386列車 永島家のジオラマ
夏の強い日差しが照りつける。でも、ここは快適だ。
あたりには大きなジオラマが展開する。複々線の本線に、ローカル線が走る田園風景の真ん中を行く単線。大きなEアンドS方式の貨物駅。そして、極めつけは新幹線がフル編成で走っても余裕のある連続立体交差の高架橋。
そう、これはお父さんの実家にある大きな模型だ。
線路にはE5系とE6系が組み合せた「ぶさこま」とE7系「かがやき」が走る。でも、この組み合わせで200キロ以上を出す区間は大宮から出発して上越新幹線が熊谷の方へ別れようとするほんの一瞬しかないのか・・・。と言っても、あの場所でどっちも200キロまで到達できているのかどうかは知らないけど・・・。
「今日も楽しんでるみたいだね。」
お父さんが話しかけてきた。
「うん。こんなに大きな鉄道ジオラマが自分のうちにあるんだよ。嵐山のジオラマとは違うんだから、楽しまないと。」
そう言った。
嵐山の鉄道ジオラマはギャラリーがいるからね。こんな風に独り占めできるわけじゃない。それに椅子があって、何時まで見ていても疲れないなんて言うのは一般に公開されているところではまずない。
関西の方には京都鉄道博物館っていう大きな博物館もある。そこにも鉄道ジオラマはある。HOゲージでここよりも規模は大きいが、自分で運転できるわけじゃない。運転されているところを見たり、昼から夜にかけての時の流れの演出を楽しむ。完全に見るものになっている。自分でいじるものじゃない。
「さて、お父さんも何か走らせようかな・・・。」
そう言い、お父さんは車両室に入っていった。だいたい持ってくるものは決まってるだろうけどね。
「よし、これ走らせていいかな。」
「いいよ。ウチが用意するね。」
持ってきたのは100系新幹線だ。お父さんの好きな新幹線だ。ウチはやっぱり500系かな・・・。えっ、N700SやE5系。彼らを500系と比べちゃダメだよ。
さて、ここで新顔の登場だ。N700S、N700系系列の中でJR東海が最高のN700系としてこの世に送り出した形式だ。形式はN700系3000番台。もともとN700系5000番台がスモールA化される前に名乗った形式だが、JR西日本に投入されたN700Sが6000番台と名乗ったところを見ると6000番台で投入するとJ西仕様が9000番台になってしまうため、それを回避したらしい。さ、予断はここまでにしてN700SはN700Aの発展進化版だ。従来のN700系のエアロダブルウィングからデュアルスプリームウィングという形状に変化。走行時の消費電力が従来車よりも7パーセント減したり、普通車窓側のみに設置されていたモバイルコンセントが普通車全席に拡大されたりとサービス向上が図られた。もちろん走行性能はそれまでのN700系と同等だ。
N700系0番台は2018年に試験車Y0編成(N700-9002)の投入から試験を重ね、2020年3月、Y0編成をY1編成(番号は9002のまま)に改め、他のY2編成以降の量産車とともに営業運転を開始した。基本従来のN700系との共通運用が組まれ、N700Sを狙い撃ちにことはまずできない。ただ「1号」、「265号」、「200号」、「202号」、「64号」(全列車「のぞみ」)にはよく運用に入る傾向があるらしい。
ここにも模型がある。全ての奇数号車に「S」の字が入ったロゴのついた車両がそれだ。
「でも、お父さんなんで100系新幹線好きなの。」
ウチはそう聞いた。
「えっ、だってカッコいいじゃん。」
いつもの答えだ。かっこよさなら500系には勝てないってお父さん認めてるのに・・・。
「100系新幹線は東海道・山陽走ってるので乗れなかったのだからね。その憧れもあるかな。」
「えっ・・・。」
それは意外。
「お父さん100系乗ったことないの。」
「うん。」
「好きなのに。」
「うん。」
てことはお父さんもウチと同じなんだ。止まっているところしか見たことがない・・・。JR東海に入ったらいろんなところにホイホイ旅行に行けるようになるかな。それならうちが今まで乗り逃したのも・・・。
「・・・。」
「どうした、光。」
「あっ、ううん。ようし、並べるぞ。」
車両ケースから123形をそっと出した。




