381列車 初めて話した
ゴールデンウィークに入った。中学校最初の課題ってものが出るのはある意味仕方のない期間だ。
「んーん。」
腕を上に向け、背中を伸ばした。
「ふぅ・・・。課題はこれで終わり。」
それで数学の問題集を閉じた。計画的に遣ればこんなものはチャチャッと終る。後は由佐ちゃんとか智萌ちゃんとかと遊ぶ時間になるだけだからなぁ・・・。まぁ、あの二人が素直に勉強してるとは思えないんだけど・・・。
「ちょっと散歩してこよう。」
親に散歩に出かけるといい、家を出た。と言っても当てがあるわけじゃない。プラプラと何も考えずにただ歩いて来るだけだ。家の近くにある公園に通りかかると中にいる人盛りに目が言った。近所の子供たちの遊び場になっている公園だ。夏ほど暑くない季節だし、日中から出てきているのは不思議じゃない。
「フフ・・・。」
そんな遊んでいる子供たちの姿を横目に歩いていく。
結構長い時間歩いていくとJRの線路にたどり着いた。
(結構長いこと歩いてたんだなぁ・・・。)
ふと周囲を見回した。光君か長宗我部君でもいるかな。そう思いながら探したがいない。ちょうど線路にはグレーの多い機関車が貨物列車を引っ張って通過していく。何故かわからないけど何時も見ているのよりは遅い。光君たちならなんで遅いかも、さっきの機関車も分かるんだろうなぁ・・・。
といつまでもJRを見ていても仕方がない。私は光君たちとは違ってJRで楽しめる人じゃない。JRに背を向けて、歩いてきた道を戻り始めた。ちょっと歩きすぎたかなぁ・・・。ちょっと足の裏が痛い。
公園が見えてきた。
(やっとここまで戻ってきたか・・・。)
家まではもうすぐだ。歩くスピードがちょっと速くなる。だが、その足は公園の前で止まった。
「光君。」
公園の中に光君の姿を見たからだ。
「へぇ、そんなこと親に教えてもらったんだ。」
「ああ。早くなってるのかは自分でもよく分からないんだけどね。」
「分からなかったらやればいいじゃ無い。出来高っていうのは自分一人でもわかるもんでしょ。まっ、ストップウォッチを押すせいで多少のラグがあるのは仕方ないけどね。・・・っ。」
亜美はそう言ってからブランコに座り、
「それって用は強制的に頭を計算の脳にしてるってことでしょ。特に集中力の切れやすい人にとってはそのやり方は効果的ね。自分に口でいうことで、自分は今計算しているという頭を作る。なかなか結構なこと考えるじゃない、光ちゃんのお母さん。」
「考えたのはお母さんじゃないよ。昔の先生なんだって。」
「・・・。」
それにちょっと驚いたようだったが、すぐにそれに納得したようだ。まぁ、普通の人が集中力を高めると言っても方法を伝授するっていうのは少ないからだろう。人それぞれ集中できる環境っていうのは違うからなぁ。
「ところで。」
亜美はそう言いブランコから離れ、出入口の方へ歩きはじめた。
「今日はもう帰るの。」
「ううん。ただ気になるのよね。」
「えっ。」
亜美は出入り口ではなく近くの茂みの方へと歩いていく。
「そんなところで盗み聞きするの。随分と怪しいことするのね。」
と言った。
「べっ・・・別に盗み聞きしたいわけじゃっ。」
そういい顔を出したのはモズだ。
「・・・。」
「あっ・・・その公園に光君がいるのが見えたから。」
「ふぅん。光ちゃんの事が好きだったりするのかしら。」
(ッ・・・。)
「まぁいいわ。貴方が光ちゃんのことを好きであろうとなかろうと、私と光ちゃんの話の邪魔にならないんだったら何でもいいわ。でも、邪魔になるようなら今すぐにでも・・・。」
「やめろよ、亜美。モズはそんな人じゃないから。」
「・・・そう。光ちゃんがそう言うなら信じるわ。」
そう言う彼女を見ながら、前に見たときのイメージと何ら変わらない服装であることを確認する。前に見た人はこの人だ。そう直感した。
「あっ、自己紹介がまだだったわね。私は崇城亜美。それで、貴方は。」
「な・・・中百舌鳥あさひ。」
「ふぅん・・・。だから「モズ」か・・・。漢字四文字って珍しいわね。」
中百舌鳥って感じにすると四文字になるんだよなぁ・・・。確かに言われてみれば珍しいかも。
「ところで、二人ともここで何を。」
「二人の夢の話。貴方には関係の無い事ね。」
「まぁ・・・そうだけど。」
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃん。」
ウチが言うと、
「光ちゃん、友達作るなとは言わないけどさ。あんまり友達づきあいばっかでもよくないよ。君のお母さんの言う通りJRは50倍とかになる狭き門、生半可じゃ入れはしないのよ。」
「生半可では入れないのは最近知ったよ。でも、モズに話してもいいでしょ。モズは秘密にしてって言えば秘密にしてくれる。ベラベラ他人に喋る人じゃないよ。」
「・・・いいわ。光ちゃんの方が付き合い長いんだろうからね。」
亜美がそう言ったので、ウチは
「ごめん、モズ。亜美も悪い人じゃないんだよ。ただ、ちょっと知られたくないことがあってさ。」
「・・・だからか・・・。カチンと来てたのよね。あの態度に・・・。」
「アハハ・・・。モズでも怒ることあるんだな。」
苦笑いするしかない。
「そりゃあるわよ。私だって人なんだから。でも、なんでそんなに人に知られることを嫌うの。光君と崇城さんの夢の話でしょ。ヤバいことは何もないはずじゃ。」
「うーん。その亜美の夢の話がヤバい事かな・・・。」
それにモズは首をかしげる。
「亜美の親は亜美がJRに入ることには反対なんだって。」
「そうなんだ。」
うーん、この反応はあんまり驚いてないなぁ・・・。むしろ当然の事のような・・・。
「でも、何で光君にはそう言うの話してるのよ。光君が好きなことからしてJRに入りたいのは分かるけどさ、でも親に話さないのに学校の友達ですらない光君に話す。」
「・・・最初にウチと会った時に女の子と勘違いされたから。」
「クククク・・・。」
それにモズは笑いをこらえきれなかったらしい。ウチにとっては笑い事じゃないんですけど・・・。
「あっ、ごめんごめん。つまり、光君じゃなくて光ちゃんだと思われたからこんな感じになっちゃったと。で、今はその誤解は解けてるの。」
「ああ、それはね。」
「お話は終った。」
亜美が割って入ってきた。
「えっ。」
「・・・親にばれたくない夢をかなえたいってことはよく分かったわよ。そして、それを絶対ばらされたくないってこともね。」
モズが言う。
「もう話すのはそれだけでいいわ、光ちゃん。それ以上は話しても結論は変わらないから。」
「ああ・・・。うん。」
「中百舌鳥。」
よく呼び捨てに出来るな・・・。それとも癖。
「盗み聞き呼ばわりしたのは謝るわ。でも、そう言うのはしないほうがいいわよ。」
「気を付けるわよ。」
「光ちゃん、また会おうね。会うときはまたLINEでね。」
「はい。」
そう言い残して亜美は公園から出て行った。
「崇城さんってどっか良いところのお嬢様だったりするのかな。」
モズがそう聞いてきた。
「分かんない。でも、よく洒落た服着てるからそうかも。」
「夢かなえるのに、必死なんだね。」
「うん。ウチも約束守るために必死にならなきゃ。」
「・・・なぁ・・・。」
煽るのは得意?




