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彼がここに来た理由

君、何でこんなところに来たの?へえ、肝試し?友達と四人で来たんだ?まあそうだよね。こんな所、肝試しにしか使えないだろうし。


え、僕?僕だって同じさ。肝試しに来たんだよ。姉ちゃんと一緒にね。なんで彼女がそばにいないのかって?だって姉ちゃんはもう大学生だからね。僕と違ってメリーゴーランドなんて興味ないのさ。


なんで廃園になった遊園地でメリーゴーランドが動いてるか気になる?へへ、実はさ、その辺にブレーカーがあったんだよね。レバーが下がってたから、思い切って上げてみたんだ。そしたらこの通り。もしかしたら他の遊具も動いたりして。まあ、僕はメリーゴーランドにしか興味ないけどね。


ところで、君と一緒に来たっていう子たちは?…ふうん。別行動してるんだ。集団で来た意味ないね。僕が言えることじゃないけど。やっぱり肝試しってのはみんなで集まってキャーキャー騒ぐから面白いんだよね。姉ちゃんも君の友達もそこんところが分かってないよ。あ、ゴメンゴメン、別に君の友達をバカにしたつもりはないんだよ?


でも、こうしてメリーゴーランドに乗ってると、なんだか肝試しに来たってこと忘れちゃうよね。なんかテンション上がってくる。僕、メリーゴーランド好きなんだ。なんか夢の国に来たみたいな気分になれるじゃん?やっぱ遊園地に来たらまずメリーゴーランドだよね。あれ、そうでもない?じゃあ僕だけなのかな。なんかショック。


うーん。なんか肝試しって感じしないな。…そうだ、せっかく二人いるんだし、なんか怖い話でもしようか。イヤだ?まあまあ、そう言わずに。僕の話なんて大したことないから。騙されたと思って聞いてくれよ。


そうだなぁ…。せっかくだからメリーゴーランドの話でもしようか。とある遊園地で起きた、メリーゴーランドにまつわる奇妙な話さ。


ある時、僕らと同じような高校生の少年が廃園になった遊園地に来た。肝試しの目的でね。展開が自分たちと似てるって?そりゃあ、廃園になった遊園地なんて世の中に山ほどあるんだから、たまたまシチュエーションが似てることだってあるだろう?それに、シチュエーションが似てるからこそ、君に話そうと思ったんじゃないか。


とにかく、その子は妹と一緒に遊園地に来たんだ。中学に上がったばかりの妹は臆病者でね。彼は怖がる顔が見たくてわざわざ妹と一緒に来たんだ。いやはや、この世には悪い奴もいるもんだね。


二人は園内をぐるぐる回った。妹はとにかく怯えまくっていたけど、特に何も恐ろしいことも無いまま帰ることになった。


え?怖くないじゃないかって?そう言わないでくれよ。ここからあっと驚くどんでん返しが待ってるかもしれないだろ?


二人は最後にメリーゴーランドに寄っていった。妹が好きだった遊具なんだ。だから最後に見ようと少年は決めていたんだね。それでメリーゴーランドに行くと、不思議なことにメリーゴーランドには明かりがついついた。今まで気づかなかったのが不思議なくらい明るくて、二人は目を奪われたよ。


突然、妹がメリーゴーランドに乗ろうと言いだした。明かりがついていていかにも楽しそうな雰囲気だったからね。それにどうせ無人なんだから、乗ったって誰にも怒られない。妹は自分の正面の、一番近くの馬に乗ろうとした。


少年はそれを止めた。どうしてって、それは、たぶん見えちゃいけないものが見えちゃったからだと思うよ。少年には見えていたんだ。妹が乗ろうとする馬の上に、知らない男の子が乗っているのがね。


少年は妹を止めたけど、妹はそれがどうしてなのか分からない様子だった。妹には男の子の姿は見えていなみたいだった。ここで初めて少年は恐ろしくなった。帰ろうって何度も妹に言ったんだけど、妹はなぜかメリーゴーランドに乗ると言って聞かなかった。そんな口論が少し続いて、少年はイライラしながら妹に言ったんだ。


