールな回答の光に、遥はつかつかと詰め寄って尋ねる。
「光はなぜ断っていられるのですか!? 好きな人が他にいるからじゃないんデスカ!?」
「いないわよ」
「じゃあきみにとってアレはなんだねっ!?」
「おい、人を指差すな」
「ただの昔馴染みでお付きだ」
嫌そうにそう言う高志に、遥が叫ぶ。
「光に聞いている!」
「私の……」
光は呟いて、しばらく物思いにふけるような顔をしてから、うっすら微笑んで、
「私のお気に入りよ」
と応えた。
遥がすっと真顔になり、つかつかと今度は俺の方に来てヒソヒソ話し始める。
「聞きましたかお兄さん」
ノリで付き合ってこちらもヒソヒソ話し始める。
「詩的ですね」
「どことなくヒワイです」
「卑猥ゆーな」
「どちらかと言うと……物扱い?」
「愛玩動物か?」
「それやそれ」
勝手なことを言い合う俺達に高志が低い声で言う。
「お前ら好き放題ゆってくれるなぁ?」
襲いかかってくる高志を二手に別れて回避する俺達。
そんな様子を、光はずっとクスクス笑いながら見ていた。