454列車 避暑地
北陸新幹線のE12系のデッキに来ている。列車は減速し、カーブを曲がってホームへと入る。
「ドアが開きます。」
電子音声とともにE12系のドアが開くと同時にホームに設置されたホームドアも開いた。
「軽井沢、軽井沢です。ご乗車ありがとうございます。2番線に到着の列車は11時58分発「あさま614号」東京行きです。」
「2番線から「あさま614号」東京行きが発車いたします。ドアが閉まります。ご注意ください。」
私は友達やその家族とともに軽井沢のホームへと降りた。ここまで「かがやき524号」東京行きと「あさま614号」を長野で乗り継ぎ避暑地軽井沢までやってきたのだ。今回は友達の別荘行きにつきあうと言うことでここまで来たが、私の家の別荘もここにあるので、泊まる時は友達の家族に水を差すことはない。久しぶりに大阪の係争を離れてこういう場所に来るのも良いものだ。
「誠に申し訳ありません、鴨宮様。ご旅行に同行してしまいまして。」
瑞西はそう言い頭を下げる。
「いえ。娘があなた方を誘ったのです。かわいい娘の頼みです。連れてくるなとは言えませんよ。」
ひげを生やし、見た目からも威厳を感じる男は瑞西に行った。あの人は大阪府の代議士を務める人。普段から忙しいはずだが、よくこういう時間が取れたものだ。
「北陸に行く新幹線が開業して以来軽井沢には大阪からも来やすくなったのかしら。」
私の隣にいる友達が聞く。
「さぁね。時間的には「かがやき524号」と「あさま614号」の乗り継ぎで3時間18分。「のぞみ」と「あさま」乃至「はくたか」を乗り継いでくるよりは断然早くなったわね。」
新大阪を「かがやき524号」が出発する8時40分に出る東海道新幹線の「のぞみ2号」東京行きに乗ると軽井沢の到着は13時23分。20分早い「のぞみ216号」に乗っても軽井沢到着は12時18分。速達性では北陸新幹線経由のほうが勝ることがよく分かる。
「・・・難しいことよくわかんないけど、とにかく便利にはなったのよね。」
「ほんの1年と半年ぐらい前まで敦賀で乗り換えしてたんだから、便利になったものよ。」
「いやぁ、鉄道のエキスパートが友達にいるって言うのは本当に嬉しいもんですわ。」
友達はそう言ったが、私はそれにため息をついた。
「あのなぁ、千。今やスマホでいくらでも調べられる時代なのよ。そのぐらいしなさい。」
友達は鴨宮千って言う。サラサラのロングヘアーが風になびく。
「千、亜美ちゃん。行くぞ。」
その声が階段のほうからした。いつの間にか千のご両親は改札口へ続く階段の近くに行ってしまっていた。
軽井沢駅から来るまで鴨宮家の別荘に行く。別荘に着くと私と千はテニスウェアに着替え、ラケットを手にテニスコートへと出た。テニスを2セットやった後いったん休憩する。
「ねぇ、亜美はご両親とは来ないの軽井沢。」
「・・・来たことならあるわ。」
「そうじゃ無いっつうの。今、ご両親とは来ないのかってことよ。」
「・・・別に。今あの二人と来る気は無い。」
「・・・亜美さぁ、そんなことで良いの。ご両親とこういう所来るって今ぐらいしか無いわよ。亜美はご両親とも企業の社長さんなんだから、夏休みくらい普通に取れるでしょ。」
「社長がそう簡単に休み取れるとも思ってないけどね。まぁ、千の父親よりは休みは取りやすいでしょうけど。」
「・・・そうでしょうね。今回も議会の緊急招集があればお父さんは大阪に帰るし・・・って私のことは良いの。」
「千、私から言わせればあなたにそんなこと心配されるのも大きなお世話だわ。」
「高校は東京に行くんでしょ。それでそのまま就職までするつもりでしょ。そうなったらもっとご両親と過ごす時間っていうのは少なくなるわよ。亜美がご両親のことよく思ってないのは知ってるけどさ・・・。」
「その話はここまでにしましょう。」
私は立ち上がりながら、自分のラケットを左手に持った。
「友達でもそんなこと心配される筋合いは無い。」
「ああ、もうつくづく性格の悪い女ね・・・。」
「悪いわね。さ、続きしましょう。」
「千.」
千がラケットを手に立ち上がった時、後ろから千の父親が呼びかけた。
「どうしたの。お父さん。」
「悪いが、すぐに大阪に戻らなくちゃいけなくなった。」
「えっー。せっかくお休みできたのに。」
「悪いな。こればっかりはどうにもならないんだ。また今度ゆっくりすごそうな。お母さんはここに残るから、ゆっくり過ごして帰ってきなさい。」
「・・・はーい。」
返事を聞くと千の父親は早足で建物の中へと消えていった。
「千、ああいうの変わってしまえって思ったことは無い。」
「・・・もう慣れたわ。アレばっかりは仕方ないし。」
残念そうにうつむいていたが、すぐに顔を上げ、
「さっ、勉強で勝てなくても運動は勝たせて貰うからね。」
「2セット先取されてんのによく言うわ。」
登場人物
鴨宮千
名前の由来
鴨宮千:新幹線モデル線の起点鴨宮と試験車1000形新幹線。
崇城の友達で代議士の娘・・・らしくはない。




