387列車 淳おじさん
夕方、模型の部屋がある離れから出てくると庭に青い色のイン○レッサが入ってきた。もう、今じゃまず見ない初代のモデルだ。まだ辺りは明るいけど、ヘッドライトとフォッグライトをつけている。
「おじさん帰ってきたね。」
お父さんがそう言った。
すると車の到着に気付いたのか母屋から二人のメイドさんが出てきた。
「ああ、ようやっと着いた。」
そういい運転席から出てきた淳平おじさんは背を伸ばした。
「お帰りなさいませ、社長。それと、大変申し訳・・・。」
「いいの。そんなに固くならなくても。それよりも早くお風呂の準備してくれないか。もうヘロヘロだから。」
淳おじさんはそう言った。メイドさんたちはそれに頭を下げて、母屋の中へと入る。
「お帰り、淳兄ちゃん。」
お父さんはそう淳おじさんに声をかけた。
「おっ、帰ってきたな。ごめんごめん。帰ってきてもいなかったからビックリしたろ。」
「ああ、まぁね。」
「本当はもうちょっと早くつく予定だったんだけど、東北道で事故渋滞に思いっ切りはまってさぁ・・・。それで予定が狂いまくったから途中のサービスエリアで一晩余計に過ごして帰ってきたってわけ。」
「ああ、そうだったのね。」
「新東名150キロで走ってきたんだけどなぁ・・・。」
そう言いながら、淳おじさんは運転してきたイ○プレッサの助手席を見た。そこには真琴おばさんが寝ている。長旅で疲れたんだろう。真琴おばさんの実家は青森にあるって聞いてるから、そこから淳おじさん一人で運転してきたんだろう。一体何時間運転してるんだか・・・。
あっ、話は変わるが新東名150キロで走ったら普通捕まるだろうと思った人は多いだろう。じつは今新東名と新名神の片側3車線区間に限り、制限速度が120キロになっている。そのスピードが出せるのはバスとかトラックを除く普通自動車だけだけどね。あっ、でもいくら制限速度が120キロでも150キロじゃ捕まるか・・・。
「まこっちゃん、着いたぞ。起きろ。」
寝ていた真琴おばさんを起こし、車から荷物を降ろすと、淳おじさんはインプ○ッサを車庫にしまった。
ウチは淳おじさんの姿を探した。
「どうしたの。光君。」
うちの人探しを見て、真琴おばさんが声をかけてきた。
「淳おじさんはどこ。」
「そうね。車の所じゃないかな。あの人私との車が大好きだからね。」
そう聞いたので、車庫に行ってみると案の定だ。淳おじさんは工具を以て、車のエンジンルームへと顔を向け、黙々と作業をしていた。
「うーん。そろそろこれも寿命かな・・・もう30年以上乗ってるし、中古車だしなぁ・・・。」
一体何十万キロ走ってるんだろうか、あのイ○プ。
「おじさん。」
「んっ。あっ光君、どうした。車に興味でも湧いたのかな・・・。」
「ううん。そうじゃなくて、おじさんって社長になりたかったの。」
「別になりたかったわけじゃないな・・・。まぁでも、経営学とか学んでたからこっちにその気がなくても、そう言う既定路線があったのかもなぁ・・・。」
笑いながら、淳おじさんは手に持っていた工具を工具箱に入れた。整備が終ったのか車のボンネットもしめた。
「光君が将来何になりたいのかは知らないけど、もし運転士とかになりたいんなら、すっごく勉強しないとな。でないと鉄道会社には入れないぞ。もちろん、遠江急行にもね。」
「・・・。」
「うーん、やっぱりこいつも歳だなぁ・・・。」
「おじさんってどのぐらい勉強したの。」
「えっ。ああ、ほぼ毎日机に向かってたかなぁ・・・。」
(・・・やっぱりそれぐらいやらないとダメか・・・。)
「でも、机に向かって覚えるだけじゃダメだぞ。」
それにウチは驚いた。机に向かうだけじゃダメって・・・何。
「どうして。」
「ただ、覚えるだけだからだよ。覚えて、考えられるようにならないと。テストが出来ても、社会で答えは役に立たないからね。唯一役に立つと言ったら筆記試験ぐらいだよ。それも社会ぐらい。国語や英語は読解力がいるから、答え知ってたって意味はないだろ。」
そんなことウチに言われても・・・。
「コラ、淳君。」
そう言って真琴おばさんが淳おじさんの頭を叩いた。
「イテッ・・・。」
「光君にそんなこと言ってもまだわからないでしょ。つうかハードルあげすぎ。」
「・・・。」
確かに・・・。
「ごめん、難しいこと言いすぎたな。」
「ああ、いいよ、別に気にしてないから。それとありがと。」
参考になったとは言い難いけど、お礼は言っとかなきゃね。ウチはそれを言ったら車庫から離れて母屋に行った。
(亜美もそうかな・・・。うちにはまだ難しそうだけど、ちょっとずつやって行こうか・・・。)
「まこっちゃん。」
「なぁに。」
「そろそろこいつも楽にしてやった方がいいかなぁ。」
「結構乗ってるもんね。私達が付き合い始めた時ぐらいからだからもう20年くらいかな。」
「50万キロ超えたしどこもかしこもボロボロのはずなのに壊れないからなぁ・・・。何もかも絶好調すぎるのがこいつの欠点だな。」
ボロボロって、昼間この車で150キロを出した人が言うセリフか・・・。
「私は別に新車にしてもいいと思うけど。この子も満足でしょ。」
「・・・後は俺だけか・・・。」
登場人物
永島真琴




