[第4.5話]仔竜の追想
これはラーミアが人間になる前のお話。
『ラーミア。この子の名前は‥‥ラーミア。』
『とても良い名だ、女王陛下。大切に育てるといい。』
『えぇ。この子には‥‥立派に大空を飛び回ってほしいわね‥‥。』
『そうよね‥‥‥‥ラーミア‥‥。』
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「‥‥‥‥!!!」
仔竜ラーミアは暗い洞窟の中で目を見開いた。
母と離れてからほぼ毎日同じ夢を見る。
産まれたばかりの自分を愛でる母と‥‥傍にいるのは誰だろうか。
父ではない。父は母が身ごもってすぐに死んだと聞いた。
『‥‥クルルルル‥‥‥‥。』
ラーミアは悲しげに喉を鳴らした。
体は透き通るほど真っ白な鱗で覆われ、鉤爪と角は黒く光っていた。
眼は暗闇の中でよく目立つ黄色。
まるでお伽話に出てくる竜のような神秘的な姿をしていた。
『キュルルルル‥‥。』
しかし、体はとてもか細かった。
母とはぐれて何年経ったか知らないが、ほとんどまともな食事はしていなかった。
この暗い穴の中で一匹、母のことを想い、ただじっとしていることしかできない。
住処がどこにあるのかもよく分からないし、何よりラーミアの身体ではそこまで長い距離は飛べない。
母は今どうしているだろうか‥‥。
あの日は確か、暗雲が立ち込める中、母と一緒に獲物を狩る方法を学びに出掛けていた。
その帰り道、案の定雨が降ってきたが、その強さが尋常ではなかった。
横薙ぎの豪雨。雷も鳴り止む隙がないくらいに降り注いでいた。
ラーミアの体ではとても耐えきれないのでその時は母が上から覆い被さるようにして飛んでいた。
まだ住処まで半分もきていなかったが、子供を守りながら飛ぶのは母もかなりの労力を使っているようで、親子の限界に達していた。
その瞬間、間近に雷が勢いよく落ち、その爆風で親子はなすすべもなく吹き飛ばされた。
それから先、母の姿は見ていない。
気が付けば森の中で気を失っていたようだ。
だから母も生きているのかは分からないが、それだけは考えないようにしていた。
『‥‥‥‥‥‥‥‥。』
ラーミアは母の温もりを懐かしく思い、悲しさが涙となって溢れた。
『‥‥クオォーーン‥‥。』
ラーミアは一度、天に向かってか細くひと吠えし、泣き疲れてまた眠った。