424列車 「のぞみ1号」
2033年元日。新大阪駅は混み合っている。普段からの旅客と繁忙期に新幹線に乗る旅客。そして、今日という日にJR西日本管内を走る新幹線に乗りまくる旅客。すべての旅客を覆い隠すように新大阪のホームにはひっきりなしにN700Sが入線する。
「みんな眠くない。」
お母さんが聞いた。
「僕は大丈夫。」
「ウチは眠くなんか無いよ。」
「ああ・・・。眠い・・・。
お父さん、ウチ、智萌の順に回答があった。と言っても、智萌は今も目をこすっている。昨日いつねたんだろうなぁ・・・。
「まぁ、「のぞみ」の中で寝ていけば。」
お母さんは智萌を見てそう続けた。お母さんの言葉が終わるのと入れ替わりに21番線にアナウンスが流れる。それは名古屋から来る「のぞみ1号」の到着を告げるものだ。東京方面からN700Sが入線する。白の車体に入る700系時代から踏襲する青い2本のラインが目に入る。16両編成ある車両の中央部が僕たちの前に止まった。
「新大阪、新大阪です。ご乗車ありがとうございます。」
到着した列車からは多くの客が降りた。入れ替わりに、明らかに鉄道ファンだろうなぁという人の多くがグリーン車に吸い込まれていった。
「じゃあ、乗りましょうか。」
お母さんがそういうと、僕たちはグリーン車に乗り込んだ。乗った車両は9号車。3両連結されているグリーン車の中央だ。
「うわぁ・・・。」
ウチは車内に入ってそう声を上げる。もう少し立つと「ひかり」に乗ってまた浜松に帰るわけであるが、そのときに乗っている普通車とは違う。ライトは淡泊という雰囲気はなく、暖かく包み込むという表現が合うものだろう。シートも普通車とは比べものにならないほど横幅が広い。
座ってみても違うことがよく分かる。ウチらの前にはお父さんとお母さんが座っているが、窮屈そうには見えない。ウチの隣にも智萌が座っているが、意識しなければ智萌が座っているということ自体認識できない広さだ。この座席にお手頃価格で、しかも4回まで座ることが出来るのだから、すごいものだ。
気づくと「のぞみ1号」は新大阪駅のホームから滑り出していた。
「光も智萌も山陽新幹線に乗るのは久しぶりだよね。」
「そうだっけ。」
智萌はいつからしているのかゲームを始めている。こういうときまでゲームかよ、まぁいいけど。
「何してるの。タッグ○ォースなら、お母さんも混ぜて。」
「ヤダ。お母さん|真○眼(ネオ・○○○アイズ)出しちゃうもん。すごい確率で。」
「・・・えぇ・・・。いっとくけど、真○眼出すの大変なのよ。」
「じゃあ、何であんなにホイホイ出せるの。|双爆○竜(ツインバー○○)ほど素材軽くないのに・・・。お母さんの運がキチガイだからでしょ。」
「静かに・・・智萌。」
「あっ、ごめん。」
「・・・分かったわよ。」
お母さんのそういう声が聞こえる。ウチはお父さんをちらっと見た。窓の外をただ、黙って眺めている。新大阪駅の博多よりにある建物ももう見えなくなり、新幹線は大きくカーブしながら、新神戸へと向かって加速を続ける。
ウチも黙って、外を眺めた。隣からはゲームしようというお母さんとお母さんの強運をいやがる智萌の声が耳に入ってきていた。




