385列車 会うだけ
「・・・。」
星空を見た。滋賀県の星空って綺麗なところとあんまり楽しめない所とまばらにあるような気がする。夜間も照明がこうこうと灯るところは仕方がないけど・・・。
「ベテルギウスやリゲルは見えるかなぁ。」
智萌がそう言って隣に来た。
「見えるわけないでしょ。ベテルギウスもリゲルもオリオン座のα星とβ星なんだから。」
ウチはそれにそう答えた。ベテルギウスはオリオン座の左上、約642光年離れたところにある赤色超巨星。一説にはその大きさのせいで将来超新星爆発を起こすとされている太陽と同じ恒星だ。一方のリゲルはベテルギウスとは対角の位置にある青色巨星。ベテルギウスよりも巨大ではないが、質量は太陽よりも大きく重い星である。
宇宙にはリゲルよりも遥かに質量の大きい恒星もあれば、ベテルギウスよりも大きな恒星もあるという。そう考えると宇宙の壮大さを思い知らされる。
「R136a1とか見えないかな・・・。」
「・・・どこでそれ覚えたの。」
「ほら、ヨウツベで上がってる「コズミックフ○ント」だよ。」
「あっ、それね・・・。」
うちも見るやつだ。別に宇宙に興味あるわけじゃないけど・・・。なんで見るかって言われるとただの暇つぶしと答えるかな・・・。
「まっ、望遠鏡と同じぐらいの目が有れば見えるんじゃない。多分、見たら目がやられると思うけど・・・。」
「太陽よりも強力なんだってな。太陽と同じ位置にあったら生物を焼き切れるって相当だぞ。」
ようはそれだけ明るいってことだ。
R136a1は太陽の265倍の質量を持つという星。宇宙戦艦ヤ○トが向かう大マゼラン雲の中にあるタランチュラ星雲R136という領域にあるらしい。
多分、いや絶対だがガ○ラスとイ○カンダルはない。
「っていう冗談は置いといて、どうしたの、光。」
「別に。ただ、おじいちゃんが死んじゃっても悲しめない人もいるのだなぁって。」
「・・・悲しくないわけないでしょ。私達はおじいちゃんたちとは一緒に住んでないけど、悲しくないなんてないよ。」
「・・・だよね・・・。」
「誰かそういう人でもいたの。」
そう聞いてきた。ウチはそれに頷いただけだ。
「光が気にすることじゃないでしょ。私それ言った人とは会ったことないけど、何も光が間違ったこと言ったとは思ってないから。光も自信持ちなよ。」
「・・・ありがと。」
「にしても、ひどい事いう人もいるんだねぇ。」
「・・・智萌。」
「んっ。」
「いつ気付いたの。」
「光が戻ってきた時。」
「・・・さ・・・流石だね。」
「弟のことぐらいちゃんと理解してるっての。悩み事でもあったらお姉ちゃんにガンガン相談しなさいって。」
「それは断らせてもらうよ。」
「何で。」
「それとあんまり人の部屋にずかずか入って来るのやめない。」
「・・・良いだろ、私の弟なんだから。」
「ウチが智萌の部屋に入るのはどうなのさ。」
「ブラとパンツだけの時があるからそう言うときは気を付けて。」
「ちゃんと部屋の中でも服着てよう。」
ガチャ。ドアが開き、全員の視線がそちらに集まった。
「亜美っ。」
伊珠那がその声を上げる。
「亜美。」
咲夜が駆け寄ろうとすると
「来るなっ。」
その声が会場にこだまし、あたりは静まり返る。あたりからはヒソヒソ話が聞こえてくるが、誰からもすすり泣く声は聞こえない。誰もが奴の死を待ち望んでいたことなのかを裏付けるような雰囲気さえある。
「正直、ここに来る気はなかったわ。それとお母さんもお父さんも勘違いしないでちょうだい。私は来ただけで戻ってきたわけじゃないから。私の人生狂わせた毒の最期を拝みに来ただけよ。」
「お嬢様。いくら身内とはいえ言って良い事と悪いことが。」
後ろから瑞西が声をかける。
「お父さん、一つだけ確認させて。お爺様を殺ったのは葛生メイド長だってことはホントなの。」
「ああ。その通りだ。」
「そう。ならメイド長も体裁の為に解雇かしら。」
「それに体裁は関係ない。誰であれ、罪を犯した者は司法の場において裁かれなければならないからな。」
伊珠那のいうことは最もだと思う。司法が葛生を裁く。それは罪を犯したものとして当然のこと。でも、なんで。そんなことをしなくても。メイド長とはあんまり話さなかったからよくは知らない。だが、罪を犯すような人でないとは思っている。それは今でも同じだ。
「・・・。」
「・・・。」
「瑞西、帰るわ。」
「おっ、お嬢様。」
「亜美っ。」
「言ったはず。来ただけで戻ってきたわけじゃない。お葬式にはしっかりと参加するから。休むのはここじゃなくて、今住んでるところでするってだけ。あっ、お父さん。葛生メイド長、刑期終えたら私が雇ってもいいわよね。」
「それに関してはしないでほしいと聞いている。これ以上迷惑かけられないからだそうだ。」
「・・・そう。」
そう言い夜の街へと繰り出す。瑞西はあいさつを済ませ後を追ってきた。
「お嬢様。お葬式への参列には感謝します。」
今日あの家に行ったのは、お父さんたちが社長のいすや財産に目がくらんだわけじゃないことを確認するため。ネットの中にある誹謗は彼らバカの妄想でしかないということを自分の目と耳で確かめるためそう心に言い聞かせた。




