418列車 女子会2
「こ・・・こんにちは。」
「こんにちは。」
「誰なの。知り合い。」
美萌がそう聞いた。まぁ、当然の反応だよなぁ。
「崇城グループのご令嬢と言っておきましょう。皆様、お見知りおきを。」
そう言いながら、スカートの裾を少し持ち上げながら挨拶する。
「ど・・・どうもご丁寧に。」
梓たちはみんな声をそろえて、頭を下げた。
「ちょっと崇城グループって、あの崇城グループのことでしょう。日本の重工業で幅きかせてる大企業中の大企業じゃない。」
「あの崇城のご令嬢・・・。萌、なんかすごい人と知り合いじゃない。」
「崇城グループって今日取引に行った会社だけど・・・。」
そういうと、亜美は夏紀を見て、
「そうなんですね。社を代表し、社長に代わってお礼申し上げます。これからもどうぞごひいきに。」
「・・・こちらこそ、よろしくお願いします。崇城グループには普段からお世話になっていますので。」
「お嬢様。」
亜美を呼ぶ声に全員の目がそちらに向いた。声の主は両手にコーヒーカップを持ってこっちにやってくる。お嬢様と呼ぶところを見るとメイドさん・・・。服装は私たちが想像するメイド服ではない。私服だ。
「瑞西。」
「お知り合いですか、お嬢様。」
「ええ、光ちゃんのお母様とそのお友達です。」
「瑞西利理亜と申します。お嬢様がお世話になっております。」
両手がふさがっているから、頭を下げた。本物のメイドさんは私も初めて見たなぁ。
「あの、なぜ京都に。」
その問いに答えようとする瑞西を手で亜美が静止する。
「私からお答えします。今回は京都から出発する特急「くろしお」に乗車するためです。「くろしお」にはすでに新大阪~新宮間で乗車済みですが、京都から「くろしお」に乗車したことがありません。そこで京都を17時47分に出発する「くろしお23号」に乗車し、途中の和歌山まで行こうと言うことで、京都に参りました。本来であれば、京都を7時36分に出発する「くろしお3号」に乗車する予定だったのですが、時間の都合で「くろしお23号」になったのです。」
確かに、京都を始発駅にする「くろしお」は朝方の「3号」と夕方の「23号」とある。その列車は京都から東海道本線を南下していくが、茨木~千里丘の間で東海道本線から貨物線へと転線し、新大阪駅を目指している。それに乗りたいが為に来たと言うことだ。なお、京都を終点にする「はるか」や「くろしお」は新大阪から東海道本線を上ってくるため貨物線を通ることはない。
「電車好きなのね。」
夏紀がつぶやく。
「ホント、電車に詳しいところは萌と同じね。」
(なるほど、どおりで他の人がポカンとしてるのに・・・。)
「自由席に乗るのかな。」
「いいえ。グリーン車です。確か、1号車の3番Cと4番Cだったかしら。」
グリーン車かぁ・・・。やっぱり大企業のご令嬢が普通車に乗るわけなかぁ・・・。
「す・・・すごいわねぇ。」
「別にすごいことではありません。お金さえ払えば誰でも出来ること。グリーン車だからと身構えること自体、私から言わせればナンセンスなことです。」
そうかもしれないけどさぁ・・・じゃない。やっぱり普通の人はグリーン車って身構えるよ。普通車から一気にグレードが上がるだけじゃない。その分一気に料金も上がるのだ。それを工面できるだけ家計が潤沢な家って言うのは少ないからなぁ。
「お嬢様。そろそろ列車のお時間ですが・・・。」
「そう。では皆様、列車の出発時刻が迫っていると言うことですので、今回はここで失礼いたします。また、お話の機会がありましたら、ゆっくりお話ししましょう。」
「はい・・・。」
ああ、体が骨髄反射的に反応するなぁ・・・。前会ったときはそんなことなかったんだけど・・・。
(それにしても、あの子家に帰ったりしたのかな・・・。)
「どうかしたの。」
梓が聞いてきた。
「そりゃ、将来光君のお嫁さんになる人かもしれないでしょ。今どう見られてたかなぁとか考えてるんじゃないの。」
美萌がそう言う。
「そんなこと考えてないわよ。そうじゃなくて、あの子ちゃんと家に帰ってるのかなぁって・・・。」
「ちゃんと家に帰ってるって・・・どういうこと。」
夏紀も聞く。
「あの子、実家には帰ってないのよ。事情があって。」
「・・・お金持ちの家も難しいのね。」
「見たところ生活に困ってるようには見えないけど。親に顔出してないって言うのはねぇ・・・。親も心配してるんじゃないの。」
梓が言う。
「他人の家だろうが何だろうが、親に顔見せないってどういうことよって。ガツンと言ってやればいいのよ、ガツンと。」
美萌が続ける。
「そんなガツンと言えないよ。他人の家だもん。」
「あんまり、他人の家の教育方針にとやかく言うのもねぇ。月9みたいに絡まれたらいやだし。」
夏紀が言う。
「ていうか、あの子の親はこのこと知ってるの。」
「どうなんだろう。私の勘だけど、親はこれ知ってると思う。」
「萌の頼りになる勘が言うんだから、間違いないわね。」
「でも、仮に居場所を知ってるんならいつでも家に戻ってこさせることは出来るって事でしょう。なのにあんな野放しみたいな感じでいいのかな。」
「・・・。」
夏紀の言うとおりだ。いつでも家に戻せるのに、なぜそのままなのか・・・。親のことになるとかなり反発していたが・・・。
「なんか話しづらくなっちゃったね。」
「うん・・・。」
「今日はお開きにする。」
「そうしようかぁ・・・。」




