[第2話]竜族の少女
人間に憧れを抱き、人間になりたいと願っていた竜。
ある朝目覚めると、竜は人間のような少女の姿に変わっていた。
これでようやく人間たちと仲良くなれると思った少女だったが‥‥。
「ん‥‥?なんだ‥‥あれは?」
いつも平和で穏やかなイリニ村が今日はなんだか騒がしい。
村に明らかに人間ではない、だが人間のような"なにか"が向かってきていたからだ。
「あれは‥‥女の子‥‥か?裸だぞ‥‥‥‥。」
「いや待て‥‥よく見ろ‥‥!」
確かにその正体がただの少女ならそれはそれで一大事だ。
村の周辺には魔物をはじめとする危険な動物がたくさんいるのだから。
だが、村人たちはその少女に対してひどく警戒の念を抱いた。
「あの子‥‥羽が生えてないか‥‥?尻尾も‥‥‥‥。」
「見て!角も生えてるわよ!?」
そう、その少女は確かに二足でこちらに向かってくる。
だが、黒い翼、尻尾や角など、人間にあるまじき姿をしていた。
確かに羽が生えた種族ならいる。
イリニ村のすぐ近く、イリニ大森林に集団で暮らしているエルフ族だ。
しかし、エルフ族に尻尾や角が生えているなんて聞いたことがない。
「もしかして‥‥‥‥魔物!?」
「村守!!村守はいるか!?」
その少女は、臆病な人間たちの警戒の念を敵意に変えるには充分な姿をしていた。
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竜族の少女は意気揚々としていた。
自分の体に何が起こったのかは全く分からない。
だが、目覚めたら今までの竜の姿からまるで人間のような姿になっていた、その事実だけで少女は満足していた。
長い間願っていた。
人間の姿になり、人間たちと仲良くすることを。
___これで人間たちと仲良くなれる‥‥!
その思いだけを胸に、少女は村に向かっていた。村はもう見えている。
竜の姿のときに、その大きな体を隠してなんとか人間たちの様子を伺っているうちに、ぎこちないがなんとか言葉を覚えることができた。
きっと上手く話せるはず。
慣れない足を使ってようやく村の入口周辺まで来たとき、大勢の村人が固まっているのが見えた。
少し怪訝に思いながらも、少女はとりあえず村の前にいた二人の男に緊張しながらも話しかけてみた。
「あ、あ、あの‥‥‥‥は、はじめま」
「そこで止まれ。」
いきなり、男に言葉を遮られた。
気のせいか、手に持っている細長い金属製の物をこちらに向けて構えているような気もする。
「あ、あの‥‥‥‥今、なんて‥‥?」
「そこで止まれ、と言ったんだ‥‥化け物‥‥!」
ばけもの?
少女は戸惑った。
ばけものとは、確か人間が怖がっているものの名前、だったような気がする。
「ばけもの‥‥?あの、わたし、人間‥‥」
「嘘をつくな‥‥!その姿のどこが人間なものか!」
いきなり細長い金属製の物、確か『剣』という物だった気がする、男はそれを少女に向けて突きつけた。
その表情は、怒りよりも恐怖の方が上のような気がした。
男の後ろの方をよく見れば、他の村人たちも同じような顔をしている。
村の前にいた男のもう一人も、少女に向けて剣を突きつけ、言った。
「自分の姿をもう一度見てみたらどうだ‥‥?化けきれてないんじゃないか?性悪な魔物め‥‥!」
「えっ‥‥?」
確かに、自分には翼も尻尾も角も生えている。
人間のような姿になったことがあまりに嬉しくてそこまで気にしていなかったが。
「あ、あの‥‥でも私、人間とお友達になりたくて‥‥。」
「いい加減にしろ!出ていけ‥‥!出ていけと言ってるんだ!!」
「そ、そんな‥‥私‥‥‥‥あっ‥‥!?」
いきなり、男が少女に向けて剣を振りかざしてきた。
そのまま躊躇なく振り下ろしたが間一髪少女は躱した、というより足がもつれて偶然転んだだけだが。
男の後ろ、他の村人も石ころを拾ってこちらに投げてくる。
そのうちの何個かが、少女の体にまともに当たった。
「い、いた‥‥うぅ‥‥や、やめて‥‥!」
わけも分からないうちに人間たちに攻撃されて泣きそうになりながらも、少女はひとまずもといた森、イリニ大森林へと逃げ帰った。
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「えぅ‥‥ぅ‥‥どうして‥‥?」
少女は泣きながら森の中を歩いていた。
せっかく人間の姿になれて、人間たちと仲良くできると思ったのに‥‥。
翼や尻尾や、角が生えた人間は人間ではないのか‥‥。
しかし、人間のような姿になった以上、完全な竜でもなくなってしまった。どうやって元の姿に戻るのかも分からない。
「私‥‥どうすれば‥‥。」
絶望し、途方に暮れていると不意に後ろから声がかかった。
「あなた‥‥ここで何をしているのでありますか?」
「っっ‥‥‥‥!!」
少女は飛び上がるように驚いた。
先ほどの人間が追いかけてきたのかと思ったからだ。
だが違った。
そこには羽の生えた、エルフ族の少女がふわふわ浮いていた。
エルフ族の少女はもう一度口を開いた。
「もう一度聞きます。あなたは我々の領域で何をしているのでありますか?あなたは何者でありますか?」