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切り札はスペードの幼女ですか?  作者: じばうるふ
Episode1/起:Phantom Pain
9/34

Chapter009:組織

「おかえりなさい。カルタさん」


 カルタが自分の家に帰ると、白髪メガネのおっさんが当たり前のように出迎えてくれた。

 コロネルだ。


「やっぱりまだいたか。ただいま」


 コロネルはカルタの部屋で今朝と同じようにちゃぶ台で茶をすすっている。

 今更おどろかないが、このおっさんは人様の家で一日中くつろいでいたのだろうか。


 何をしていたのかは知らないが、カルタにとっても丁度良かった。

 聞きたいことが山ほどあるのだから、朝の続きと行きたいところだった。


「遅かったですね、カルタさん。学校というものはこんな時間まであるものなのですか? 人間とは勤勉な生き物ですね」

「いや、ちょっと面倒ごとに巻き込まれただけだ」


 コロネルのにこやかな問いかけに、カルタは曖昧に言葉を濁した。

 別に深い意味のある質問ではないような、何気な問いかけが逆に腹の内を探られているように感じられる。


 まずはどこから説明するべきか、どこまで説明するべきか。

 まだ整理している途中だったからだろうか。


「それよりコイツを見てくれ。コイツをどう思う?」


 カルタは話をすり替えるようにちゃぶ台の上に赤い十字架を放り投げた。


「おや、ロナじゃないですか。やけに静かだと思ったら休眠状態に入っていたんですね」


 ロナだ。

 教会から、ずっと擬態したまま喋りもしない。


「休眠? 寝てるって事か?」

「似たような物です。力を使いすぎて休んでいるのでしょう。どうやらカルタさんと余程の面倒ごとに巻き込まれたようですね」


 コロネルに慌てた様子はなかった。

 張り付いたままの笑顔が、まるで全てを見透かしているかのように思えた。


 静かに眠るロナの姿を見ただけで、カルタが体験した事態を全て把握されてしまったかのような錯覚に陥る。


 カルタはおっさん達を疑っていた。

 それは根拠に乏しい直感的なものだ。


 そもそもこんな妙なおっさん連中に積極的に関わるつもりなどなかったが、今となっては事が事だ。

 悪魔などを見てしまったからには放ってもおけない。


 ましてや、それがクラスメイトに手をかけているのだから、尚更だった。


 だが、おっさん達の話は妙に曖昧で、信頼しにくい。

 まだちゃんと話が出来ていないせいかもしれないが、それを確かめる必要があると感じていた。


 しっかりとした説明を聞く時間がなかったとはいえ、どこか引っかかる。

 あえて情報を伏せられているような、妙なざわつきだ。


 それを確かめたい。

 しかし、そのための駆け引きをするにはカルタには情報が足りなすぎた。


「起こしましょう」


 どこから、いつの間に取り出したのか、コロネルが手にしたステッキでロナを小さく叩いた。


「ん……ふぁ~、あれ? ココ、ドコ?」


 大きな欠伸を一つ、やっと赤い十字架が声を発した。


「おはよう。ここは俺の部屋だ。もう擬態しなくて良いぞ」

「あ、本当だ。わーい!」


 瞬きの間に赤パーマのおっさんが目の前に現れた。

 分かっていても強烈な見た目だ。


 九郎の教会を出てからずっと反応がなかったため少し心配していたところだったが、目を覚ましてみると元気そうだ。

 無用な心配だったらしい。


「ふぇ~、擬態しっぱなしだと肩こっちゃうよう」


 しかし擬態したまま寝れるのか。

 そのうえ十字架のまま欠伸をされてもシュール過ぎてリアクションに困る。


 変なところで器用な魔法使いだった。


「おはようございます。ロナ、今日はお楽しみだったみたいですね」

「あ、コロネル! 冗談じゃないよう! 散々な目にあったよう……」

「ハッハッハ。詳しく聞かせて下さいね」


 一連の出来事の説明はロナに任せることにした。


