367列車 式の後
「皆さま、卒業おめでとうございます。」
そう、今日は卒業式だ。という話はさっさと終わらせることにしよう。
「二人とも、クラスの人と話すこととかないの。」
お母さんがそう聞いてきた。
「無いよ。あっ、でも、私はちょっと用事があるから。」
「用事って・・・。だったら話すことがあるのと変わらないじゃない。」
ウチはちょっと呆れながら、そう言った。
「そう言う光は無いの。」
「・・・ないわけじゃないよ。」
「あさひちゃんと話したりするの。」
「えっ、二人とももうガールフレンドとボーイフレンドがいるの。速いなぁ、お母さんと同じぐらい早いかな。」
ちょっとからかい気味だ。
「智萌ちゃん。」
そう言っていたら、越後の呼ぶ声がした。越後は息を切らしながら、近寄ってくると、智萌の耳に手を当てて、小さい声で何かを言ったようだ。
「あっ、お母さん、ちょっと由佐ちゃんと話してきていい。」
「いいわよ。じゃあ、光ちょっと待って・・・。」
「ああ、先に帰ってても大丈夫だよ。」
「何そんなに慌ててるんだよ。」
「そりゃ慌てるよ。友達が告白されるシーンは見てみたいじゃん。」
「・・・。」
そう言うと、内に卒業証書をはじめ、持ってるもの全部家に投げていった。
「コラ、智萌。ものは投げるな。」
お母さんがそう怒ったけど、智萌は「ごめんなさい」そう言って走って人ごみの中へと消えていった。
「もう。先に帰っててもいいって・・・。」
「いいんじゃないの、お母さん。智萌なら大丈夫だよ。それにユサもいるし。」
「・・・置いて帰るわけにはいかないわよ。」
そういい、お母さんはあたりを見回したが、ちょっと経ったら溜息をついて
「仕方ない。このままちょっと待ってようか。」
といった。多分座るところを探していたんだと思う。そりゃ見つからないよなぁ・・・。学校なんだし。
「あっ、お母さん。」
「なぁに、光。」
「家に帰ったらちょっと出かけていいかな。友達と会う約束してるんだけど。」
「いいわ、でもちゃんと5時には帰りなさいよ。」
それにウチはハッとした。
(こりゃ、怒られること確定だな・・・。)
その頭のままウチは自分の家から遠い場所にある公園まで自転車を飛ばした。その公園に着くとウチは自転車の鍵をかけて、中へと入る。中には誰もいない。
「ヤッホー、光ちゃん。」
そう言って待っていた人は出てきた。まだ着いてなかったみたいだ。
「今日は何で呼び出したのさ。」
「んっ、ああ。ちょっと光ちゃんに渡したいものがあってね。」
しゃれた服を着るその少女はそう言うと持っていたカバンの中からロール状の物を取り出し、ほいと投げる。
「えっ、ちょちょちょちょ・・・。」
何とかキャッチ。
「何これ。」
「知らない。CNFT。」
そうは言っても、知らないものは知らない。ウチは首を横に振った。
「そっか。光ちゃんの家にはないんだ。まぁ、使い方はスマホと何ら変わりはない。ただ、使う前にロールになってるのを広げる必要があるってことだけかな。」
そういい、CNFTに使われているCNFは15年くらい前から注目されていたらしい。よくは分からないけどね。
「まっ、それの事はどうだっていいわ。見てほしいのはその中身の事なんだけど。」
ウチはさっき言われたみたいにロールになっているCNFTをラップみたいに引っ張って広げ、電源マークのついている上端を押し、タブレットの電源を入れてみた。すると一ケタの数字が並んだものが出てきた。かなりの数が並んでいる。
「それが今回私の持ってきたとっておきよ。まっ、光ちゃんなら計算早そうだし、それほど問題じゃないでしょ。」
「・・・。」
いや、それは偏見ってもんだろう。
「渡したいものは渡したからね。光ちゃん。ライバルとして頑張ってよ。」
そう言い、その子は公園の外に向かって歩きはじめる。
「あっ、亜美は中学には。」
「当然行くわよ。義務教育なんだから。中学に行かなくなるほどぐれては無いわよ。ていうか、そんなくだらないことで学歴に傷を付けたくはないしね。高学歴はいらないけど。」
亜美って時折、難しい言葉を使うんだよなぁ・・・。義務教育って何だろう・・・。まぁ、義務なんだから、なんかすごく小学生からしてみれば感じのいい言葉じゃなさそうなのは確かだ。
「あっ、それともう一つ。新聞は読んだ方がいいわよ。でも、アプリダウンロードしてまで読む価値のある新聞は日本にないけどね。もちろん、アプリを提供してるところの中ではね。」
いや、何か読んだ方がいいってことしか意味が分かんないんだけど。
「じゃ、言いたいことも言ったし、私は帰るね。光ちゃん、また会おう。」
「あっ、うん。またね。」
そう言い、ウチは彼女の後姿を見送った。彼女は公園を出ると駅の方向へと歩いて行った。
(ウチも帰るか・・・。)
そう思い、ポケットから自転車の鍵を取り出した。
(アハハ・・・。今日はいいもの見れたなぁ・・・。輝君の愛の告白はあさひちゃんにはとどかなかったのは惜しかったけどね。)
ふと、近くの公園を通りかかった時だった。
「えっ・・・。」
思わず小さい声を上げた。
公園の中にいるのは光君ともう一人の女子だけ。それも学校で見たことのある人ではない。いや、あんなに洒落た洋服を着ている人が学校の中で目立たないはずはないのだ。
「誰・・・。」




