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閑話休題の本題

「こんなものを見つけました」


 はるかが「小説家になろう」というサイトの「彼女が俺を好きすぎてヤバい」の目次ページを見せながら言う。


「これ、私らのことだよね?」

「俺が書いたからな」


 しれっと俺が言うと、はるかがキツネにつままれたような顔をして呟く。


つばさくんって文才あったんだね……」


 そして、作者名のところを指さしながら聞いてきた。


「じゃあ、このホクセイシグレってのが、つばさくんのペンネームなの?」

「それは俺じゃない。でもってキタニシジウって読むらしい」

「どゆこと?」

「他の作品もアップされているけど、俺が書いたのはこれだけってこと」

「なんで代理投稿なんだね」

学院ここ、インターネット入れないのは知ってるか?」

「ここに端末あるけどね」


 はるかが先ほどから持っている端末は、外で言う「スマートフォン」のような見た目である。

 しかし、学内やその周辺の町村、その他魔術的に秘匿義務のある場所では一般の通信機器は機能しない。

 携帯端末は圏外。それ以外の、電話、テレビ、インターネットなどの有線及び中継局が必要なものも、それらを置くことができないので使えない。衛星も妨害しているので衛星放送どころか位置情報も取得できない。使えるのは、ラジオとアマチュア無線くらいだ。

 だが、昨今の情報技術の波を受けて、「何も入らない方が逆に不自然なのでは?」と技研の一部が言い出したせいで、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論と、いくつかの技術革新の末、学院・寮での通信が可能になったそうだ。

 まだ魔術仕様の通信機器はそれほど出回っていないが、開発に携わったはるかは、特別に学院側から持たされている。


 ……こないだ、通信料がかかりすぎだと怒られていたが。


 はるかが自分の出てるネット小説を読みながらぼやく。


「にしてもなんだこのタイトル。今どきっぽい長めタイトルにしたのに、情報量ゼロじゃねーか」

「うっせーわざとだわ」

「これだと漏れなく私がヤンデレみたいに思われるよね……」

「それは反省している。でも今更変えられない」


 一応言っておくと、はるかは多少情緒不安定で希死きし念慮ねんりょの気こそあれど、ヤンデレではない。売られた喧嘩を買ってボコボコにしてるだけでヤンデレタグでも付けようものなら、世のヤンデレスキーから怒られるだろう。


「いや変えようぜー。もうちょっとなんかあるでしょ」

「えー、例えば?」

「急に無理難題振るね」

「たまにはね」

「うーん……」


 はるかはしばらく考えて、こう応える。


「『魔術マジツ少女ショウジョ銀髪ぎんぱつイケメン彼氏の夢を見ない』とか」

「パクリじゃねーか」


 しかも微妙に言えてないし。


「じゃかしい」

「てか、そのラノベのタイトルの元ネタ小説ってSFだけど、SF要素こそゼロじゃねーか」


 タイトル詐欺加減が増している。


 はるかが難しい顔をして話題を変えてきた。


「キャラ紹介が欲しいよ」

「定期会開いたらみんな来るから、そしたら自己紹介でもしてもらおうかね」


 殆ど俺達二人の話ばっかだからな。


「それにしても、まさかつばさくんに露出癖があったとゎ……」

「変態っぽく言うの止めろ」

「てか、入学式前々夜の一話が西暦二○一七年の十一月末更新、なかちゃんが部室に来た十三話? が西暦二○十八年の十二月中頃更新。その間、更新は一年以上、私達一週間くらい」


 はるかが顔を上げ、こちらをじっと見ながら言う。


「…………おかしくね?」

「おかしいな」


 俺がすっとぼけて言うと、はるかが殴りかかってきた。


「もっと! サクサク更新しろよ!!!」

「うっせえ色々あんだよ! 先方の都合とか! 整合性とか!」

「カーッ! つばさくんのくせに難しい言葉使っててナマイキダ!」

「言ってること無茶苦茶!」


 はるかがはたと止まって呟く。


「待てよ。私が閲覧するだけならちょっとアクセス日時を変えれば……」

「ダメーっ!」


 魔術通信は仕様上、過去や未来の情報にアクセスができる。

 超技術過ぎて俺にはよくわからないが……。


はるかさん、それガッツリ法律違反です!」

「知ってるよぉ。シキちゃんに負担かけるのも本意じゃ無しー」

「まだ説明しきれてない事バンバン言ってかないで!」

「ふふふ。ここはアリスコンピューターと星読(ほしよみ)硝子(しょうし)集積回路についての講義を……」

「全面カットです!」

「ムキにならないで。私も話ができるほど詳しくないからー」

「まったく……」


 俺はツッコミの連続で乱れた息を整えて尋ねる。


「勝手に書いたこと、怒ってる?」

「べつにー」


 この言い草は、自分の心情を説明するのが面倒なときに言うやつだ。


「悪かった」

「でも書くでしょ?」

「うん」

「理由を聞いても?」

「遺して、おきたくて」

「ふーん……」


 はるかが端末を切ってポケットにしまう。


「じゃあ頑張って、ガシガシ書いてね」


 はるかの言葉に俺は黙ってうなずく。


「私が出てるんだから、存分に面白おかしく書くんだぞ」


 彼女はそう言い、ウィンクをして去っていった。

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