「悪魔が出てきて大変だったよう」

「…………」 

「…………」

「…………ん? それだけですか?」

「ふぇ? うん。そうだよ。大変だったよう」

「やっぱり説明ヘタクソか!!」


 見てられなかった。

 結局カルタが説明した。


「なるほど、なるほど」

「お前らの目的の事、悪魔の事、詳しい話を聞かせてもらうぜ。知ってること洗いざらい全部話しな」


 ただし、教会での出来事は伏せておく。

 理由はカルタ自身にも不鮮明だったが、余計な話はしない方が良いと判断した結果だった。


 カルタが何か引っかかる物を感じているのは、この辺りだ。


 それにあわせて水瓶の事も、教会で会った事は隠しておく。

 教室で見た限りでは特に異変はなかったとだけ話した。


 これで教会での水瓶の話と、コロネルとロナの話が食い違うようなら、どちらを信用するべきか考える時間が必要だと思っていた。


 ロナに口止めする時間がなかったが、どうやらカルタと同じタイミングで休眠に入っていたらしい。

 余計なことを言われずに済んだ。 


「悪魔を見ていただけたのなら話は早い。私から率直にお話ししましょう」


 コロネルは湯呑を置き、カルタを真っすぐに見据えた。


「ロナがお渡しした写真の少女、水瓶聖は悪魔に憑りつかれています」


 カルタは驚かない。

 今更そんな演技も不要だろう。


「まあ、そんな事だろうと思ったよ。だが、悪魔なら俺がぶっ殺したぜ?」

「それは水瓶聖が生み出した悪魔の子の一つに過ぎません」

「悪魔は複数いるって事か?」


 わざとらしくならないよう、冷静に問いかける。

 知らないふりではなく、知らない時の自分を演じるように。


「似ていますが、正確には違います。水瓶聖は悪魔を生み出し続ける存在です」

「だから殺してくれってか?」

「えぇ、おっしゃる通りです。悪魔は心臓に宿っています。ですから心臓を取り出して潰さなければ消滅しません。ですから、殺すしか方法がないのです」


 心臓、か。

 九郎が言っていた「場所が悪い」という言葉と繋がる。


 ロナが言った「おっぱいが必要」の意味はまるでわからないが、心臓を潰せという解釈になるのだろうか。

 それとも潰すから取り出して持って来いという事だろうか。


 どちらにしよ、殺せという事は同じだろう。

 そうするしか解決策がないというワケだ。


「なるほどな。でも、なんで俺に頼む? 女一人くらい、お前たちの魔法とやらでなんとでもなるだろう」

「出来ればそうしたいものですが、残念ながらそれは出来ません」


 コロネルは静かに、けれどハッキリと否定した。


「なぜだ?」

「水瓶聖は悪魔に守られています。私たちでは手が出せません」


 それは知っている。

 カルタが出会った悪魔がそうなのだろう。


「倒せないのか?」

「はい。カルタさんはロナの力を知っていますか?」

「知ってるが、つまり戦闘には向かないって事か」


 そのロナはカルタの横に座って茶菓子を食べている。

 関係ある話のハズなのに全く聞いていない。

 バカなのだろうか。


「そういう事です。だからカルタさんに頼んでいるのです。人間を超えた力を持つカルタさんであれば、きっと悪魔を倒せると思っていました」

「……それは一時的な物だろうが。というか、最初から気になってはいたが、それ、どこで知った?」


 教会で悪魔に止めを刺した時、そういえばロナもそんなような事を言っていたと思い出した。


 カルタは普段は薬の使用は極力抑えている。

 いったいどこからその情報を得たのだろうか。


 そういえば名前の事もまだ答えてもらっていない。


「それは極秘事項です」

「あっそ」


 今更、深く追及するつもりはなかった。


 それはもう別に良い。

 思い出したくもない話だ。

 思い出せない話でもあるが、もう過去の話である事には変わりがない。


 その情報を得る。

 という事は、それを知っている奴が別に居る。


