401列車 一真と梓
ウチは模型部屋にいた。レールの上にはJR西日本の車両が多く乗っかっている。225系、223系、321系、683系。複々線のレイアウトが広がるため、こういう車両たちはとても合うだろう。ただ、225系だけ種別幕が快速になっており、世代の違いをウチは感じるのだ。ウチの知る225系はほとんど新快速で走っているというのに。まぁ、快速で走っているのも見かけるけど・・・。
「コンコン。」
ドアをたたく音がした。
「誰。」
そう声をかける前に、一人模型部屋に入ってきた。
「久しぶり。」
両手をいっぱいに広げて、うれしそうな顔でこっちに手を振っている。だが、口は動いても、その人の声は聞こえてこない。その代わりにかすれた空気の音みたいなのが耳に届いてくるだけだ。
「梓お姉ちゃん。」
梓お姉ちゃんはレイアウトの下に潜り込み、運転台のある中へと入ってくる。入ったら、ウチにくっついてきた。久しぶりに会ったからうれしいんだろうなぁ、でもちょっとくっつきすぎはよくない。
「おい。」
そう言い模型部屋に入ってきたのは一真お兄ちゃんだ。
「私・久しぶり・会えて・嬉しい。」
梓お姉さんは手と表情でうれしさを表現する。
「嬉しいのは分かった。そろそろ離れてやれ。」
一真お兄ちゃんはゆっくり話しかけながら、手を動かす。ウチには手の意味が今でもよく分からないが、一真お兄ちゃんの言うことを梓お姉ちゃんは理解したのかすぐに離れてくれた。
「久しぶりだな、光。見ないうちにまた大きくなったんじゃないか。」
「そうかな。」
「そうだよ。萌姉さんにもいったけど、普段一緒にいるとあんまり大きくなったって思ってないみたいだな・・・。」
そういうものなのかな・・・。まぁ、そこはどうでもいいか。
「ねえ・ねえ・私・一緒・遊んで・いい。」
「一緒に遊んでもいいかって。」
「いいよ。」
「いいよ・って。」
「ありがとう。」
一真お兄ちゃんの通訳があるからいっていることがよく分かる。ウチがそう言うと、鉄道模型がたくさんおいてある部屋に入っていった。何をとってくるのかはよく分からない。何をとってくるのかな・・・。
しばらくして、戻ってくると「これ・線路・置いて・お願い。」といい、ウチに渡してきたのは西武鉄道の30000系「スマイルトレイン」だった。
西武鉄道30000系「スマイルトレイン」は「でかける人をほほえむ人へ」をスローガンに設計された。設計にはプロジェクトに関わる女性社員の意見も反映されたそうで、利用者目線を意識した車両に仕上がっている。その利用者目線が当たったのだろう、計画投入数をクリアしても製造されたところはそれを裏付ける。
それにしても、梓お姉ちゃんこういうの知ってるんだ。
「スマイルトレイン」を車庫に起き終わると、223系を入庫させ、代わりに「スマイルトレイン」を本線へと出した。JR西日本の車両が走るところに東京の私鉄車両が走るここはどこの世界だという光景が広がる。が、そこは模型だから何でもいい。
「スマイルトレイン」が走り出すと、梓お姉ちゃんは車両を追いかけ始めた。素直に走るのがすごいと思っているらしい。
「一緒に遊んでもいいって聞いたのになぁ・・・。」
一真お兄ちゃんはあきれ気味に言う。
「・・・。」
「光は将来鉄道の運転士だよな。」
一真お兄ちゃんはそう言った。
「うん。JR東海に入るんだ。」
「東海か・・・。ま、頑張れよ。」
「一真お兄ちゃんは何になるの。」
「別に何になってもいいじゃんか。」
「何・話してる。」
梓お姉ちゃんの興味が「スマイルトレイン」からこっちに移ったようで、一真お兄ちゃんに聞いている。
「将来、何になるかって話。」
を手話をしながら言う。
「光は将来電車の運転士だって。梓は何になりたい。」あーああ
「へぇ・電車・ドライバー。頑張って・応援・してる。私・パ・テ・ィ・シ・エ・ー・ル・なりたい。お菓子・作る・人。」
一真お兄ちゃんの通訳でそう言っているというのが分かる。
「お菓子作る人かぁ・・・。」
「お兄ちゃん・車・仕事・就きたい・らしい。」
「ちょっ、俺のはいいだろ。余計なこと言うな。」
たぶん、一真お兄ちゃんが将来なりたいものを梓お姉ちゃんは言ってくれたんだろう。だけど、手話分からないよぉ・・・。誰か教えて。




