435列車 500円に成増。
「東京ッ・・・。」
そう言う由佐ちゃんの口を私は押さえた。
「えっ・・・それってマジ話。」
由佐ちゃんは声を小さくして、私に話しかけてくる。
「そうよ。自分の弟が言ってたことなんだから当たり前じゃん。」
私は自慢の弟が東京に行くということに胸を張った。いやぁ、出来た弟をもっている姉というのは誇らしいなぁ・・・。
「コラ、誇ってる場合じゃないでしょ。早くあさひちゃんにそのこと言わなきゃ。」
由佐ちゃんはかなり焦っている。そんなに焦っても仕方ないと思うんだけどなぁ・・・。そもそもあさひちゃんが好きじゃなくて気になっているのは弟じゃないんだよねぇ。むしろ、そのこと今ここで言うべきかな・・・。
「待て待て。そんなすぐにあさひちゃんに言ってもダメよ。」
「何で・・・。大ニュースじゃん。滋賀県から東京に幾人減がいて、その人には好きな人がいるし、その人を好きな人もいる。学年中に広めてあげれば、光君の取り合いを見ることが出来るんだから。」
「・・・私は弟の取り合いを見たいわけじゃないの。」
そう言うと由佐ちゃんの顔はみるみるとつまらなそうになる。
「つまんないわねぇ・・・。何でよ。」
「由佐ちゃん、光の姉として分かってること全部話してあげようか。光が東京行くっていう話を学年中に広めても、学年の女子全員、粉砕☆玉砕☆大喝采されるだけだから面白くもなんともないのよ。」
「なわけないでしょ。あさひちゃんは粉砕☆玉砕☆大喝采にならないでしょ。」
「あさひちゃんも含めて、粉砕☆玉砕☆大喝采になるの。」
「えっ・・・それもマジ話。」
「これもマジ話。」
「何よ。この学校に光君が好きな人はいないわけ。」
かなりビックリしているようだ。
「なんだぁ・・・。つまんない・・・。せっかくあさひちゃんが光君を射止めると思ってたのに。」
「・・・私も途中までは思ってたわ・・・途中まではね。」
「言い方ウザい。教えろ。光君が本当に好きな人は誰だ。名前も顔もわかんないけど。」
(・・・智萌ちゃんと由佐ちゃん何話してるのかな・・・。)
そう思いながら、後ろで会話している二人を見た。さすがに教室に後ろで話している会話の内容を全部聞き取れるほど私の耳はよくない。
「二人の会話が気になるんだ。」
怪しい声が耳元で響く。それにビックリして振り返るとクラスメイトの一人が私の後ろに立っていた。いつの間に・・・。
「すごい情報手に入れちゃったわよ。これは噂してしっかり広めとかないとねぇ。特に学級委員の中百舌鳥さんには。」
「・・・あんまり変な噂立てちゃダメよ、神威さん。」
「フッフッフ・・・噂は流すためにあるって言うのがあたし、神威情報屋の信条よ。」
かけている眼鏡をクイッとあげながら言う。神威情報屋って結構いい加減な情報流すんだよねぇ・・・。まるで日本のマスメディアみたい。
「あっ、情報提供料は一つにつき500円になります。」
テヘッ。
「コラ、学校でそんなことしちゃいけません。」
放課後・・・、
「前回も第一志望はD判定だったんだ・・・。。」
俺はそう言い肩を落とした。今回も岩槻高校の合否判定はDランク。Eランクよりはましだが、これは受かる気配すらない・・・。光はこれをBランクへそしてAランクへと持って行っている。あいつ、どんだけ勉強してるんだ・・・。
「Dかぁ・・・。Eよりはましだけどねぇ・・・。」
中百舌鳥さんもそんなことを言った。
「中百舌鳥さんはどうなのさ。第一志望には合格できそうなのか。」
「そうね。合格できるとは思ってない。いくら判定がよくてもそこで満足したら絶対落ちる。私はそう思ってるから。だから、受かるなんて願望は心の奥底に沈めとくわ。」
中百舌鳥さんってそんなこと考えながら受験勉強してるんだ・・・。それを今俺は初めて知った。
「そうなんだ。真面目だな、中百舌鳥さんは。」
「真面目か・・・。」
中百舌鳥さんはそう言ってからまたシャープペンを動かす。しかし、ノートに書いているのはただの落書きだ。さっきは満足したらダメって言ってたのに・・・。落書きをしているところを見ると今の実力の満足しているようにしか見えないぞ。
「中百舌鳥さん。」
「んっ。」
「何書いてるんだよ。」
「えっ・・・。あっ・・・。」
そう言い、中百舌鳥さんは顔を赤くして慌ててノートに書いた落書きを消した。そんなに見られたらマズイものだったのか。
「・・・長宗我部君は知ってる。光君の進路の噂。」
「噂。」
「うん、東京行くっていうこと。女子の間じゃ結構広がってるんだよ。」
中百舌鳥さんは声を小さくしていった。
「噂じゃねぇよ、それ。」
俺はボソッと言った。
「・・・うん、知ってる。」
それに中百舌鳥さんはそう答えた。たぶん結構前に話した時のことを中百舌鳥さんは覚えていたのだろう。
「本人から直接聞いたよ。必ず受かるようにしなきゃねって・・・。」
直接聞いてるんだ。いつ話を聞いたのかそんなことは聞かないことにする。
「塾でも光君すごく頑張ってるのよく見てるから・・・。」
「・・・。」
「すごいよねぇ。私達とは次元が違うよ。」
次元が違うかぁ・・・。確かにそうだろう。中途半端な気持ちで東京に行くんじゃない。あいつは自分の意思でJRに入りたいという一心で東京へ旅立っていく。それと比べてしまえばな・・・。
「でも、何でそのこと。」
「他人のことが気になるっていうか。」
「中百舌鳥さんらしくないなぁ・・・。」
「私も人間なのよ。心があるんだから、他人のことが気になることもあるのよ。まぁ、それで自分の集中力が切れ気味になってるっていうのはバカな話以外の何物でも無いけど。」
「・・・。」
勉強の手も止まるし、口の動きも止まる。ただただ時間だけが流れていく。
「中百舌鳥さん。東京には行かないのか。」
「行かない。ていうか、行けないわ・・・。そう言う長宗我部君は行かないの。」
「俺も無理だ。東京行くなら大阪でもいいじゃんって・・・親にそう言われて終わりだぜ。」
「・・・私も同じ・・・。」
親からしてみればそうなんだろうなぁ・・・。
「・・・私、今日は帰るわ。」
そう言い中百舌鳥さんは荷物をまとめ始める。
「今日は集中できないの。ちょっとリフレッシュしてくるわ。その方がまだ頭が回る気がするから。」
そう言うと中百舌鳥さんは図書室から出て行った。俺も今日は集中できそうにない。帰るか・・・。