「この馬に男の子が乗ってるのが見えないのかよ!」ってね。そう言って少年はその馬を叩いてみせた。


妹はビックリした様子でしばらく少年のことを見ていた。自分の兄が何を言ったのか分からなかったんだろうね。少年はこれでようやく帰れる、と思った。…そう、それは思っただけだったんだ。


馬の上に乗っていた男の子が馬から降りて妹に声をかけた。「そろそろ帰ろうか」ってね。何を言ってるんだ、って思ったよ、少年は。帰りたいのはこっちの方だ。お前みたいな幽霊のせいで僕は帰れなくなってしまったんだ、って。


男の子は妹に近づいて、手を握った。少年は驚いたよ。見えていないなら触れないと思っていたからね。臆病な妹はどれだけ怯えるだろうと心配になったほどだった。でも、妹は怖がらなかった。まるでその男の子とずっと一緒にいたみたいに、手を握り返して遊園地の出口に向かっていったんだ。


少年は怖くなって、妹を大声で呼んだ。でもその声は妹には聞こえていないみたいだった。慌てて追いかけようとするんだけど、どうしてもメリーゴーランドの柵から出ることができない。そこに見えない壁があるみたいに。二人はそのままどこかに行ってしまった。途中で一度だけ男の子は振り返って少年のことを見た。それはそれは嬉しそうにニヤニヤと笑っていたそうだよ。


少年は一人、真っ暗な遊園地に取り残された。メリーゴーランドだけが異様に明るい、恐ろしい遊園地にね。それからずっと、少年はそのメリーゴーランドの中で待ち続けている。何をって、自分の代わりになってくれる子供をさ。少年は気づいたんだ。妹は見ず知らずの男の子について行ったわけじゃない。自分とあの男の子の立場が入れ替わってしまったんだ、ってね。だから妹はあの男の子を兄だと思い込んで一緒に帰ってしまったのさ。そして少年は男の子の代わりにメリーゴーランドに閉じ込められたんだ。


だから少年は待っている。あの時の自分と同じように遊園地にやってきて、メリーゴーランドに触ってくれる子供がやって来るのを、ずっと、ずっと待ち続けていたんだ。


…どう?話をするのは苦手なんだけど、少しは怖がってくれたかな?


…何?なんかそわそわしているね。怖すぎてトイレにでも行きたくなった?


え?どうして最後、「待ち続けていた」って過去形になっているかが気になるのかい?細かいところをいちいち気にするんだねえ、君は。まあいいや。気づいちゃったならしょうがない。


そうだよ、その少年というのは僕のことだ。


僕はずっと待っていたんだよ。君みたいな人がやって来てくれるのをね。姉なのか妹なのかっていう差はあるけど、それはまあ、嘘も方便ということで。ああ、まだ馬から降りちゃダメだよ。メリーゴーランドが回っているうちは降りられない。基本ルールだろ?まあ降りたところで、君はもうここから出ることはできないんだけど。


安心しなよ?僕は君の家族を大切にする。学校生活だって無事に送ってみせるし、君が心配することは何もないよ。僕が今日から君の代わりになってあげるから。


ふふふ、楽しみだなぁ…。僕が見ていない間に、町の様子はどれだけ変わっただろう?最近の流行は?人気のタレントは?変わっているんだろうなぁ。僕の知らない世界になっているんだろうなぁ…。ふふふふふ…。


ーおい!まだかよ、ハヤト!ー


あれ、今の声、君の友達?


ーとっくに集合時間になってるぞ!ー


ああ、そっか。集合時間を決めていたんだね。そっかあー、君の名前はハヤトっていうんだ。素敵な名前。ありがたく使わせてもらうよ。


さて、そろそろ馬も止まる頃だ。そうしたらもうお別れ。心配しなくても大丈夫。運が良ければ数ヶ月で次の人が来てくれる。それまでの辛抱さ。


じゃあ、さようなら、ハヤト君。

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