455列車 テスト前
「ああ、来週はテストかぁ・・・。」
智萌はそう言いながら、大きくため息をついた。
「光は良いよね。テストには苦労しない人たちで。」
「あのなぁ・・・。」
ウチはあきれた。ウチだってテストに困っていないわけじゃ無いんだぞ。岩槻高校に受かるだけの学力を付けなきゃいけないウチからしてみれば、学校のテストで苦戦しているようじゃダメだと思っているんだけど・・・。
「とにかく、これからしっかり勉強しろよ。智萌。部活も引退したんだからさ。」
「あっ、ちょっと・・・。」
ユサがウチのことを止めようとしたけど・・・。あっ・・・。
「そうよ・・・。引退したわよ。試合に負けて・・・。」
「まだ引きずってたんだ・・・。」
ああ、智萌が引きずっているのは卓球の地区大会のこと。去年は勝ち進んだんだけど、今年は相手が悪くて実力発揮できずに終わったらしい。結果は1セットも取れずに初戦敗退。さんざんたる結果だったからなぁ・・・。あっ、因みに相手は全国大会にも行ったことがある中学の実力者だったらしい。
「いい加減忘れろよ・・・。今回テストで転ぶと高校受験にも響くんだぞ。」
「そう簡単に忘れられるか・・・。あの散々な試合・・・。」
「・・・。」
「重傷ね。」
「そうだな・・・。」
とは言ってもなぁ・・・。ウチは試合に負けるのは悔しいけど、結果が散々でもあんまり気にしないからな・・・。だから、智萌の気持ちを共有することはおそらくできないだろうなぁ・・・。でも、ちょっと元気づけてやろうかな・・・。
「ところで。」
さっきの声の低さはどこに行った・・・。
「あさひちゃん、最近私達と一緒に帰ること無いよね。どうかしたの。」
「そういえば、そうだね。別に体調が悪いとかそう言うわけでも無いでしょ。普通に学校に来てるんだし。」
「ああ。それ。それはねぇ・・・。」
ユサがそう言いかけると、ウチらを自転車が抜いていった。
「輝ッ。」
ユサはそう言い、今通り過ぎた自転車を呼び止める。輝があの自転車こいでたのか。ユサって目が良いなぁ。
「なっ・・・何。ビックリするな。」
自転車が止まるとかが焼きは振り返りながら、いった。そりゃ、大きな声で呼び止められたんだもんな。誰でもビックリするよ。
「紹介するわ。」
「えっ、今更紹介なんてしなくても・・・。」
「祖・・・そうだよ。僕は小学校の時から君たちのこと知ってるんだよ。今更、永島君たちに紹介することがあるわけ・・・。」
「あさひちゃんの彼氏よ。」
「へぇ、そうなんだ。」
とウチ。
「マジッ。」
と智萌。
「そっ、それどこでッ。」
と輝。
「私達の情報ネットワークなめるんじゃ無いわよ。輝君とあさひちゃんがつきあってるのはとおの昔にバレてるんだから。」
輝の顔が見る見ると赤くなる。彼氏っていうこともモズとつきあっているってことも今初めてバレてるってこと知ったんだろうなぁ。
「あんまり変な噂広めないでよ。僕はモズとつきあってるわけじゃ無いんだけど・・・。まして彼氏って・・・。」
「でも、彼氏っていわれてなんか嬉しそう。」
「・・・。」
智萌にそう言われ、輝も黙った。
「ていうか、さっきから大人しすぎやしない。」
ユサがウチに言う。
「輝がモズとつきあってるから何。何度も言うけどさ、ウチはモズのこと好きでも嫌いでも無いんだけど。」
ウチがそう言うと、
「そんなわけ無いでしょ。好きな女の子に・・・。」
「由佐ちゃん。その話はそこまで。」
ユサが言う言葉に智萌が重ねてくる。普段なら、ここから複雑な方向に持っていきそうな所だけど・・・。
(光君が「興味が無い」っていうのは本当なんだな・・・。改めて分かったよ・・・。)
しかし、複雑な方向に持っていきたいスイッチは入ってしまったようだ。ウチにじゃなくて、輝のほうに。
「ところで、輝君。いつからあさひちゃんとつきあってるのかな。ねぇ、今どこまで行ってるの。ねぇ、教えてくれたって良いでしょ。」
「・・・あっ・・・。えっと・・・。」
「私達の情報ネットワークを以下略・・・。」
「ぼ・・・僕勉強しないとダメだから。そろそろ行くね。」
そう言う輝の自転車をユサと智萌は捕まえ、
「勉強を理由に逃げるな。」
「ちゃんと私達の親友であるあさひちゃんとどういうつきあいしてるのか聞く権利があるに決まってるでしょ。」
「・・・離してやれよ・・・。」
「ちょっと、越後さん、智萌さん危ないよ。」
「勉強つったって、いい高校行くわけじゃ無いだろ。」
「聞いてないし・・・。」
「いい高校じゃ無いって・・・。さらっと酷いこというね・・・。僕が行く高校はたぶん二人が思っている高校よりは学力良いよ。勉強しないと僕なんか合格できないよ。」
「またまた、そんなこといっちゃって。」
「さぁ、はけ。はいちゃえ。」
「おい。」
「ごめんなさい。」
「光君、顔怖い。」
「光君・・・そんな怖い顔して怒らないであげて。僕は気にしてないから。」
「・・・そう・・・。」
輝がそう言ったので、ウチもお怒りモード終了。
「ああ、怖かった・・・。」
「ねっ。光って怒ると本当に怖いのよ。」
そう言うユサと智萌の会話を聞きながら、ウチは輝に話しかけた。
「ごめんなさい。輝。智萌が迷惑かけて。」
「えっ、悪いのは私だけっ。」
「アハハ・・・。僕も光君の怒った顔は初めて見たかな・・・。あんまりそんな顔しない方が良いと思うよ。さっきもいったけど、僕は気にしてないからもう許してあげてよ。」
輝がいう。
「・・・。」
「そうそう。中百舌鳥さんから聞いてるんだけど、光君って東京の高校に行くんだよね。」
「えっ、うん。」
「頑張ってよ。僕は東京には行かないけど、おんなじような高校に行くつもりだから。」
「おんなじような高校・・・。大阪にそう言うの・・・。」
「大阪産業大学附属高校って聞いたことあるかな。」
今、ウチの頭の中にその高校の名前は出てこない。「知ってるよ。」と答えると、
「なら、どういう高校かも知ってるよね。」
輝はそう続ける。確かに、ウチもその高校の中身も知っている。
「てことは輝も大変な高校生活が待ってるのかな。」
「合格すればね。」
「・・・そりゃそうか。」
その後「さよなら」と言い合い、輝は自転車をこいで家路を急ぎ始める。
(ウチも負けてられないな・・・。)




