404列車 「TWILIGHT EXPRESS瑞風」
「JR七条、JR七条です。1番乗り場から普通亀岡行きが発車いたします。」
自動放送がそこまで言うと車掌は223系のドアを閉めた。車両は東海道本線を130キロで爆走していた1000番台だ。だが、乗務員室扉に付いているオレンジ色の2本のラインはそれが過去であることを物語っている。
「ドアが閉まります。ご注意ください。」
自動放送がそういう頃には、ブレーキの緩解音がして、VVVFインバーター音が響き始め、223系はJR七条からゆっくりと離れていった。
ここJR七条は2016年にオープンした京都鉄道博物館の最寄りとなる山陰本線(嵯峨野線)の駅である。そのせいか、休日の降車客は子供連れが多い。
近くにある京都鉄道博物館はグランドオープン当時日本最大級の鉄道博物館だったらしいが、今は拡張された大宮の鉄博に広さでは抜かれているようだ。展示車両は過去に走っていた車両がたくさん展示してある。日本の鉄道で誰もが知っている0系新幹線、初代「走るホテル」20系客車、JR西日本の超豪華寝台特急だった「Twilight Express」などなど。今ではどこを見ても走る姿を見ることができない車両ばかりだ。展示してある車両の中でウチが唯一は知っている時代を知っているのは「のぞみ」じゃない500系新幹線だけだな・・・。時代だねぇ。
「それにしても、今日は多いねぇ。普段なら人がたまるような液じゃないんだけど。」
ウチがそう言うと、
「それはそうだろう。なんせ今日は「瑞風」が通る日だもんなぁ・・・。」
と隣にいるキラが言った。
「「瑞風」の効果は絶大だな・・・。」
「乗れない代わりに、写真にでも撮っておこうと思うやつが多いんだよ。」
ウチはそれに何も言わなかった。そうだろうなぁと思わざるを得ないからだ。
「瑞風」の正式名称は「TWILIGHT EXPRESS瑞風」。87系を使ったJR西日本のクルーズトレインである。JR東日本には「TRAIN SUITE四季島」、JR九州の「ななつ星」と同じ存在である。最も豪華な客室は約70万円。とてもじゃないけど、手が出るような金額ではない。
「「瑞風」なんてとてもじゃないけど、乗れないからねぇ。光がJR西日本とかJR東海に入ってくれたら、乗れるかなぁ。」
お父さんはそう言ってたけど、ウチがJRに入っても無理だと思う。そもそも切符の売れ方がちが「グランクラス」と比較にならない勢いだろうからなぁ。
「まもなく、2番乗り場を列車が通過します。」
「瑞風」通過に先立ち、駅員がアナウンスを始めた。
「黄色い線の内側まで下がってお待ちください。ホームにいらっしゃるお客様、黄色い線の内側から出ないようご協力をお願いいたします。」
と注意喚起がある。
「言われなくても分かってるって。なぁ。」
「そうそう。」
だが、駅員がこういうのはそれが分からない人が居るからだ。
「2番乗り場を列車が通過します。危ないですから黄色い線の内側までお待ちください。2番乗り場を列車が通過します。ご注意ください。」
自動放送がそう言うと、ホームに居る鉄道ファン全員のカメラが二条の方向を向いた。そっちから87系が接近してくる。でも、
(見えない・・・。)
こういうときウチの身長を悔やむ。ウチ140cmもないからなぁ・・・。とかやっている間に「瑞風」の通過音がする。気動車だから、通過していく音は京丹後鉄道から走ってくる「はしだて」と同じ音がする。しかし、走行音自体に「はしだて」の重々しさはなく、電車のように軽快だ。ディーゼル発電機で発電した電気とバッテリーアシストによりモーター駆動をしているからだろう。
「見えたか。」
キラがそう聞いた。もう「瑞風」は行っちゃったんだなぁ。
「ううん。見えなかった。」
「ただ混んでるところに来ただけだったな。」
「キラ、写真撮れた。」
「えーっとねぇ。」
キラはそういうともっていたカメラで今撮った写真を確認した。だが、写っていた写真には前に居る人の手が映り込んでいた。それだけなら印刷して、その部分を切り取ればいいだけだが、
「あー・・・。」
その写真を見ながら、ウチとキラはそう声を上げた。
87系は前の人の手に阻まれて、車体の一部がその影から見えているだけなのだ。
「なぁ、もし崇城さんが「瑞風」撮ってたら、写真焼き増ししてもらおうぜ。」
「そうだな・・・。」
それと最後に、鉄道好きな皆さん。写真を撮るときはルールとマナーを守りましょう。
表現したとおりの走行音になるのかは不明です。あくまで想像の世界とお考えくださいませ。




