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Vision  作者: 神 雪
7/7

Tile

 まるで一人用の簡易オフィスの様な部屋だった。


 広さは四畳半程だろうか。何の変哲もない薄汚れた感じのクリーム色の壁に、ベージュのリノリウムの床。部屋の中にはこれまた見慣れたスチール製のグレーのオフィスデスクにキャスター付きの椅子。腰掛けたら背もたれがギギッと鳴りそうな、如何にも年季の入ったアレである。


 ただ、オフィスにしてはおかしな所が幾つかあった。

 書類もなければ、電話もない。パソコンもないし、それらを設置するためのコンセントジャックがそもそも見当たらない。


 それどころか、窓すらない。

 うわぁ。息が詰まりそうな空間だ。


 しかもドアがない。

 そう。この部屋の最も特異な点。入り口であり出口である、扉というものがないのだ!


 まずい。本格的に息が詰まってきた。これは(まさ)しく密室ってヤツだろうか。

 なんとなく空気すら重く感じ始め、酸欠になったらどうしようとか、お腹が空いたらどうしようとか、半ばパニックになりかけた私。


 とりあえず、考えよう。座って考えよう。


 キャスター付きの椅子をデスクから引き出し、腰掛けようと中腰になった私の目に、存在しないドア以上に不可解なものが飛び込んできた。


 ナンダアレ?


 何の変哲もないオフィスデスクの下、つまり床の上にベージュではない、目にも鮮やかなセルリアンブルーのタイルがあった。しかもこのタイル、何故か薄ぼんやり発光している様に見える。


 これはまさか!?


 もしかしてひょっとして、ゲームとかにある、ピョーンと他の部屋に行っちゃうアレだろうか?


 さっきまで、息苦しさを感じていた事などすっかり忘れ、ウキウキとしてきた私。いそいそとデスクを動かそうとして、ウキウキが半減した。


 動かないじゃん! 


 誰もこんなデスクなんか盗まないだろうに、しっかりと床に固定されている。

 って事は、デスクの下に潜れって?


 なんだかショボい。

 半分になったウキウキが更に半減しながらも、ここから出られる可能性を試すには、潜る他ないのだ。


「よいしょ」


 誰もいないのに呟きながら、しゃがんでタイルに乗った次の瞬間、景色が変わった。







「エエト、オジャマシテマス」



 やはりあのタイルは、SFチックというかゲームっぽい装置だったらしい。

 着いた部屋は、大きさや調度品(デスクと椅子である)こそ私が居た部屋と同じものの、壁は水色で床は濃紺のリノリウムだった。

 私がいるのはデスクの下……ではなく、部屋の片隅である。立っているタイルの色はセルリアンブルー。


 なるほど。

 

 あ。私の対角線上に、オレンジ色のタイル発見!


 この部屋にもドアが見当たらないので、オレンジ色のタイルに乗るのが正解だろう。



「◆☆□△※〇*★?」


「スミマセン。ワカリマセン。スグニデテイキマス」



 さっきから片言で話しているのは私である。別に急に日本語に不自由したからではない。代わり映えのしないスチールデスクとセットになっている椅子に、この部屋の住人らしき存在が座っておられたのだ。


 ──多分座っているんだろう。


 その方は、全身がメタリックなグレーだった。しかも手足が一杯ある。アーモンド形の蛍光グリーンの大きな目らしき器官だけがある見た目タコ。

 まるで大昔の火星人の図の様なお姿に、多分きっと宇宙人に違いないと考えられただけ、自分を褒めたいと思う。


 うん。あれだ。そーっと出て行こう。だって、何言ってるか分からないし。

 お仕事の邪魔しちゃったらしいし。


 彼(彼女?)のデスクの上には書類らしきものが山積みになっており、彼(彼女?)はその書類に囲まれたコンピュータらしきものを超高速でしかも四本の腕らしきものでタイピングしていたのだ!