 そういう事になる。

 それが少し気になっていたが、今はそれよりも優先する事が出来た。


 悪魔の問題が解決したら、その後で調べれば良い話だ。

 過去を少し知られているからといって直接的な害もない。


「危険は承知の上です。私たちも出来る限りのサポートはしますので……」

「だが断る」


 コロネルの言葉を遮ってカルタは言い切った。


「俺はクラスメイトを殺したりするつもりはない」

「……一人のために大勢が死ぬ事になります」


 そんな事は分かっている。

 分かった上で、もう決めていた。


「殺させなければ良いんだろ。俺は悪魔を殺す」

「殺しても新しい悪魔が生まれるだけです」


 理解していた。

 九郎からも聞いた話だ。


 カルタの心は「それでも」と言い続ける。

 今が選択の時だ。


 悔いのない選択は、きっとここでしか出来ない。

 そんな直感だ。


「だったらそれを止める方法を探せば良い。お前らもそれに協力してくれ」


 きっと、難しいことなのだろうとも理解していた。


 コロネル達の真意はわからないが、少なくとも九郎は一年間、その方法を探して来た。

 しかし今はまだ、解決に至ってはいない。


 それでも、だ。


 誰かを手にかけるくらいなら、別の誰かと一緒に苦しむ覚悟はとっくの昔に出来ている。


「わかりました」


 カルタの真っ直ぐな視線を受け、コロネルは渋々と言った様子で頷いた。


「よし。よろしくな」


 それからもう少しだけ悪魔についての話を聞いた。


 悪魔は宿主の思考に影響を受ける。

 弱点や姿形の変化などだ。


 伝承や神話に語り継がれるものに似ている事が多いのは、宿主のイメージがそうであるかららしい。

 宿主が弱点だと思い込んでいるものがそのまま弱点となるため、一般的なイメージが割と通用する。


 生み出される周期は不定。

 母体から現れるわけでもなく、どこに出現するかも予測がつかないと言う。


「なるほど、わからない事だらけだな」

「全くその通りです。ですから、どうしても私たちは後手に回ってしまいます」


 わからないが、今のところ筋は通っているような気がした。


 カルタが咄嗟にネットで調べた弱点は、悪魔と聞いて一般人が想像するような物だった。


 水瓶の中での悪魔のイメージもそうだったのだろう。

 だから効いた。


 悪魔に対するネットのイメージと水瓶のイメージが一致していたというワケだ。


「私はロナよりも広範囲に情報を収集する能力を持っています。基本的にはこの部屋を拠点として情報収集するつもりです」


 いつの間にか勝手に拠点にされていた。

 悪魔対策本部らしい。


「……わかった。何かわかったらすぐに教えてくれ。俺も水瓶の事は良く見ておく」


 ココはただのカルタの自室のハズだったが、いつの間にそうなったのだろう。

 疑問だったら今更なので突っ込むのは止めておいた。

 

「私はどうしたら良いのかな?」


 ロナが茶菓子を食べながら聞いてきた。

 緊張感の欠片もない。


 今までの話しくらいちゃんと聞いていたのだろうか。

 それすら怪しい。


「ロナ、あなたはカルタさんと一緒に居て下さい。アナタの能力はサポートに向いています」

「うん、わかったよう。任せて!」


 飼い主の指示を待つ子犬のようなキラキラした目を向けるロナに、コロネルが割と適当な指示を出した。


 もともとそういう役割分担になっているのだろう。

 だから擬態してまで学校のカルタにさえくっついてきていたのだ。


「そうだな。よし。さっそく手伝え、赤マリモ」

「ふえ?」


 その役割分担にはカルタも同意だった。

 今も確かめたいことが、いや確かめなければならない事が一つある。


 それにはロナの便利な力が借りたいと思っていた所だ。

 

 カルタはロナを連れ、深夜の学校へ向かった。

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