436列車 モズの考え事
今日も塾がある。ウチは自転車を飛ばし塾へと向かっていった。歩いてもいける距離だが、家でいろいろやっていると自転車でなければ間に合わない時間になってしまった。
塾の扉を開けてはいるとモズがいた。
「光君、こんばんは。」
「こんばんは、モズ。」
「・・・。」
「・・・どうかした。」
「あっ、ううん。何でも無いの。気にしないで。」
モズはそう言って、すたすたと教室へと歩いて行った。ウチもモズの後を追うように教室へと歩いて行った。
塾が終わるともう21時前。家について寝る時間は22時ぐらいになってしまう。明日も学校と考えると頭が痛む。まぁ、自分で選んだことだから別にいいけど。
帰りはモズと一緒の方向に変える。来る時は自転車で来たが、帰りはその自転車を押しながら帰る。
「それにしてもユサ来なかったな。」
ウチはそう言った。
「そうね・・・。体調でも悪くしたのかしら。」
「今は体調崩しやすい時期だもんなぁ・・・。ウチのお父さんも不規則な生活してるから大丈夫かな・・・。」
「・・・光君のお母さんはお父さんのことよく知ってるから、もし体壊してたら、分かるんじゃないかな。」
「それは言える。ウチのお母さんすごいからなぁ。」
「・・・あのぉ・・・」
モズが何か言ったような気がした。
「何。」
「光君って東京行くんだよね。神威さんがそう言ってたんだけど。」
「神威さんが情報流そうが、流すまいがウチは東京に行くんだし。」。」
ウチはそう返した。ていうか、本当のことなんだしこれは別に広まっても問題ないけど。まぁ、それで東京の高校に絶対合格しろよとか変なプレッシャーをかける人がいなければいいんだけどなぁ・・・そんなの無理かぁ。
「お母さんもお父さんも東京行っていいって言ってくれたからもう後は合格すればいいだけ。それまでしっかり頑張るだけだよ。」
ウチはそう言った後あることに気づいた。
「あっ、その後も頑張らないとね。」
と付け加えた。
「光君。」
モズは声を張る。ウチはそれにちょっとビックリした。モズが普段声を張ることはないからだ。
「前から、気になってた。何で。何で東京なの。大阪にはそう言う高校はないの。無理して東京に行くことないじゃん。」
その言葉にさらにモズは続ける。
「私あの後調べたよ。大阪産業大学付属でもいいじゃん。アレだって元々鉄道学校だった高校でしょ。それと岩槻は何が違うの。」
「・・・岩槻には運輸科があるからね。大阪にはないでしょ。」
「確かにないけど。」
「ウチは運輸科に行って鉄道に特化した勉強がしたいんだ。だから、岩槻でなきゃダメなの。高校行くだけなら、大阪でもいいけどさ。やりたいことがあるのに大阪の高校に行っても意味ないとウチは思うなぁ。」
「それは・・・。」
「東京でなきゃダメな理由はそれぐらいかな。」
「・・・。」
モズはしばらく黙っていた。モズを見てもうつむきながら歩いているだけだ。そんな時間が流れていく。その状態がモズと方向違いになる交差点まで続いた。
「光君。」
そこに来てモズは口を開き、顔を上げた。
「そうよね。私が光君に大阪がいいよって言っても意味が無いのは私も分かってる。光君がやりたいことがあるんだもんね。」
「うん。」
「光君、頑張ってね。私も自分の進路のこと全力で頑張るから。」
「ああ。」
「光君。また明日ね。」
「じゃあ、また明日。」
モズは走って自分の家のほうへ向かっていく。元気だな。そんなことを思いながら、その後ろ姿を見送る。でも、モズは一体何がしたかったのだろうか。それはよくわかんないけど、まぁいいか。
何がしたかったのか、それは私だけが知っていること。




