366列車 呼んじゃいましょ
翌日。
「輝君があさひちゃんに惚れてる。」
大きな声で言ったせいか、クラス中の視線が智萌と友達に集まった。
「シーッ・・・。」
「あっ、ごめん。」
申し訳なさそうに謝った。彼女は越後由佐。智萌の友達であり、中百舌鳥あさひの友達でもある。つまりは、光ともつながるのだ。
「どういうことよ。」
「昨日ね、輝君が私達と同じ方向に来てたのよ。私が気付いて声かけたんだけど、何でもないって言って家の方に帰っちゃってね。だから、今日ちょっと問い詰めてみようと思ってね。」
「あんまり変なことして聞き出さないでよね。輝君のこと知ってるでしょ。普段あんまり話さないこと。」
「分かってるよ。手荒なマネはしないから。」
(・・・大丈夫かな・・・。)
「ていうか、なんでそれであさひちゃんに惚れてることになるの。」
そもそもこれを聞かなければ話にならない。
「だって、私達のこと待ったうえで、来たところでちょっと顔を出したんだよ。昨日一緒に帰ったのは、塾で早く帰ったどっかの誰かさんを除いて、私かあさひちゃんのどっちか。まぁ、私は無いにしても、あさひちゃんは学年中で人気だからね。誰が惚れてもおかしくは無いわよ。」
そのどっかの誰かさんっていうのは越後の事だ。
「・・・。」
あんまり根拠らしい根拠で無い気がしてならないのは気のせいだろうか・・・。確かに、中百舌鳥は学年中で人気らしい。男子が恋バナすれば必ずと言っていいほどに名前が挙がってくるという噂は耳にしたことがある。ただ、これに確証があるかといえば、有るわけではない。確証という確証は男女両方から聞こえてくる永島光と中百舌鳥あさひが恋人同士「アサヒカ」だということ。それに「中百舌鳥さん、いいのになぁ」という男子の声が加わってそうなっているにすぎないのである。
ただ、「アサヒカ」っていうカップリングが出来ているわけじゃないため、噂の域を脱しない。
「それはそれとして・・・。まず、自分の弟があさひちゃんのことは好きじゃないって言ってるんだから。その延長線を根拠に話すのはどうかと思うけど。」
「先ずは、話してみるしかないよね。」
「人の話を聞けよ。」
「何か由佐ちゃんに怒られるとかなりショックなんですけど・・・。」
「悪かったわね、智萌ちゃんよりも頭悪い人で。」
ああ、言い忘れてた。塾って言ってもKU○ONとかじゃない。
放課後、
「あの・・・いますか・・・。」
そう言い、学校のわきにある小さな一角に入ってきたのは輝だ。
「何のつもりかな、永島君。」
そう言いながら、置いてあった手紙を見た。「今日、学校終ったら○○に来て。待ってる。」と永島としか書いてない。つぶさに見ているとこれって本当に永島君の字なのだろうかと思えてしまうほどの丸文字である。
「あっ、来てた。」
(ってなんで私が先に出なきゃいけないのよ・・・。)
そう文句を言いたくなる。
「あれ、越後さん・・・。ここに永島君はいますか。」
「ああ、あれ書いたの光君だと思ってるの。でも、残念。あれを書いたのは智萌ちゃんの方だよ。」
「あっ、そうなんだ・・・。」
とは言ったけど、
「なんで僕の事よびだすのかな・・・。」
「そりゃ、もちろん。輝君に聞きたいことがあるからに決まってるじゃない。」
そういい、智萌も同じ場所に来た。
「聞きたいことって。」
「直球で行くわ、中百舌鳥さんのこと好きでしょ。」
「えっ・・・。」
ちょっと待って、
「気付かれてないと思った。でも、この推理クイーン智萌の目は騙されないわよ。」
ちょっと一度やってみたかった。ていうか、何だろうこの気まずい雰囲気は・・・。ひょっとして、今の滑った・・・。
「ゴホン。」
気を取り直して、やっぱり名探偵コ○ンのお調子者では駄目か。
「えっと、ようはそう言うことよ。どうなの。」
「どうって・・・。別に僕はそんなこと・・・。」
「いや、いくらそう言ったところで、もう私でも騙せないと思うんだけど・・・。」
越後がそう言うと輝はちょっと黙ってからため息をついた。
「どうしても話さなきゃダメ。」
「うん・・・。ていうかもう話しても話さなくてもどっちでもいいかも。」
「・・・そう。僕が中百舌鳥さんのこと隙かどうか確認したかっただけなのね。もう、知りたいことが分かったんだし帰っていいよね。」
「うん。」
智萌がそう言うと輝は逃げるようにそこから去ろうとする。
「輝君。」
「何。話は終ったんじゃ・・・。」
「嫌われちゃうとか何も考えずに告白しちゃえ。でないと、取られるよ。光以外の男子に。」
「・・・分かった、ありがとう。」
輝が石ころを踏みしめる音は段々と小さくなっていった。
「智萌ちゃん、輝君ってあれで本当に勇気出たかな・・・。」
「さぁ、卒業式の日が楽しみになったねぇ・・・。」
卒業式はあと数日後。その日の楽しみに胸が高鳴っていた。
「あっ、光ちゃんの卒業式っていつなんだろう・・・。」
ふとそんなことが頭の中をよぎった。近くにあったロール状のものを手に取った。このロール状のものは現代のタブレット端末である。セルロースナノファイバー(CNF)で出来ているため、持ち運びは2010年代のタブレットよりも持ち歩きやすくなっている。
「光ちゃんの学校は確か・・・。」
そう考えながら、ロールの引っ張れるようになっているところを掴んで、右へと引っ張る。そうするとCNF端末が展開した。
「へぇ、もうあとちょっとかぁ・・・。」
そう呟くと近くにあったスマホを手に取った。
「あっ、おばさん。今度の・・・。」
登場人物
智萌の友達:越後由佐
名前の由来
越後由佐
上越新幹線越後湯沢駅。