 どうか、そこから動きません様に。


 壁に背中を押し付け、『人畜無害』を引き攣った笑顔でアピールしつつ、ソロソロと移動開始。

 宇宙人さんはじ~っと私を見ていたが、がんばれ私。笑顔だ私。


 十分過ぎるくらい冷や汗をかきながら、ようやくオレンジ色のタイルに到着。


「オジャマシマシタ」


「■★□#*△!」


 なんだか声らしい音が聞こえたけど、気のせいか?

 

 

 




 次の部屋もまた、間取りや調度品は同じだった。壁はベビーピンク、今度の床は同系色ではなく、パウダーブルー。子供部屋の様な優しい色合いの部屋だけれど、似つかわしくないスチールデスクと椅子がそれを台なしにしていた。


 そしてここにも先客が……ワラワラいらっしゃった。


 そう。ワラワラと。

 スチールデスクの上に。


 私の目が間違っていなければ(自信はないが)、身の丈10cmくらいの小人さん達である。真っ赤な三角帽子に真っ赤なワンピースらしい揃いの服を着て、何故か昔の事務員さんがしている様な黒い腕カバーを両腕に付けた小人さん達。


 スチールデスクの上で、とても忙しそうな彼等は、書類らしき小さな紙切れの様なものに一心不乱に書き込みをしているみたいだ。私など眼中にないらしく、振り返りもせずに黙々と作業をしていらっしゃる。

 絵に書いた様な見事なお仕事っぷりである。でも可愛い。


 なにやら妙に微笑ましい光景に暫し和んだ私だったが、やはりこの部屋にもドアがない。

 おっ。今度は私の直線上に床とは違う色のタイルを発見! この部屋にマッチしたレモンイエローのタイルだ。


 お仕事の邪魔にならない様に、そおっとそおっと壁伝いに歩き、レモンイエローのタイルへ。


「お邪魔しましたぁ」


 声には出さず呟いてタイルへ。





 

 レモンイエローのタイルの部屋は、どうみてもウサギの耳らしきものを頭の上に付けたお方がいらした。

 モフモフしていそうな耳に私の手がワキワキと……いや、先を急ごう。


 ビビッドなショッキングピンクのタイルの部屋には、何故か紫色した巨大昆虫っぽいお方が。

 叫ばなかった自分よ。偉かった! お願い。こっちを向かないで~!!


 深緑色のタイルの部屋では、エミューの様な大きな鳥らしいお方が嘴でタイピングをしていた。

 驚かないよ。流石に私も慣れてきた気がする。


 茶色のタイルの部屋には…………。








 さてと困った。


 ずいぶんと回って来たと思うのだけれど、どこにも出口らしきドアが見当たらない。

 しかも、私の同胞も見当たらない。つまり、各部屋におられた方々に、聞きたくとも聞けないのである。



 ──そういえば、昔やったこの手のゲームでも、出口にたどり着く迄に、一時間以上行ったり来たりしたんだっけ。

 ゲームの様に、敵が現れないだけでも良かったのかもしれない。

 なにせ、こっちは武器もなければ、魔法だって使えないのだから。


 このまま出口までスルーして貰えます様に。

 まさかのラスボスなど出てきません様に。



 嫌な予感を振り払いながら深紅のタイルに乗り、岩石に手足を付けた様なゴッツイお方の部屋を後にした。







 ええと。ええっと。

 ああもう! どんな順番で何色踏んだのか、段々怪しくなって来たよ~。

 一体全体、ドアはどこ~!?

 









 ところで。

 そもそも出口が有るのだろうか……?

 


   *Fin*

ご閲覧、誠にありがとうございます。


一応言い訳をしますと。

ず~っとご無沙汰だった脳内映像。久しぶりに出て来たのは就寝直前の布団の中でして。

結末を待っている間に夢の中へと旅立ってしまったのでございます。

目覚めたその後はループ状態で、フラフラと行ったり来たり。

セーブポイントがあったら良かったのに!


それではまたいつかお目にかかれます様に。

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