Choice
私の背丈を越す青々とした草に囲まれた、人一人がやっと通れる幅の踏み固められた獣道の如き一本道。
その遥か前方にうっすらと山の稜線が覗いている。
私の頭上では、ギラギラとまばゆい太陽がこれでもかとその存在を主張し、かかる雲など見当たらない。周囲は背高ノッポの草以外は見えないが、沢山の虫達が短い生を謳歌しているのだろう。昼間だというのに、あちらこちらでおしゃべりに興じている様で騒がしい。
そよとも吹かない風を心待ちにしながら、ポタポタと落ちる汗を拭い、ペットボトルから残り少なくなった水をあおる。
残りのペットボトルは後一本。足りるかなぁ。そんな事を思いながらまた一本道を歩き出す。
と、前方に突然、道が三本に分岐しているのが見えた。行き先が書いてあるのか、道の横にはそれぞれ小さなボードが立っている。
ここからでは何が書いてあるのかがわからないが、正面のボードは何故か赤。左手は青。右手が黄色。
……うん。これは青だよねぇ。
心持ち早足になりながら、いそいそと分岐へと近付く。
まずは正面の赤いボード。
『この先行き止まり』
だよねぇ~! 予感が当たってちょっぴり満足しかけた私だったけれど、"行き止まり"の下にアリンコ程の小さな小さな文字があるのが目に入る。ナニナニ?
『この先行き止まり かも? だけど美味しくて冷たい涌き水が飲める』
え。それはちょっと嬉しい。でもなぁ。"かも?"ってなんだ? う~ん。ストレートに山に向かっている訳ではないって事かな? それともまた分岐でもあるんだろうか。まあ良いや。次!
左手の行き先ボード青。
『この先蕎麦処』
うわ。マジで? 蕎麦は大好物だ。長閑過ぎる程、長閑なこの地の蕎麦! 俄然興味が湧いて来た。うん。もう左手で決めちゃおうかな。いやいや。とりあえず右手も見てみよう。
その右手の黄色い行き先ボードを見て、私は固まった。
『この先甘味処』
なんですと? 私は洋菓子系の類いは得意ではないが、和菓子系は大好きなのだ。歩き疲れた身体に染み入るあんこの甘味を想像した途端、ズシッと体が重くなった気がする。
……さて。困った。
正面の"かも"も気になるし、涌き水は助かるだろう。
でも蕎麦だって食べてみたいし、甘味処って云うからにはあんみつ位ありそうだし。
それにしても。ボードが赤、青、黄色なのは一体どうしてなんだろう。
おまけにそこに到るまでの距離や時間が全く書いていない。
選択肢は四つ。
そう。引き返すと云う選択肢もあるのだ。
ギラギラと照り付ける太陽。
ジ~ワジ~ワと騒がしい草の中の大合唱。
──そこに心待ちにしていた一陣の風が吹き渡り、草を大きく揺らす。
騒がしかった虫の合唱が途絶え、海鳴りの様な音が周囲から押し寄せる。
ざわわわと揺れる草から逃れる様に、私はグッと目を閉じた。
そうしてまた歩き始めた。
「で? 結局何処へ行ったのよ~! 私!」
という叫び声が聞こえる様な……というか、私は叫びました。脳内に(笑)
次回更新は未定ですm(__)m
以降は、私の覚束ない記憶力との戦いに勝利したらと戦い中に湧いて出て来たらとなります……些かポンコツなので、広いお心でお待ち頂ければ幸いです。