434列車 春の嵐
数日後、
「えっ、光君東京行くって。」
鳥峨家は驚いたように声を上げた。
「東京ってすげぇなぁ・・・。」
沙留も驚いている。
「うん、東京行くんだって。岩槻高校って言う高校にさ。」
「ふーん。じゃあ、尻労はたからないとなぁ。」
そんなことを言いながら鳥峨家は笑った。
「それは鳥峨家も同じでしょ。4人も子供がいるんだから、しっかり働かないとなぁ。」
沙留が返す。
「分かってるって。」
そういった頃、外からは雨の音が響き始めてきた。音はだんだんと強くなっていき、雨脚が強まってきていることが部屋の中にいながらもよく分かった。
「ゲッ・・・。」
「雨降ってきちゃったなぁ・・・。」
「嘘だろ。今日雨降る予報だったっけ・・・。」
「ああ、今日は天気予報見てなかったなぁ・・・。」
「二人とも傘もってる。」
沙留が聞いてきた。
「もってないなぁ・・・。」
「僕は萌に電話して迎えに来て貰っちゃうよ。」
鳥峨家、僕の順番でそれに答えた。
「いいなぁ。家が近くてラブラブな人は・・・。でも、それは鳥峨家にも言えることだよなぁ。梓ちゃんは迎えに来てくれないのか。」
「・・・あっ・・・ああ、梓ちゃん今日は忙しいだろうからなぁ・・・。」
鳥峨家の言い方から沙留は何か察したようだ。
「また梓ちゃんと喧嘩したのか・・・。お前のところも喧嘩が絶えないねぇ。」
「またってなぁ・・・。最近は喧嘩してなかったんだけどなぁ。昨日梓ちゃんのこと怒らせちゃってさぁ・・・。全く、些細なことなんだからそんなに怒らなくてもいいじゃんなぁ。」
いや、そんなこと言われてもどういう無いようで喧嘩したのか僕たちは分からないから同意を求められてもなぁ・・・。
「ちゃんと仲直りしろよ。いつものことだから問題ないだろうけど。」
沙留はそう言うと傘を持ち出して詰め所の出口に向かった。
「んじゃ、後頼むわ。お疲れ様。」
「お疲れ様。」
「お疲れ様ぁ。」
沙留が出ると詰め所の中は二人だけになった。しばらく経つ友江から詰め所前に着いたという電話があり、僕は詰め所を出た。鳥峨家もやることが終わったのかすぐに詰め所を出てくる。外では強烈に降る雨が出迎えてくれた。さながら春の嵐という感じだ。
「ナガシィ・・・。」
そう言いながら、萌がレヴォちゃんから走ってきた。萌の肩は雨で濡れているし、ズボンの裾も湿っている。傘もあまり役には立ってないようだ。
「お待たせ。あっ、ちょうど大希君も一緒だったんだ。」
「うん、ちょうどね。」
ちらっと萌の後ろを見るともう一つの傘を差して、立っている人がいる。
「梓ちゃん。」
「お仕事お疲れ様。」
「あっ、梓ちゃん。」
「何、早く帰るわよ。あっ、言っとくけどご飯はないからね。」
相当怒ってるみたいだ。一体なんて言って梓ちゃんのこと怒らしたんだろうなぁ・・・。
「萌、梓ちゃんなんで怒ってるのか知ってるの。」
「知ってるよ。まぁ、ナガシィも私に言うことあるけどね。」
「えっ。」
「あっ、ごめん、意識無かったわね。うん。」
「梓ちゃん、頼むよ。機嫌直してくれよ。」
「フン。」
謝っているものの、梓ちゃんはまだ許す気は無いらしい。鳥峨家が梓ちゃんと正対する度に梓ちゃんは顔を動かして鳥峨家から目をそらす。
「・・・梓ちゃんがその気なら。」
鳥峨家はそう言うと梓ちゃんの頬にキスした。それにびっくりしたのか梓ちゃんの顔が赤くなる。
「ちょ・・・キスして許して貰おうなんてず・・・ずるいわよ。」
「アツいねぇ・・・。」
「梓ちゃん、何か嬉しそう。」
「そりゃ、キスされて嬉しくない女性はいないって。」
僕たちがそう言っている間にも鳥峨家は何回も梓ちゃんにキスする。恥ずかしそうに、でも嬉しそうに反応する梓ちゃんのことなどお構いなしだ。
「大希・・・。」
「さっ、それ以上は家に帰ってからにしましょう。」
「そ・・・それ以上って何よ。」
「もう、言わなくても分かってるくせに。」
「早く帰ろう、萌。僕眠いから。」
「はいはい。」




