421列車 今更感
ウチらはまた大阪に来た。途中車体更新された289系にも出会い、いいスタートだ。そうそう、あの特急「くろしお」向けの287系、旧「しらさぎ」683系2000番台からの改造289系2000番台。彼らに最近施されている塗装は南紀の空と海をデザインしたもの。太陽も描かれており、6両編成の287系と289系2000番台4号車にある。ラインカラーは283系「オーシャンアロー」から受け継いでいるイメージカラーである。
「あのカラーの「くろしお」は初めて見たな。」
ウチはそう言った。
「ああ、そうだな・・・。」
「どうしたんだよ。キラ。元気ないぞ。」
「いや、元気ないわけじゃないよ。」
「・・・。」
「おーい。光ちゃん。キラ君。」
その声はもうおなじみだ。それにしても、また亜美は140円払って駅構内に入ってきているのかぁ・・・。
「亜美。」
「こんにちは。崇城さん。」
「さ、私の家に行きましょう。」
促されて、ウチらは亜美の後に付いていった。
亜美の家は相変わらず圧倒される。でも、そんなことを気にしていたらいつまで経っても亜美の家の中には入れないので、気にせずに入った。
「さて、今回の話題は主にダイヤ改正よ。12月にダイヤ改正は発表されてたけど、3月にそれが現実になったわね。もうあれから一ヶ月経とうとしてるし、鉄ちゃんの話題としてはずいぶん重いと思うかもしれないけどね。」
「まぁ、今更感はあるよな。」
キラが言う。
「ダイヤ改正ってそんな前に発表されるんだ。」
ウチがそう言うと、
「えっ。」
「「えっ」って。」
「そりゃそうだよ。」
「光ちゃん、もしかしていつダイヤ改正発表されてるのかって知らなかったの。」
「今初めて知ったよ。」
「そうなの。あなたのお父さん電車好きだから、そういう方面精通してると思ったんだけどなぁ。」
「たぶん知ってるよ。でも、ウチのお父さんはこっちから話題振らないと話さないからなぁ・・・。」
「・・・光ちゃんのお父さんって家族にも人見知りするのかしら。」
「俺が遊びに行ったときも、「ああ、来てるんだ」程度にしか思ってないんじゃないか。それに、光のお父さん鉄道の話になったら一気に口数増えるのに、他に話題になると口数極端に減るんだよな。スイッチのオンオフがよく分かるって言うか。」
「ああ、それはそうかも」
「そうかもじゃなくて、そうだって。」
「まっ、その話はどうでもいいわ。」
亜美はそう言うとパソコンにインターネットを出し、ホログラムにその画面を投影した。それには2032年度ダイヤ改正と書いてある。
「今回のダイヤ改正で大きく動いたのはやっぱりJR西日本とJR北海道ね。JR西日本の目玉は北陸新幹線の全通。敦賀から新大阪の間がようやっと開業すること。そして、それに伴う小浜線の敦賀~小浜間が「ダイナ」に転換されることと新幹線接続特急だった「サンダーバード」の完全廃止。それに伴って運用を失った683系4000番台による289系0番台、旧681系編成の完全淘汰。西日本はこれぐらいかしら。JR北海道で大きいのは宗谷本線の名寄~稚内感の廃止が正式決定したって事。もう廃止になって日本最北端の駅は今年の3月から名寄駅に変わったって事。稚内は結構いいデザインだったからもったいないと思ったけど、営業係数が酷いから仕方ないところもあるわね。最近は800円超えてたし、もう沿線自治体も耐えきれなくなってたのでしょうね・・・。」
また難しいことが出てきた。
「営業係数って。」
そう聞く前にキラが聞いた。
「営業係数って言うのは100円稼ぐのにどれぐらいのお金がかかるかって数字よ。簡単に言うと自分が家の手伝いをしてもらえるお駄賃ってところかしら。食器洗いして100円貰うのと、住んでる家全部を掃除して100円貰うのじゃ思うことが違うでしょ。それと変わらないわ。ただ、一つ違うのは営業係数には気持ちが実数として表れるって事。100円未満なら得した、100円を超えるようなら損した。100円なら損得無しって感じでね。営業係数が800円って言うのは100円稼ぐのに800円ものお金がいるって事。これじゃあ廃止にしますって言っても反対の声があまり上がらないわけだわ。まっ、JR北海道の営業縮小はこれだけじゃないけど・・・。」
「JR北海道ってそんなに悪いのかな。」
キラの問いに亜美はすぐに答えた。
「JR北海道も悪いけど、乗らない私たちも悪いわね。北海道の経営が悪いのは車とか飛行機でひとっ飛びする人が「忙しい」とか「不便」とか理由を付けて乗らないことがそもそもの原因なのだからね。それにほとんどの人は知らないのよ。JRに乗らない人が一番損してるってことにね。・・・と、暗い話はもうたくさんね。」
亜美は最後にそう言ったけど、どういうことだろうなぁ・・・。この後もプレスリリースを見てのダイヤ改正の話が続いた。その話が一段落すると、
「そうそう。キラ君。そろそろ決まったかな。」
と切り出した。
「ああ、そのことか・・・。」
キラはあまりいい顔をしなかった。それだけで亜美はいろいろと察したらしい。
「ああ、なるほど。別にいいわ。自分の進路だからねぇ。」
「悪いな。せっかくいい高校教えてくれたのに。」
「いいのよ。東京なんだから、無理に行って欲しいって訳じゃないからね。まぁ、本音を言えば行って欲しかったけど・・・。」
「・・・キラ。そろそろ帰る。」
ウチはそう聞いた。
「ああ、そうするか。」
「光ちゃん。ちょっといい。」
亜美はそういい、
「光ちゃん、もう進路のことでキラ君に関わりを持たない事ね。関わりすぎると自分に悪い影響になるわよ。」
そう耳元でつぶやいた。




