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Vision  作者: 神 雪
2/7

Rainy morning

 くたびれた雑居ビルの二階にある僕の小さなオフィスの窓からは、駅へと向かう為の横断歩道が見える。正確には、ちっぽけな空と横断歩道しか見えないとも言う。

 代わり映えのしないその景色を眺めながら、コーヒー片手に今日の仕事の段取りをあれこれと考えるのが、僕の朝の儀式だ。


 六月に入り雨の朝が増え、部屋の空気は重さを増し、スッキリとしない灰色の小さな空に、朝から小さくため息をついた。横断歩道を渡る人は皆、一刻も早く駅に向かおうと足早に渡っていくものだが、雨の日はそれが顕著だ。そりゃそうだ。誰だって早く屋根のある場所にたどり着きたいに違いない。


 皆さん、お疲れ様。住居兼オフィスに棲息している僕は、恵まれているのかもしれない。──例え、社員が僕一人で、空室が目立つ築三十年を数える古びた雑居ビルだとしても。

 ちょっぴり自嘲気味な笑いが浮かんで来たが、コーヒーと一緒に飲み下す。


 さてと、そろそろ仕事に取り掛からねば。



 そんな時、窓に背を向ける様に置いてあるデスクに寄り掛かっていた僕の目に、明らかにこれまでとは違うテンポで動いている傘が目に入った。


 信号が変わるのを待っているのだろう。クルリクルリと回る傘。深い緑の地に、何だろう? 傘の外周部分に何か描かれている様だ。クルリクルリが終わった時を逃さず見えたのは、なんとメリーゴーランド! 白い馬に金色の馬車。傘が回るとメリーゴーランドも動き出す。


 クルリクルリ。回る白馬と回る馬車。


 なんだか愉快な気分になった僕は、いつまでも信号が変わらなければ良いのにと思ったが、無情にも横断信号は赤から青へと変わってしまう。


 止まってしまったメリーゴーランド。けれど、今度は上下に揺れている。ピョコリピョコリと音が聞こえて来そうなくらい、楽しげに横断歩道を渡っていく傘。


 重かった部屋の空気さえも、なんだか軽くなった気がして。僕は去っていくその傘が見えなくなる迄見送っていた。



 その次の日もまた雨。僕はちょっぴりワクワクしていた。またメリーゴーランドに会えるだろうか?


 ところがメリーゴーランドは現れない。規則正しい通勤客の重く静まった傘だけが足早に通り過ぎていく。

 今日はもう通り過ぎてしまったのかも。残念な気分になりながら窓に背を向けようとした時、ピョコリピョコリが視界に入って来た。ん? あれ? 今日は白いぞ。白い地に、外周部分にあれは……猫? 黒猫が片足を上げて整列している。残念な事に、横断歩道は青信号。それでも楽しげに渡っていく黒猫に、僕もウキウキとした気分になった。



 

 もう雨の朝は憂鬱じゃない。それどころか、ひそかな楽しみになった。

 メリーゴーランドに黒猫。そして真夏の空の様な鮮やかな青い生地に小さくかかる虹の橋。レモンイエローに浮かぶ音符はどんな音色を奏でているんだろう。


 ──そしてこの傘達の持ち主は、一体どんな人なんだろう……?



 僕はひょんなことから知る事になるのだけれど、それはまた別の機会に。


実は一年以上も前の脳内映像。

時には誰かの視点で見ている事もあるのです。

女性だったり男性だったり人外だったり。


*御礼*

初回、深夜の告知無しこっそり投稿に係わらず、沢山のご閲覧をありがとうございました!

アクセスを見てひっくり返りそうになりました(笑)

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