369列車 A.S
(二人とも寝静まったかなぁ・・・。)
そーっと階段を上る。二人の部屋まではもう少しだ。廊下を踏みしめる音さえかなり大きく聞こえる。
「ふぅ・・・。光、入るよ・・・。」
小さい声で中にいる息子に同意を求める。と言っても当然答えは返ってこない。光は智萌と違って夜更かしをあんまりしないからなぁ・・・。
扉をゆっくりと開けて中に入った。小さい常夜灯の光だけを頼りに、さっき気付いたものを探す。机の上には老いていない。となると引き出しの中か・・・。引き出しを開けて、中をごそごそと調べてみる。
「ジャラ・・・。」
何かチェーンみたいなのに手が当たった。引き出しをゆっくりと開けて中から取り出したものはスマートフォンだ。
(えっ・・・。これ誰が・・・。)
いやいや、二人には携帯は買ってない。まだ早いと思ったからだ。ナガシィの使ってるのじゃないし、誰からこんなもの貰ったのだろうか・・・。お義父さんかお義母さん・・・。いやいや、ナガシィの親はしっかりしてるからなぁ。仮にお義父さんが買ったとしても、お義母さんはそんな人じゃない。まして、私のお父さんとお母さんじゃないだろう。いくら孫がかわいいって言ってもねぇ・・・。
もうちょっと机の中を物色するとそれはあった。多分これだと思ったものを引っ張り出した。今度はロール状の何か。包みたいになってるけど、これは一体なんだろうか・・・。
(とにかく・・・。)
またゆっくりと二つ持って光の部屋から出た。
「何よ。これ・・・。」
すぐさま自分の携帯を取りに行った。
「ああ、なんかイライラするなぁ・・・。」
「どうしたの鳥峨家・・・。」
僕はそう聞いた。
「いや、ちょっと嫁と喧嘩してな・・・。全く普段はあんなことじゃ怒らないのに・・・。今日は何かカリカリしてたんだよなぁ・・・。怒らなくてもいいじゃんかよ・・・。」
どうやら梓ちゃんとなんかあったようだ。
「何があったのさ。」
「いや、洗濯物たたんでたらさ・・・。」
(人のブラ見てる暇があるだったら手伝ってくれなくていいわよ。)
「って・・・。こっちは善意でやってたのに・・・。こっちは連続で仕事なんだからさ、その位の利益があってもいいんじゃないって思わない。別にいいじゃん。自分の嫁のブラやパンツぐらい。今日白だったけど・・・。」
ちょっ、それはいらなくない・・・。
「確かに、手はちょっと止まったけどさぁ・・・。」
梓ちゃんが普段どんなの付けたり、はいてるか気になってたのね・・・。
「そっちはどうよ。」
「えっ。」
いやいや、その話振る・・・。
「うーん、そうだね。僕は萌からのキスが有れば、それでいいかな。」
「・・・求めないんだな・・・。身体は・・・。」
「別にずっと絶食なわけじゃないけど・・・。」
「俺の嫁カワイイプラス淫乱だから。」
何の話だよ。ていうか梓ちゃんが淫乱とかいらない情報だよ。まぁ、淫乱かどうかは置いておいて、5人目の子供でも行くつもりだろうか・・・。梓ちゃんも何回痛い思いしてるんだか・・・。
「ティルティティティティルティティトゥ。ティルティティティティルティティトゥ。ティルティティティティルティティトゥ。」
「あっ、俺のか。」
鳥峨家がそう言いちょっと後ろを振り返った。
「えっ、ちょっ、今振り返るのはやめて。」
でも、ちょっと違うみたいだ。音源を探ってみると僕の左ポケットの中からしている。
「あっ、これ僕か・・・。」
スマホを探って、画面を見ると萌からだ。
「何、萌。」
「あっ、ごめん。仕事中だよね。」
「うん。急じゃないなら後で話してほしいんだけど。」
「今、聞いてくれない。」
「はぁ、いいよ。今回だけだからね。」
今回だけだからねと言いつつ、これが初めてじゃないんだよなぁ。そして、2回目でもないんだよなぁ・・・。これで何回目だっけ。
「光の机の引き出しの中からスマホとロールが出てきたんだけど。」
「僕たちが買ったものじゃないね。光たちにスマホは買ってないし。」
「でしょ。」
「・・・萌、それ開けるかな・・・。」
「えっ、開けるって・・・。」
スマホの電源ボタンを押した。すると南京錠のアイコンがいつものごとく出てくる。それをスライドさせ、出てきた画面は・・・。
「暗証番号なくても開けたわ。」
「じゃあ、次は電話の履歴と、メールの履歴。有るならLINE、ツイッターの中身も見てみたほうがいいね。」
「ちょっとナガシィ、そんなに一度に言わないで。」
電話越しにその声が聞こえる。
「嫁と仕事中に喧嘩か。」
鳥峨家はそう言った。
「別に、これは喧嘩の内に入らないよ。」
「電話の履歴は無いわ、メールもしてないみたい。ツイッターは何も手を付けてない。アカウントすらないわ。あっ、LINEだけあった。しかも全部残ってるわ。」
「誰と、どんな会話。」
「A.Sっていう人と何処で落ち合うかってこと以外話してないわ。あっ、でも、光から「亜美」って打ってるから、多分これがそのA.Sって子かな。」
「・・・僕明日仕事無いし、そのときに聞こうか。光の事だよ。僕たちに言えないような事情がその子との間であるんじゃないかな。」
「そうかなぁ・・・。何も親にまで秘密にする必要はないと思うんだけど。」
「・・・。」
と話している時、僕はふと萌が話しの最初の方で行ったことを思い出した。
「ところで、萌。もう一つ言ってなかったロールが出てきたって。」
「あっ・・・。」
勉強机のところだけ、こうこうと明かりが灯るところでただひたすら鉛筆を走らせる。一ケタの数字が、一ケタの数字の間に埋まっていく。スピードはかなり速く、そして正確だ。
「はい、やめ。」
その電子音声で鉛筆を置いた。カラカラという音が一角だけ明るい部屋に響いた。
「ふぅ・・・。」
ようやっと肩の力を抜ける。身体を伸ばした。鉛筆の転がっていった方向を見ると何か通知が来ていることが分かった。赤く光るボタンを押す。
「失礼いたします、亜美様。」
そう言い、扉の近くに青いホログラムが現れた。
「ああ、瑞西。これをまた例の所に届けてくれないかな。」
「はい、畏まりました。亜美様。あっ、亜美様。少々よろしいでしょうか。先程、お母様とお父様が・・・。」
「帰して。顔も見たくない。」
「はい。」
瑞西が頭を下げるとホログラムは消え、元の部屋に戻る。バンと大きく机をたたく音とその衝撃で物が落ちたり、転がったりする音だけが残った。
亜美ちゃんの名字は瑞西じゃない。




