443列車 草の上
三者面談が終わって初めての土曜日。ウチは野洲川の河川敷に行った。自転車をこいで在来線の野洲川橋梁まで来たのだ。
在来線は新幹線から結構離れた位置に敷設されている。遠くには白く長い車体に青いラインが一筋走るN700Sが走り去っていく。一方で、在来線には今までの新快速のシンボルカラーが映えるシルバーの車体をもった223系、225系、229系が走って行く。東海道本線に与えられている線路記号「A」の文字がフルカラーLEDで表示されている。
「ふぅ・・・。」
堤防の草を座布団代わりに座った。VVVFの独特の音があたりに響く。野洲川には今橋梁を渡る6両編成の223系が走って行く。J編成だ。J編成の後ろにはシングルアームパンタグラフを装備するシルバーの車体が追従していく。4両編成の2号車にパンタグラフが2つ装備されているのがよく分かるからあれはU編成かぁ・・・。
「光君。」
呼ばれたので、後ろを振り返った。
「あっ・・・。」
「・・・キャッ。」
しばらくなんともいえない空気が流れる。モズには悪いけど・・・白・・・だった・・・。モズは赤面しながらウチの隣に来た。
「見なかった・・・。」
小声で聞いた。
「見・・・見てないよ・・・。」
「嘘言うな、見たでしょ。」
「見てないから。」
「・・・そういうことにしといてあげる。」
やっぱり気まずい。こういうときってどういうべきなのかな。見てないって言うと「嘘だろ」と言われ、逆に見たって言うと「エッチ」って言われるんだろうなぁ・・・。一体どっちが正解。むしろ、男は変態なんだからいっそのこと開き直って「ナイス、パンツゥ」とでも言うか・・・。うーん、これは男にとってこういう時必ずつきまとう永遠の問題かもなぁ。
「光君は三者面談終わってたよね。」
「ああ。先生には東京の学校以外に何か考えておいたらとはまた言われたけどね。」
「ふぅん・・・。そうなのかぁ・・・。やっぱり光君は東京行っちゃうわけ。」
「まだ試験すらしてないからな・・・。なんともいえないよ。でも、ウチは東京に行くつもり。」
ただそういう風に聞いてくるとモズのことも気になる。
「モズは進路決まったの。」
「私はねぇ、第一志望は守山の高校にしようと思うんだ。」
守山の高校かぁ。地元なんだ。
「そうなんだ。地元の高校なら親に迷惑とかもかけないしね。」
「そうかな。私は遠くに行くのが迷惑だから地元の高校に行くわけじゃないけど。」
モズはそう言いながら立ち上がる。
「もう行くのか。」
「うん、堤防の上に止まってる自転車光君のだったから話しかけただけ。」
そう言いながら、モズは自転車を指さした。近くにはモズのと思える自転車も止まっている。そして、さっきは気づかなかったものの、近くで自転車に乗ったまま待っている人もいる。
「そうなんだ。どこか行く途中だったの。」
「ちょっと自転車で走ってただけ。別に行く当てがあったわけじゃないの。」
「ふぅん。モズも何も考えずに外出ることあるんだな。」
「あるに決まってるでしょ。人間なんだし。・・・じゃあ、また学校でね。」
「うん。」
そういうと、モズは堤防の上に止まっている自転車に向かって走って行った。モズはさっきウチが気づいた人と少し話しながら、堤防の上を自転車で新幹線の方向に向かって走って行った。
ウチはしばらく電車を・・・。
「あっ・・・。」
ウチもゆっくりはしていられないなぁ・・・。お母さんの手伝いしないと。ウチも自転車まで走っていき、家路を急いだ。




