414列車 塾
亜美に岩槻に行くと伝えてから、ウチはそれまで以上に勉強を頑張り始めた。東京にある高校、いろいろと失敗は出来ない。それにウチが鉄道マンに早くなる方法はそれしか無いと思ったからだ。
もちろん、個人でやることには限界があるのは最初から分かってる。というわけでウチは塾に通い始めたのだ。「成績うなぎ登り」だったらいいなぁ・・・。教室に中には別の学校に通う同級生も勉強に来ている。その中で驚いたのはユサが通っていることだった。モズは通ってても別に驚かないんだけどなぁ・・・。
ちらっと塾の先生が時計を見る。
「それでは本日はここまでにして終わります。」
その一言が教室の中に響くと、全員「ふぅ」と一息ついたりする。
「終わったねぇ・・・。」
「帰ろう。由佐ちゃん。」
モズが近くに座っているユサに声をかける。
「うん。光君も一緒に帰ろう。」
といった。モズはまだ塾の鞄に道具を入れているが、ユサはもうすでに道具は鞄の中に消えている。二人とも準備は早いなぁ。ユサは帰る方だけだけど。
「分かったよ。ちょっと待ってて。」
ウチもそう言うと鞄に道具を詰めた。
塾を出ると辺りは暗くなっている。それはそうか。学校が終わった後に塾に来ているわけだから、あたりが明るいわけが無い。鞄を提げ、家の方向へと歩いて行く。
「それにしても、光君も塾に通い始めるなんてどうしたの。」
ユサがそう聞いてきた。
「高校受験のためでしょ。そうでしょ。」
その質問にはモズが答えてくれた。
「高校受験。もう受験のこと考えてるの。」
「モズの言うとおりだよ。」
「光君も勉強頑張るのね。そんなに勉強頑張ってどうするのよ。最近は図書館にも通ってるってあさひちゃんから聞いてるよ。」
誰がそんなことを・・・ってモズからかぁ・・・。それは止めようが無いな。
「別にいいでしょ。他人のことなんだから。それよりも由佐ちゃんも頑張らないと。今度のテスト英語また悪い点取るわよ。」
「日本人は日本語さえ覚えとけばいいのよ。町中で外国人に話しかけられたら、「I don’t speak English.」で押し通せば問題ないのよ。」
とかなんとか言っちゃってるけど、実際外国人に町中で話しかけられたとき「I don’t speak English.」で押し通す人っていないよなぁ・・・。自分、意味分からなくても一生懸命伝えようとする努力するし・・・てか、「I don’t speak English.」って言ってる時点で英語はなせてるし。それとも、こういう人のこれはカタカナ表記だから、話せていないのとイコールとでも言うかな・・・。
「それでダメなら「Pardon?」でやりきる。」
「テストで「Pardon?」連発してどうするのさ。」
光君の言う通りね。
「ていうか、それいつの話よ。1学期のテストからいい加減成長しなさい。」
モズの言うとおりだ。
「光君、私思うんだけどさ由佐ちゃんって能天気すぎると思わない。」
「・・・。」
ウチはそれにすぐには答えなかった。いや、ウチにはユサ以上に能天気な姉がいるしなぁ・・・。テストは一夜漬けでどうにでもなる上にウチもいるからどうにでもなるさって思ってる奴が近くにいるだけでユサの能天気さはかわいく見える。あっ、結局ユサも能天気なのか。
「能天気だな。」
「ああ。二人して。いいわよ。今度のテスト絶対あさひちゃんにここどうだったって聞かないから。」
「・・・。」
「光君、聞いてくるにジュース1本。」
「・・・賭けにならないな。」
「だねぇ・・・。」
「二人して・・・。今度の統一テストで一つでもあさひちゃんや光君に勝った教科があったら、二人から私にジュースおごってもらうからな。」
「えっ。」
「統一テストって・・・。知らない人がいるんだから、ちゃんと説明しなさいよね。光君は初めてだよね。」
「塾にもテストあるのね。」
「うん。高校受験の模擬試験とでも思ってくれればいいわよ。自分で行きたい高校を指定する以外は普通のテストよ。それであとでその高校にどのくらいの確率では入れるかデータもくれるから、進路を考えるのに参考になるわよ。」
「参考にねぇ・・・。」
ウチの中で指定する高校はもうすでに決まっていた。




