453列車 親子の会話
「お母さん。」
「・・・あっ、気にしないで。親の願望みたいなものだから。」
お母さんはそう言ったけど、しばらくすると
「米原で何か食べてから帰りましょうか。ちょっとだけ話したいこともあるし。」
と言った。
「ひかり521号」が米原に到着するまで、お母さんは何も言わなかった。僕はそんなお母さんをちょっと気にしながら、外の景色に見入った。「ひかり」から降り、新幹線改札口を通って近くの大きいお店に入った。フードコートまで来ると、
「好きなもの勝ってきなさい。待ってるから。」
そう言うとお母さんはウチに1000円渡してきた。ウチはそのお金でラーメンをとってきた。ウチがお母さんの所にラーメン持っていくと、今度はお母さんが料理をとりに行った。戻ってくるとお母さんもご飯を食べ始める。
お互いご飯を食べ終わると、
「さっきのはね。本当に親の願望・・・。わがままなの。」
と言った。
「願望って。ウチはお母さんたちのわがままで行くわけじゃ無いよ。」
「・・・そうね。光がわがままで岩槻行きたいっていってるなんて思ってないわよ。そうじゃなくてね、私達がどうしても行って欲しいって思ってるってだけなの。」
「・・・。」
言っている意味はよく分からない。
「お父さん、本当はJRに行きたいって思ってるって言うのは知ってる。」
そう聞いてきた。
「えっ、そうなの。」
そう答えるしかない。そんなこと子供が知るわけがない。
「知るわけないよね。」
「どういうこと。お父さん今仕事に行ってるじゃん。今の仕事はしたくないって言うの。」
「そう言うわけじゃないから。ただ、お父さんがJRに行きたいっていう気持ちは今でも変わってないとお母さんは思ってるの。ただね、私達の生活もあるから、そういうことは言わないの。」
「じゃあ、ウチらが生活に困らなければ、JRに行きたいって思ってるって事。」
「そうよ。きっとね。」
「・・・でも、それってお母さんが推測で話してることでしょ。」
「推測って事は無いわ。」
間髪入れずにお母さんは言う。推測だとは微塵も思っていないみたいだ。
「でも・・・。」
ウチが更に続けようとするとお母さんはウチの口を手で覆ってきた。
「それ以上はここで話すことじゃないから。先に行くわね。」
と言った。ウチがその言葉に首を縦に振るとお母さんは手を離す。
「お父さんがJRに行きたいって思ってるのはさっきも言ったけど、変わってないと思う。でもね、今の自分がJR関係の仕事に行くのは難しいだろうとも思ってるのよ。」
お母さんはそう言うと水を飲んだ。その後もまた話を続けていたが、ウチには何も入ってこなかった。いや、その先の話を理解する必要も無かった。お母さんが言った「今の自分がJRに行くのは難しい」それで全てを理解したと思ったからだ。
家に帰るとお父さんと智萌が待っていた。ウチはお父さんの顔を見ると、さっきのことをお父さんにも聞いてみたくなった。
「お父さん、ちょっと話したいんだけど。」
「んっ、なぁに。」
「あっ、ちょっと向こう行こうよ。」
「・・・萌、何か光に言った。」
お父さんはお母さんを見ながら言う。お父さんもお母さんのことはよく分かってるなぁ・・・。
「えっ、何でそう思ったのかな。」
「後できっちり聞くからね。」
「お父さん、早く。」
「あっ、うん。」
ウチは自分の部屋にお父さんを連れて行って、さっきお母さんと話したことをお父さんにも話した。お父さんはウチの話を黙って聞いていた。ウチが話し終わるとお父さんはため息をついた。
「余計なこと話してくれたね・・・。お母さんのこと後でシバイとくから。」
そう言うと、お父さんの顔はいつになく真剣になった。普段ならのほほんとしているお父さんだが、今から真剣な話するよ。そう言うスイッチが入ったようだ。
「光、お父さんが光に岩槻高校に行って欲しいって思ってるのは事実だけど、お父さんがいけないからどうしても行って欲しいって思ってるわけじゃないよ。そこだけは勘違いしないでね。光が岩槻以上に行きたいことやJR以上にやりたい仕事が見つかったら、お父さんはそんな光を応援するよ。いつまでもね。」
「・・・。」
「それにね、お父さんがJRいけなかったのは簡単に言っちゃえば勉強頑張らなかったからだよ。だから、光行きたいなら死ぬ気で頑張れ。絶対手を抜くな。岩槻に行くまでがゴールじゃない。その気でないとお父さんみたいになるから。」
お父さんはそこまで言うといつもの顔に戻った。
「さぁて、お母さんのこと怒っとかなくちゃね。」
お父さんは笑ってウチの部屋から出て行った。パタンとドアが閉まるまでウチはドアを見ていた。
「・・・お父さんって真剣な顔似合わないなぁ・・・。」
お母さんの話聞いてからウチは何考えてたんだろうなぁ、馬鹿馬鹿しい。お父さんがJRに行きたいのかどうかはウチには関係ない。ウチの将来はウチの将来だ。




