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作者: 北本和久

夜の十時、知らない番号から電話がかかってきた。

丁度いとこの春菜が三日前から行方不明で心配している真っ最中だった。

出てみると、荒い息遣いが数秒聞こえた後若い女の叫び声が響いた。

「アンタ誰!」

聞き間違えるはずはない。春菜だ。

「春菜か?俺だ、優だ」

「優兄ちゃん?」

「そうだ。今どこにいるんだ?みんな心配してるぞ。誰か、そばにいるのか?」

「いるみたいだけど、目隠しをされてるから誰か分らない・・・夜、家に帰る途中でいきなり襲われたの」

その時、突然声が変わった。

「この女を返してほしいか?」

低くて掠れた、男の声だった。

「お前は誰だ?」

質問を無視して男は続けた。

「では一つ忠告しておいてやるが・・・」

「何だ?言ってみろ」

「この女を無事に返してほしければ、ただ大人しく待っている事だ。下手にここを探り出して助けに来ようなんて思うな」

“こいつ、誰だ?”

“なんで俺のところに電話が?”

“もしかして俺に恨みがあるやつなのか?”

一瞬の内に色々な事が頭の中を駆け巡った。

「お前の目的は何だ?」

「まぁ、言うなれば暇つぶしだ。お前達が大人しく待ってさえいれば問題ない」

そこで電話は切れた。

迷ったものの、犯罪者の言う事を鵜呑みにするわけにはいかない。すぐに叔母に連絡し着信履歴に残った相手の番号を警察に調べてもらった。驚いた事に番号は固定電話のもので、住所はすぐに割り出す事が出来た。この時には犯人の言葉はハッタリとしか思えなくなっていた。

電話から三時間後の午前一時、犯人と春菜がいると思われるアパートの前に警察と俺、叔母と叔父が乗ったワゴンが停まっていた。

「どの部屋に春菜がいるんですか?」

「二階の、右から二番目です。優さん、本当に行きますか?」

「春菜は妹も同然です。ただ待っているだけなんて我慢できません」

自分も行くと言って聞かない叔父を何とか押し止め、辺りを伺いながらワゴンを出た俺はアパートの階段を上って行った。後ろには刑事が三人ついてきている。血液が流れる音が辺りに響きそうな位に緊張していた。

ドアの前に立ち、ノブに手をかけ、ゆっくりと回転させてみた。思いがけず回った。鍵は掛かっていない。そのままドアを押して踏み込もうとした。その時、中から叫び声が響いた。

「ダメ!入ってこないで!」

しかし、もう遅かった。手を止めることが出来ず、ドアを開けて中に踏み込んだ。その瞬間、何かが焦げた臭いがした。真っ暗だったが、部屋の真ん中に何かがあるのは分かった。

恐る恐る近づく内に、それが椅子に縛り付けられた人間だと分かった。

「春菜!」

しかし、駆け寄ってすぐに手遅れだと分かった。顔が苦痛で歪んだまま固まっていたのだ。

「遅かった・・・」

力が抜け、俺はその場に座り込んでしまった。

*    *   *

一週間後、俺は警察の取調室に一人でいた。叔母と叔父はすっかり気落ちしてしまい、とても出歩ける状態ではなかった。俺もあの夜以来引きこもっていたが、警察から連絡があり、無理をしてやって来たのだ。

暫く待たされた後、入ってきたのはあの夜ワゴンの中で犯人の部屋を教えてくれた刑事だった。

「初めに言っておきますが、これから話す事は貴方にとってかなりショックな内容です。気をしっかり持って聞いて下さい」

そして手に持ったファイルを開いて話し始めた。

「まず、春菜さんが亡くなったのは我々が踏み込んだ直後でした。実はドアに細工がしてあり、開けると電流が流れるようになっていたんです。それともう一つ、春菜さんを縛っていたロープは外れかかっていました。つまり、もう少しで逃げられたんです」

限界だった。そこまで聞いて俺は頭を抱えた。“これじゃぁ俺が春菜を殺したのと同じじゃないか。犯人の忠告を聞いていれば・・・”

 これ以上は無理と思ったのか、刑事はファイルを閉じ、そしてぽつりと言った。

「だから言っただろうが。来るんじゃない。大人しく待っていれば問題ないって」


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